毎年9月中旬、イタリア南部カラブリア州の海辺にある小さな町、ディアマンテはアツく盛り上がる。5日間で最大20万人がこの町を訪れ、漁師や聖人、抽象芸術などの印象的な壁画を背景に、カラブリア名産のトウガラシを祝うのだ。
カラブリアで最も一般的なトウガラシの品種である深紅のディアボリッキオを乾燥させた束がバルコニーからぶら下がっている。町の広場には、巨大なトウガラシの像が立っている。赤い服、トウガラシを模したイヤリング、手作りの王冠を身に着けた人々が海辺を歩いている。
ペペロンチーノ(唐辛子)フェスティバルは30周年を迎えたが、多くの意味で、2022年はこれまでと違う一年になりそうだ。イタリアは2022年、気候変動に起因する猛烈な熱波と少雨のため、過去70年以上で最悪の干ばつに見舞われた。その結果、イタリアの農業は、特に北部で大きな打撃を受け、米、小麦、トウモロコシ、オリーブ、トマトといった作物の収量が最大70%も減少した。(参考記事:「猛暑と干ばつでイタリアのコメに壊滅的被害、4000億円超の損失」)
ほかの作物ほど水を必要としないトウガラシはそれほど被害を受けていないが、無傷で済んだわけではない。カラブリア最大級のトウガラシ農場を持つバッレ・ラオ・アグリカルチャーの共同経営者マリア・ビッジャーノ氏は、シチリアと並ぶイタリア最大のトウガラシ産地であるカラブリアでは、「今年の収量は20〜30%くらい減っています」と語る。
しかし、カラブリアには水が十分あるため、収量が減った原因は干ばつではなく、容赦ない暑さだ。夏の間、気温が平年より8℃以上高い38℃前後まで上昇した。それでも、トウガラシの適応力と汎用性のおかげで、経済的な損失は最小限に抑えられているとビッジャーノ氏は話す。
多くの人にとって、2022年のフェスティバルはまさにそれをたたえるものだ。気候変動によって激しく頻繁になっている気温の急上昇に直面しながら、たくましく生き抜くトウガラシを。
敵対視されたトウガラシの過去
小さなボタン形、細長いもの、指の関節を曲げたようなものなど、フェスティバルの期間中、形も大きさもさまざまなトウガラシがあちこちに並んでいる。オイルやグラッパに漬け込んだり、ヤギのチーズに混ぜたり、粉にしたり、イワシと組み合わせたり、香辛料が利いたポークソーセージのペーストであるンドゥイヤなどの伝統料理に使われたりしている。トウガラシをテーマにした映画の上映会やレッド・ホット・チリ・ペッパーズのカバーバンドによる演奏も行われる。
なかでもメインイベントは制限時間30分のトウガラシ大食い競争だ。カラブリアのトウガラシはハラペーニョとカイエンの中間くらいの辛さで知られる。2022年の大食い競争は、2人が約680グラムで優勝を分け合った。
フェスティバルの創設者で、イタリアトウガラシ学会の会長でもあるエンツォ・モナコ氏は「町全体が活気づきます」と語る。
1992年、モナコ氏が仲間とともにディアマンテでペペロンチーノフェスティバルを始めたとき、トウガラシそのものというより、その有名な媚薬効果に焦点を当てた。「私たちは高さ3メートルほどの男性のシンボルをつくりました」とモナコ氏は振り返る。
だが、フェスティバルが盛り上がり、イタリア全土から観光客が集まるようになると、敵対者が現れ始めた。「神父や教会が反発し始めたため、トーンダウンしなければなりませんでした」とモナコ氏は話す。