【解説】NASA探査機が小惑星に命中、史上初の地球防衛実験

いつの日かやってくる小惑星の衝突を避けるための画期的な一歩

2022.09.28
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衝突の直前、小惑星ディモルフォスに接近する探査機DARTからの眺め。(PHOTOGRAPH BY NASA TV)
衝突の直前、小惑星ディモルフォスに接近する探査機DARTからの眺め。(PHOTOGRAPH BY NASA TV)
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 地球から約1100万キロ離れた場所で、時速2万2000キロ超で進む探査機が、はるか昔から宇宙空間を漂っていた小惑星に激突した。

 NASAの探査機「DART(二重小惑星軌道変更実験)」と、直径約160メートルの小惑星「ディモルフォス」は、日本時間の27日午前8時14分頃に衝突し、人間が意図的に天体の軌道を変更させた初めての事例となった。これはまた、いつの日か地球に衝突する小惑星の軌道をそらすために活用できる大胆な地球防衛戦略の初めての実験でもある。

 科学者らは、惑星規模の大量絶滅を引き起こすほど大きな小惑星が地球に向かってくることは、今後少なくとも100年間はないと確信している(それ以降は軌道の予測が難しくなる)。しかし、より小規模な、都市を破壊できる程度の隕石が突然宇宙からやってくるというのはありえないことではない。そしていずれは、それが数百年後か数千年後、あるいは数百万年後かはわからないが、地球上の生物が小惑星によって存亡の危機に直面する日が来ることはほぼ確実だ。

「地球が小惑星に破壊されることについて、わたしはさほど心配しているわけではありませんが、将来的にそうした事故を回避できる可能性がある世界に生きているというのはすばらしい気分です」と語るのは、DARTミッションを監督する米ジョンズ・ホプキンス大学応用物理学研究所(APL)のナンシー・チャボット氏だ。「今回の実験は最初のステップに過ぎませんが、SFの産物が科学的な現実になると思うとワクワクしてきませんか」

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 その第一歩として、NASAは探査機DARTを死出の旅へと送り出した。目標に接近する間、DARTはディモルフォスの画像を大量に撮影した。画像の中のディモルフォスは、針の先ほどの光から、みるみるうちに画面を覆い尽くすほどにまで大きくなり、そして衝突の瞬間にはすべてが真っ暗になった。

 ディモルフォスは、より大きな小惑星「ディディモス」の周りを周回しており、これら2つの小惑星が地球に害を及ぼすことは一切ないと考えられている。史上初の地球防衛実験において、DARTの目標としてNASAがディモルフォスとディディモスを選んだ理由のひとつはそこにある。

 1996年に発見されたディディモス(ギリシャ語で双子の意)は、直径800メートルほどの小惑星で、これについては比較的研究が進んでいる。一方、ディディモスが従えている小さな衛星については、DARTが衝突する直前まで、だれもその姿をはっきりと見たことがなかった。DARTチームは最近になって、この小惑星にギリシャ語で「ふたつの形を持つ」を意味するディモルフォスという名前を付けた。衝突前と衝突後で形が変わるというのがこの名前の由来だ。

 探査機を小惑星に衝突させると聞くと、まるで地球を破滅させる隕石を粉々に吹き飛ばすハリウッド映画の筋書きのようにも思えるが、DARTはディモルフォスを消し去ることを目指したわけではない。DARTの目標は、ディモルフォスを軽く弾いてその軌道を変化させることだった。

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