米国バージニア州のシンコティーグ島は、野生化したポニー(小型馬)の王国だ。ボサボサのたてがみをもつ小柄でカラフルなウマたちは、1頭のオスと数頭のメスからなる小さな群れを作って、海岸を歩いたり、湿地の草を食んだりして暮らしている。
このウマたちは、1947年に発表されたマルグリート・ヘンリーの児童小説『シンコティーグのミスティ』によって有名になった。毎年7月になると、近くのアサティーグ島から海峡を泳いで渡ってくるウマを見ようと、数万人の観光客がシンコティーグ島を訪れる。島にすむウマの数を適切な範囲に抑えるため、泳いできたウマたちはその後、競りにかけられる。
シンコティーグ・ポニーは広く知られているにもかかわらず、その起源は謎に包まれている。地元の言い伝えでは、1750年頃にスペインのガレオン船がバージニア沖で沈没した際に漂着したウマの子孫だとされている。
しかし、その難破船に関する史料がないため、シンコティーグ島のポニーはもっと新しい時代に近辺で飼われていた家畜が逃げ出したものだろうと考えている歴史家が多い。(参考記事:「謎だった家畜ウマの起源、ついに特定」)
ところが、2022年7月27日付けで学術誌「PLOS One」に発表された論文で、シンコティーグ島の言い伝えが正しかった可能性が示された。証拠となったのは、約2000キロも離れたカリブ海の島で見つかったウマの歯に含まれていたDNAだ。研究者たちは論文で、この歯の持ち主だったウマと、バージニア州とメリーランド州の砂州島にすむポニーは近い関係にあると主張している。
米フロリダ大学の動物考古学者で、論文の著者の一人であるニコラス・デルソル氏は、カリブ海のウマとシンコティーグ島のポニーは、どちらも青銅器時代のスペインを起源とする進化的系統に属していると説明する。
今回デルソル氏は、450年前のウマの臼歯の破片を調べた。1980年にハイチ北部にあるスペイン植民地時代の遺跡プエルトレアルで収集された標本で、ウシの歯だと誤解されたまま、フロリダ大学の博物館の収蔵品として何十年間も忘れ去られていたものだ。
「思いがけない発見でした」と氏は言う。「ウシについて調べていたときに偶然、このウマのデータに出くわしたのです」
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