この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年9月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
海水浴客や行商人、それに家畜までもがバングラデシュで人気の行楽地コックスバザールに集まってくる。
バングラデシュのコックスバザールは、国外では世界最大の難民キャンプがある場所として知られている。隣国のミャンマーから暴力を逃れて来た100万人近いロヒンギャの人々が住んでいるのだ。だがバングラデシュ人にとって、コックスバザールはお気に入りの行楽地。ベンガル湾沿いに約95キロにわたって続く、世界屈指の長さを誇る天然の砂浜がある。
二つの顔をもつコックスバザールは、丘陵と検問所によって、ビーチと難民キャンプという「異質の世界」に分断されていると、両方を熟知する写真家のイスマイル・フェルドスは言う。彼にとって、コックスバザールは幼い頃に家族で海水浴に行った思い出の地だ。最近ではそこで、ロヒンギャの危機を取材している。
2020年初め、キャンプで撮影をしていたフェルドスは一息入れ、30キロほど離れた砂浜を散歩することにした。気温は38℃を超え、海岸は人でいっぱいだった。縫製作業員や通信会社の役員、行商人、イスラム神学校の生徒たちなど、さまざまな人々が浜辺で寝そべったり、散歩をしたりしている。午後の海水浴を楽しむためだけに、10〜15時間も夜行バスに揺られて来た人々もいた。