人間の赤ん坊が生まれて最初に上げる泣き声は、健康のしるしとされる。それまで肺で呼吸することのなかった赤ん坊が、生まれて初めて息を吸い、吐く。この吐く息が産声になる。
しかし、赤ん坊は産声の出し方をどうやって知るのだろうか? また、この泣き声が本当に言語発達の始まりなのだろうか?
新たな研究で、人間の赤ん坊は実際に産声を上げるはるか前から泣く練習を始めている可能性があることがわかった。ただし、人間が同じ霊長類の仲間であるマーモセットと似ていれば、という前提つきだが。
2022年7月26日付けで学術誌「eLife」に発表された研究では、妊娠したコモンマーモセット(Callithrix jacchus)の超音波映像を数十回にわたって撮影したところ、胎児は生まれる2カ月近く前から泣くときのような表情をし始めることが明らかになった。
また、この表情は子宮内の胎児がする他の口の動きと区別されたうえ、出生後の子どもが親に呼びかけるようになったときに見せる顔の形と一致した。この表情には明らかに一貫したパターンと持続時間があったため、研究者らは、胎児が声を出せない時期から泣く練習をしていることを確信した。(参考記事:「赤ちゃんが産声を上げられるのはオートファジーのおかげ? 東大の最新研究を解説」)
よりヒトに近い実験動物
マーモセットは世界最小級のサルで、体重はおとなでも225〜255グラム程度しかない。20を超える種があり、いずれも南米原産だ。人間と身体的な違いはあるものの、霊長類であるため、実験で使われることの多いマウスなどの動物よりもヒト(Homo sapiens)と近い関係にあり、人間の発達や行動を理解する上でより役に立つ。
1970年代と1980年代にも、妊婦を対象にした超音波撮影によって、胎児が子宮内にいるときから泣くときと同じ表情を作っていることを示す研究があったと説明するのは、今回の論文の著者の一人で、ブラジルのリオ・グランデ・ド・ノルテ連邦大学脳研究所の動物行動学者であるダニエル・タカハシ氏だ。だが、妊婦に対して頻繁に超音波撮影を繰り返すことには問題があるため、この発見を長期にわたって追究することが難しかった。
「しかし、マーモセットならサルですし、たくさん声を出すことがわかっており、人間と共通する特徴も数多くあります」と、今回の研究を米プリンストン大学神経科学研究所と共同で実施したタカハシ氏は述べる。