高まる希望とともに幕を開けた2021年。ワクチン接種でコロナ禍が収束するという期待が広がった。しかし、楽観的なムードをぶち壊すように、紛争が各地で火を噴き、変異株が猛威を振るい、気候変動の影響を思い知らされるような大災害が相次いだ。結局、2021年は大変な1年になった。
インドネシア人フォトジャーナリストの、ムハンマド・ファドリは、2021年7月、車に撮影機材を積んで、首都ジャカルタの郊外にある墓地に向かった。そこで彼は自分がいかに間違っていたかをまたもや思い知らされた。しかも今回はさらに痛烈に……。3月と4月の何週間か、ファドリはコロナ前のような生活ができるようになると、自分に言い聞かせていた。その頃、保健当局が全土でワクチン接種を推進し、市場はにぎわいを取り戻していたし、ショッピングモールも再開し始めていた。
だが違った。新型コロナウイルス感染症で多数の死者が出たため、ジャカルタの主要な公営墓地はどこも満杯になって、市当局は新たに6カ所の埋葬場所を設置した。ファドリが訪れた墓地もその一つだが、整備された区画はすでにいっぱいになっていて、遺族が真新しい墓に祈りをささげる傍らで、重機がうなりを上げて拡張工事が進められていた。
墓地の入り口には数分ごとに霊きゅう車が到着する。ファドリは、二つ以上の棺(ひつぎ)を収めた霊きゅう車が多いことに気づいた。「四つの棺を積んだ霊きゅう車もありました」。2021年9月に電話でそう聞いたとき、彼も私もその光景を思い浮かべて、しばし黙り込んだ。
このとき私は米国カリフォルニア州の自宅にいた。州北部の五つの郡で森林火災が発生していたし、それとは別に9万ヘクタール近く延焼した森林火災がタホ湖南岸のサウス・レイク・タホにじわじわと迫ってもいた。一方、ファドリがいるインドネシアでは夏の間中、1日の感染者数が人口比でインドを超えた。「私の義理の兄弟も義父も感染し、義理の姉妹は15日ほど入院していました」とファドリが教えてくれた。「幸い、みんな助かりましたけど」
2021年の出来事を写真で記録するなかで、ファドリは否応なしに、苦痛と絶望、喪失感に打ちのめされた人々を目の当たりにすることになった。その一方で、底知れぬ力を秘めた人間の決意に希望を見いだせる場面にも出くわした。たとえばワクチンの集団接種会場となった市営のバスターミナルには、率先して接種を受ける決断をした人たちが大勢詰めかけていた。小学校の教室をのぞくと、男の子はネクタイを締め、女の子はスカーフをかぶった制服姿で、全員マスクをして授業を受けていた。教材を手に木製の机の間を歩いて、子どもたちを見守る先生もマスク姿だが、目元には優しい笑みが浮かんでいた。
ナショナル ジオグラフィックが1月号を一冊丸ごと、写真家たちの心をとらえた前年の光景で埋め尽くすのは今回で2回目だ。2021年1月号も、幕を閉じたばかりの混乱と悲哀の1年を凝縮して見せる写真の数々で埋め尽くされていた。その号が出たときには、新しい年はあふれる希望に輝いているように見えた。史上最速で実現したワクチン開発、全世界で推進される史上最大の接種計画、医療従事者と高齢者に優先的に接種すべきだという国際的な合意……。