解読不能な謎の古代文書、ボイニッチ手稿からギリシャの円盤まで

そこにはどんな秘密が隠されているのか?

2022.11.29
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イースター島のモアイ像は一枚岩からできている。モアイ像に関する説明の記録は存在しない。(PHOTOGRAPH BY KENT KOBERSTEEN/NATIONAL GEOGRAPHIC IMAGE COLLECTION)
イースター島のモアイ像は一枚岩からできている。モアイ像に関する説明の記録は存在しない。(PHOTOGRAPH BY KENT KOBERSTEEN/NATIONAL GEOGRAPHIC IMAGE COLLECTION)

 文字や記号がびっしり書かれた古代の遺物は、考古学者にとっては夢のようなお宝だ。当時の様子をこれほど詳しく教えてくれるものはない。1799年に奇跡的に発見されたロゼッタストーンは、1822年に解読され、エジプトの象形文字に関する詳細を解明するのに役立った。(参考記事:「ロゼッタストーン、古代文明の謎解きにどう役立った?」

 しかし時には、発見されたすばらしい文書が、頑としてその秘密を明かそうとしないこともある。今回は、謎の記号が刻まれた円盤から、イースター島の文字板、そして当時は知られていなかったはずの大陸が描かれた16世紀の世界地図まで、謎の多い古代文書5件を紹介しよう。そこにはどんな秘密が隠されているのだろうか?(参考記事:「「世界の奇書」の謎と秘密」

ファイストスの円盤

 紀元前3000年から紀元前1100年にかけて、ギリシャのクレタ島ではミノア文明が栄え、世界最古の都市社会の一つを築いていた。彼らは複雑な構造の宮殿を建設し、高度な給排水設備や暖房設備を持っていた。(参考記事:「怪物ミノタウロスが古代の人々を魅了したのはなぜ?」

 イタリアの考古学者ルイジ・ペルニエが発掘調査を行っていたファイストスの宮殿跡で1908年に発見された不思議な粘土製の円盤も、彼らが残したものだと考えられている。円盤は紀元前1700年頃のものと推定されており、直径は16センチほどで、242個の記号が渦巻き状に刻印されている。 記号の多くは、入れ墨をした人の頭部、矢、プラタナスの木、ネコ、ハチの巣など、一目で認識できる形をしている。これらは音節を表している可能性があるが、数が少なすぎて解読は不可能だ。同様の記号が刻まれた遺物は、ほかには発見されていない。

ファイストスの円盤(PHOTOGRAPH BY PJRTRAVEL/ALAMY)
ファイストスの円盤(PHOTOGRAPH BY PJRTRAVEL/ALAMY)

 円盤に記されているのがクレタ島の住民の言葉なのか、外国語なのかという点でも意見が分かれる。外側から内側に向かって読む、音節を表す文字だという人もいれば、内側から外側に向かって書かれた、音を表す文字だという人もいる。記号が刻印されているという事実は、こうした円盤が大量生産されていたことを示しているのかもしれないが、他にそれを裏付けるような発見はされていない。

 中には、円盤自体が捏造品だとする専門家もいるが、本物だというのが大方の意見だ。謎に包まれた初期ミノア文化のほかの遺物と同様に、この円盤も秘密のベールに包まれている。

ボイニッチ手稿

 ボイニッチ手稿は、暗号解読者にとっては喜びと悩みの種だ。240ページに及ぶこの絵入り文書は未知の言語で書かれていて、占星術の記号や、正体不明の植物や、奇妙な人物のイラストが何百点も添えられている。イラストから考えると、この本は、植物学、天文学と占星術、生物学、宇宙論、薬学、そして装飾的なマークが付いた文字が続く部分の6つのセクションに分かれている。(参考記事:「ギャラリー:解読不能!ボイニッチ手稿に書かれた謎の文字とイラスト 画像12点」

ギャラリー:解読不能な謎の古代文書、ボイニッチ手稿からギリシャの円盤まで 写真9点(画像クリックでギャラリーへ)
ギャラリー:解読不能な謎の古代文書、ボイニッチ手稿からギリシャの円盤まで 写真9点(画像クリックでギャラリーへ)
ボイニッチ手稿 (IMAGE COURTESY OF BEINECKE RARE BOOK AND MANUSCRIPT LIBRARY, YALE UNIVERSITY)

 これまでに多くの暗号解読者が手稿の解読を試みたが、いずれも失敗に終わった。これは薬草の説明書なのだろうか? それとも錬金術の入門書なのだろうか? 2019年には、ある研究者が解読に挑戦し、ドミニコ会の修道女が婦人科の病気の治療法について記したものだと主張している。

 上質な羊皮紙に書かれたこの手稿は、1912年にこれを購入したポーランド系米国人の書籍店主ウィルフリッド・ボイニッチにちなんで名付けられたが、成立年代はもっと古い。持ち主をたどっていくと、神聖ローマ帝国皇帝ルドルフ2世(在位:1576年〜1612年)が600デュカートで購入したこともわかっている。最近の分析で15世紀初頭に書かれたことが判明したこの手稿は、誰にも解読されることなくさまざまな所有者の手を渡り歩き、その内容をめぐる論争は今も続いている。(参考記事:「謎のボイニッチ手稿にAI、解読方法が判明?」

次ページ:ピリ・レイスの地図に描かれた大陸

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