東京では2022年、猛暑日が歴代最多を更新した。世界各国で、高温の日が以前より頻繁になりつつある。こうした高温は、妊婦や胎児にどのような影響を与えるのだろうか。また、どんなタイミングが危険なのか、どんな地域でより深刻なのか、これまでの研究から紹介しよう。
アフリカ、ケニア南東部の街キリフィでは、夏の間、気温は38℃近くに達する。「昔から暑い土地ではありますが、今はものすごく暑いです」とナイロビにあるアガカーン大学の医療人類学者、アデレード・ルサムビリ氏は言う。
2021年の夏、ルサムビリ氏と同僚の研究者たちは、猛暑が妊婦や胎児の健康に及ぼす影響を調べるため、キリフィに住む妊婦とその家族、医療従事者、地域社会のリーダーたちにインタビュー調査を行った。医療従事者の1人は、早産や分娩時の合併症が増えていると証言している。(参考記事:「死の熱波、2100年には人類の4分の3が脅威に直面」)
こうした証言を裏付ける研究報告も相次いでいる。
たとえば、妊娠中に高温にさらされると、出生時の体重が少なく合併症のリスクの大きい「低出生体重児」が多くなるとする報告が複数ある。ほかにも世界27カ国における70の調査を分析した2020年の研究では、気温が1度上昇すると早産と死産のリスクが5%増すという結果が示された。この研究で対象となった地域は、米国や中国、ヨーロッパのほか、サハラ砂漠以南のアフリカ数カ国を含んでいる。
「大した数字ではないと思われるかもしれません」と、後者の論文の著者で南アフリカ、ウィットウォーターズランド大学の疫学者マシュー・ケルシック氏は言う。しかし気候変動により異常な熱波が頻発している今、気温の上昇が妊娠中および出産後の女性や新生児を、一層の危険にさらす可能性があることを論文は指摘している。(参考記事:「高温で亡くなる人の3分の1は気候変動が原因、研究」)
出産直前は要注意
猛暑が大きなリスクとなるのは、妊娠のどの期間だろうか? その答えはまだはっきりしないが、妊娠初期と後期に注意が必要なようだ。
解明を難しくしているのは、猛暑と個々の死産や早産の事例を結び付ける明瞭な兆候がないことだと、米ネバダ大学リノ校の疫学者、リンジー・ダーロー氏は言う。
こちらも複数の研究がなされており、研究者は妊娠期間と気温データを突き合わせ、猛暑の強度や持続日数など、どの要素がどう妊娠に影響しているかを調べている。
ある研究では、猛暑は出産予定日間近の妊婦に大きな影響を及ぼすと結論づけている。妊娠期間の終盤を高温の中で過ごすと、死産や早産を引き起こす確率が高くなり、生まれた赤ちゃんは呼吸器疾患や神経発達障害を患ったり、幼児期に亡くなってしまう可能性があるという。
一方で妊娠初期に高温にさらされると、胎児の心臓や脊髄(せきずい)、脳の発達に異常が生じ、早産や死産につながる可能性を示す研究結果もある。このほか、妊娠の全期間を通して、猛暑は妊婦に悪影響を及ぼすとする報告もある。(参考記事:「妊娠中の飲酒は子どもの脳にこれだけの悪影響をおよぼす」)
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