この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2022年11月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
首都カイロの混雑を緩和するため、大胆かつ野心的な計画が進行している。砂漠のど真ん中に、人口600万人規模の新たな首都を建設中なのだ。
15年ぶりに訪れたエジプトは見違えるほどの変貌ぶりだった。首都カイロのナイル川沿いには、「エジプト人の歩道」というプロムナードができていて、まだ最初の1キロ半の区間が開放されただけだが、それでも美しい河畔の風景を見渡すことができた。そのそばにあるマスペロ・トライアングルという地区では、大規模な再開発工事が進んでいた。これは、エジプト全土で計画されている357カ所の住宅区域撤去の一環だ。
ナイル川に浮かぶワラックという小さな島では、ホテルの建設用地を確保するため、すでに数百軒の住宅がブルドーザーで取り壊された。さらに、国外でもよく知られている、ナイル川で水上生活をする人々のハウスボートも次々と解体されたり、撤去されたりしている。
私はカイロを後にして北へ向かった。緑あふれる農地を抜け、地中海を臨む都市アレクサンドリア周辺に広がる砂漠地帯に着いた。沿岸には新たな町がいくつか建設中で、それらを結ぶ道路の整備も行われている。4年前、この地に「ニュー・エル゠アラメイン・シティー」という豪華なリゾート地が出現した。総工費は約8兆7000億円で、三つの大学と大統領宮殿も建設される予定になっている。ラテン・クオーターという富裕層向けの地区にある海辺のマンションでは、四つの寝室を備えた部屋が最低価格3625万円から売り出されていた。
カイロに戻った私は、今度は東に向かい、ニューカイロを訪ねた。この衛星都市は東部砂漠の一角に位置していて、前回来たときにはほとんど何もなかったが、今は真新しい高層のオフィスビルや高級レストランが立ち並んでいる。
さらに東へ向かって車を走らせること30分、所々舗装の終わっていない幹線道路を進むと、目の前に広大な建設中の都市が現れた。新行政首都だ。正式な都市名はまだ決まっていないし、現在の人口は計画されている600万人のうちのごく一部だが、この新首都こそ、エジプトの野心的な近代化計画の核となるものだ。つい最近まで砂漠だったこの一帯にも、1年後、もしくはそれよりも早く、数多くの美しい住宅が建つ予定になっている。
その光景は、毎日が混沌そのものであるカイロとは、まったく異なるものとなるだろう。新首都では、あらゆるものが整然とし、洗練され、娯楽施設も充実する。博物館、レストランやショッピングモール、大理石をふんだんに使用したオペラハウス、500万冊の蔵書を誇る図書館などが完成する予定だ。新たに建設される高速鉄道のおかげで、カイロや地中海沿岸のリゾート地へも簡単に行けるようになる。
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