南ライン諸島 よみがえるサンゴ礁

世界に類を見ないサンゴの復活劇

2022.10.28
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中部太平洋に位置するボストーク島のサンゴ礁は、わずか5年の間に、高水温による大打撃と復活を経験した。2015~16年のエルニーニョ現象でハナヤサイサンゴ属の大半が死滅したが、生き延びたこのチヂミウスコモンサンゴが礁をよみがえらせた。(National Geographic Society/Pristine Seas)

この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年11月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

2016年の高水温で壊滅的な被害を受けたサンゴの楽園が驚くべき回復を遂げた。

 世界に類を見ないサンゴの復活劇が最近、明らかになった。その目覚ましい再生は、私たちの励みとなる。

 この復活劇がどのように起きたかを理解するには、2009年4月まで時を戻す必要がある。

 当時、私は海洋生物学者のチームを率いて、中部太平洋にあるキリバス領内の絶海の無人島群である南ライン諸島に初めて遠征した。五つの島は8500万〜7000万年前に海面に現れた古い火山群の頂上に当たる。諸島名は、海面下にあるこの山脈が、「ライン」と呼ばれる赤道付近を横切ることに由来する。

サンゴ礁の回復力
サンゴ礁の回復力
2009年以降に南ライン諸島で収集されたデータによれば、礁を完全に保護し、魚の生息数を保っている限り、サンゴは回復可能だ。太平洋上の赤道付近に約3800キロにわたって連なるキリバスの三つの群島のうち、ライン諸島は最も厳格に保護されている。
(ROSEMARY WARDLEY, NGM STAFF. 出典: PRISTINE SEAS, NATIONAL GEOGRAPHIC SOCIETY; ALLEN CORAL ATLAS AND ARIZONA STATE UNIVERSITY; PLANET LABS; FLANDERS MARINE INSTITUTE( 2019); MARITIME BOUNDARIES GEODATABASE)

 目的は、島々の周辺にすむ海洋生物について初の科学調査を実施すること。この海域は、まだほとんど研究されていなかったのだ。

 実際に潜ってみると、そこには楽園が広がっていた。手つかずの礁にはサンゴが密集して大きな魚がひしめき、サメをはじめとする最上位の捕食動物も非常に豊富で、彼らのバイオマス(重量に換算した生物資源の量)は、獲物のバイオマスを上回っていた。潜水するたびに絶滅危惧種を見ることができた。南ライン諸島は、サンゴ礁に対する私たちの認識を変えた。

チヂミウスコモンサンゴの上で、オグロメジロザメが、ハナダイダマシなどの大群の間を泳ぐ。南ライン諸島周辺のサンゴ礁は小型の魚が豊富で、非常に短期間で繁殖するため、最上位の捕食動物が数多く生きていける。(PHOTOGRAPH BY ENRIC SALA)
チヂミウスコモンサンゴの上で、オグロメジロザメが、ハナダイダマシなどの大群の間を泳ぐ。南ライン諸島周辺のサンゴ礁は小型の魚が豊富で、非常に短期間で繁殖するため、最上位の捕食動物が数多く生きていける。(PHOTOGRAPH BY ENRIC SALA)
ナショナル ジオグラフィック協会のエクスプローラー・イン・レジデンスである海洋生態学者のエンリック・サラが仲間とともに南ライン諸島に戻ってきた。(National Geographic Society/Pristine Seas)

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