カナリア諸島 火山の島に生きる

歴史の長いスペイン領カナリア諸島のラ・パルマ島の噴火。共生の道はあるのか

2022.10.28
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2021年9月、クンブレ・ビエハ火山の尾根に新たな火口ができ、カナリア諸島としては過去500年で最大規模の噴火が始まった。溶岩が上空600メートルほどまで噴き上がり、何百メートルも離れた地点にその塊が降った。(PHOTOGRAPH BY CARSTEN PETER)
2021年9月、クンブレ・ビエハ火山の尾根に新たな火口ができ、カナリア諸島としては過去500年で最大規模の噴火が始まった。溶岩が上空600メートルほどまで噴き上がり、何百メートルも離れた地点にその塊が降った。(PHOTOGRAPH BY CARSTEN PETER)

この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年11月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

スペイン領カナリア諸島のラ・パルマ島では、溶岩流が住宅や農地をのみ込み、住民たちを震え上がらせた。荒ぶる火山とともに生きる教訓とは?

 地下世界への入り口に近づくと、高熱のせいで前方の空気が揺らめいている。スペイン領カナリア諸島のラ・パルマ島の真っ黒な光景の中、私は耳の中で風がうなるのを感じながら、案内役のオクタビオ・フェルナンデス・ロレンソの足跡を慎重にたどる。

「これ以上は進めません」と彼は突然言うと、目的地である溶岩チューブと呼ばれる洞穴の入り口まで数メートルというところで立ち止まった。入り口付近の温度はつい先日のドローンによる測定で170℃を記録していた。カナリア諸島洞窟学連合の副会長を務めるフェルナンデス・ロレンソは洞穴の温度が下がって、調査できるようになるのをずっと待っている。いずれは洞穴内部に入り、同諸島としては過去500年で最大規模の噴火について、何らかの情報を得たい考えだ。

 ラ・パルマ島のクンブレ・ビエハ火山で噴火が始まったのは、2021年9月19日。それから86日近くにわたって、尾根の亀裂から溶岩が流出し、網の目を描くように分岐と合流を繰り返しながら、ゆっくりと流れ下った。噴火による直接の死者はいなかったが、2億立方メートルを超す溶岩が噴出し、灰と岩の集積によって高さ200メートルほどの円すい状の丘が形成された。私たちは今、その上に立っている。ほんの1年前まで、ここは住宅が点在し、マツが茂る森だった。しかし今では、木々の一番上の枝、街灯の先端、屋根の棟といった部分だけが、黒く粗い大量の砂の上から見える。もっと上に登ろうとフェルナンデス・ロレンソが提案するが、ガスマスクで声がくぐもっているせいもあって、この暗然とした光景にあっけに取られている私の耳にはほとんど入らない。そのとき、彼の口調が変わった。

数カ月間にわたり、溶岩は斜面を流れ下りながら、何もかもをのみ込んでいった。火口から海岸までの5キロ半の間にあった住宅やレストラン、商店、教会、農地、そして学校が溶岩の下に埋もれてしまった。(PHOTOGRAPH BY CARSTEN PETER)
数カ月間にわたり、溶岩は斜面を流れ下りながら、何もかもをのみ込んでいった。火口から海岸までの5キロ半の間にあった住宅やレストラン、商店、教会、農地、そして学校が溶岩の下に埋もれてしまった。(PHOTOGRAPH BY CARSTEN PETER)

「早く上がれ! 上だ! 上だ!」とだんだん語気を強めながら、叫んだ。「焼け死ぬぞ」。風向きが突然変わって、突風が私たちの方に吹いてきたため、危うく高温の空気に焼かれるところだったのだ。私たちは崩れる地面に足を取られながら、円すい丘の急な斜面を必死に登った。

 ラ・パルマ島の噴火の歴史は長いが、噴火しても危険だと思われていなかった。ここの溶岩はゆっくりと流れる性質のため、激しい爆発を伴わないからだ。この島で前回噴火が起きたのは1971年のこと。そのときは、南岸に近い、人口がまばらな地域の割れ目から溶岩が噴き出したが、被害は比較的小さかった。だがその後、島の人口が増えた。現在では707平方キロの土地に8万6000人が暮らしている。2021年の噴火では2800棟を超す建物、350ヘクタールの農地、70キロの道路が溶岩に埋もれた。マグマがいつまでも冷めず、経済的な見通しも立たないことから、再建はまだまだ先の話だ。

「ラ・パルマは火山がつくった島です」とフェルナンデス・ロレンソは言う。「火山とともに生きていくすべを学ばなくてはなりません」

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