「動物の心」を撮影するなかで、写真家たちが学んだこと

動物たちをよく観察すれば、彼らはさまざまなことを教えてくれる

2022.09.29
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「エド」はスフィンクスと呼ばれる種類のネコ。好奇心が強く、社交的で、愛情深く、人の感情に敏感に反応する。「おしゃべり」も大好きで、名前を呼ぶとのどをごろごろと鳴らす。写真の中のエドは耳を前に向けこちらに集中している。細くなった瞳孔はリラックスしている証拠だ。(PHOTOGRAPH BY VINCENT LAGRANGE)
「エド」はスフィンクスと呼ばれる種類のネコ。好奇心が強く、社交的で、愛情深く、人の感情に敏感に反応する。「おしゃべり」も大好きで、名前を呼ぶとのどをごろごろと鳴らす。写真の中のエドは耳を前に向けこちらに集中している。細くなった瞳孔はリラックスしている証拠だ。(PHOTOGRAPH BY VINCENT LAGRANGE)

 動物は感情をもつのだろうか?

 イヌやネコが、幸福感やストレス、不満、脅えを感じていることは、これまでの調べでわかっている。イヌの場合は飼い主の感情を察することもできるようだ。(参考記事:「飼い主の感情は犬に「伝染」する、どうやって?」

 ほかの動物たちはどうだろうか? 行動学の研究から、動物たちが認知能力だけでなく感情を持っていることがわかってきた。ナショナル ジオグラフィック2022年10月号特集「動物たちの心」では、共感や思いやりといった複雑な感情を示す動物たちを紹介することにした。

 しかし、動物の心を写真で表現するのは容易でない。今回の企画では、表紙のネコ(スフィンクス)を撮影した写真家ビンセント・ラグランジュ氏のほか、数人の優れた写真家に協力を依頼した。そのうちの2人、ヤスパー・ドゥースト氏とパオロ・ベルゾーネ氏にどのようにして動物の心を写真に収めたかを聞いた。

特集記事の舞台裏

 ドースト氏は、鏡に映る自分の姿をじっと見つめるニホンザルと、MRI(核磁気共鳴画像装置)検査を受けるオーストラリアン・シェパードを撮影した。撮影にはそれぞれ違った難しさがあり、その場で考え、解決しなければならなかったという。

オーストリア、ウィーン大学が研究するオーストラリアン・シェパードの「ノフィ」は、MRIの中でじっとしているように訓練されている。イヌの脳では人間の脳と同じ領域が活性化することが観察からわかっている。褒められると脳の報酬系が、飼い主の動画を見ると愛着に関連する領域が活発になる。(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)
オーストリア、ウィーン大学が研究するオーストラリアン・シェパードの「ノフィ」は、MRIの中でじっとしているように訓練されている。イヌの脳では人間の脳と同じ領域が活性化することが観察からわかっている。褒められると脳の報酬系が、飼い主の動画を見ると愛着に関連する領域が活発になる。(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)

 オーストラリアン・シェパードを撮影する時は、撮影用の照明が使えなかった。イヌを驚かせてしまうのと、MRI画像に影響が及ぶかもしれなかったからだ。

「読者がイヌと一緒に検査室にいるように感じてもらえるよう、被写体と距離を保ちながらも親近感のある写真が撮れるように工夫をしました」とドゥースト氏は語る。

 ニホンザルを撮影したのは、野生のニホンザルが自由に出入りできる公園の中だ。動き回るサルたちに集中力が削がれた。そこでドゥースト氏はサルを追いかけるのではなく、忍耐強く、じっと撮影の機会を待ったという。

鏡に映る自分の姿を見つめるニホンザル。サルの一部は類人猿と同様に、鏡に映る姿を自分だと認識しているようだ。動物に自己認識力があるかどうか調べるのに、科学者はいわゆる「ミラーテスト」を用いる。人間では生まれてから18カ月ほどで備わる能力だ。(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)
鏡に映る自分の姿を見つめるニホンザル。サルの一部は類人猿と同様に、鏡に映る姿を自分だと認識しているようだ。動物に自己認識力があるかどうか調べるのに、科学者はいわゆる「ミラーテスト」を用いる。人間では生まれてから18カ月ほどで備わる能力だ。(PHOTOGRAPH BY JASPER DOEST)

 撮影は別々に行ったドゥースト氏とベルゾーネ氏だが、今回の特集記事が持つ意味については一致している。

 ドゥースト氏は記事を通して読者が動物に対する見方を変え、共感を覚えてくれたらと願っている。人間と動物に「大きな違いはありません」と彼は言う。「見かけや行動が違っていても、まったく異なる存在ではないし、人間が動物よりも重要だということでもありません」

次ページ:動物たちから学んだこと

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