謎に包まれた「見えないマナティー」、見る方法をついに発見

濁り水にすむ“幽霊”ことアマゾンマナティー、生態や個体数調査の進展に期待

2022.12.29
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
ペルー北東部のイキトス近郊にあるマナティーのリハビリ施設「アマゾン救助センター」(CREA)で、マナティーを研究する生物学者のダニエル・ゴンザレス・ソコロスケ氏がアマゾンマナティーに手を差し出す。(PHOTOGRAPH BY JASON GULLEY)
ペルー北東部のイキトス近郊にあるマナティーのリハビリ施設「アマゾン救助センター」(CREA)で、マナティーを研究する生物学者のダニエル・ゴンザレス・ソコロスケ氏がアマゾンマナティーに手を差し出す。(PHOTOGRAPH BY JASON GULLEY)

 マナティージュゴンが属するカイギュウ目は、英語でSirenia といい、船乗りを魅了するギリシャ神話の魔物のセイレーンが語源になっている。

 同じようにマナティーに魅了された写真家のジェイソン・ガリー氏は、ナショナル ジオグラフィック誌2023年1月号の特集「大好きなマナティーを救うために」に向けて、数カ月にわたってニシインドマナティーの写真を撮り続けた。

 米フロリダ州付近に生息する人気者のニシインドマナティー(フロリダマナティー)と異なり、他の2種のアフリカマナティーとアマゾンマナティーと、インド洋から西太平洋の沿岸域に生息するジュゴンのことは、まだほとんどわかっていない。国際自然保護連合(IUCN)は、狩猟や水質汚染などを理由に、これら4つの種をすべて危急種(vulnerable)に指定している。(参考記事:「フロリダマナティーが次々に死亡、「寒さか飢えか」の極限状態」

[画像のクリックで拡大表示]

「ニシインドマナティーについてさまざまなことがわかっているのは、水が透明な場所に集まって生息しており、よく見えるからです」と、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるガリー氏は話す。「逆に、アマゾンマナティーはほとんど見ることができず、写真に収めるのも至難の業です。地元の人に『幽霊』と呼ばれているくらいです」

 今回、ある研究チームがブラジルの保護区でソナー技術を使い、野生のアマゾンマナティーを「見る」ことに初めて成功した。

 体長2.4〜2.8メートル、体重290〜450キログラムほどのアマゾンマナティーは、3種の中で最も小柄だ。淡水だけに生息する唯一の種だが、生息域である川はアンデス山脈から流れ込む土砂と森林の腐敗した植物で赤茶色に濁っている。めったに見られないのも当然だ。

「アマゾンマナティーの研究は非常に難しい挑戦です。痕跡、死体、骨などを調べ、小さなことから積み上げていくしかありません」。ナショナル ジオグラフィックのチームの一員で、ブラジル北部のテフェにあるマミラウア持続可能開発研究所に所属するアマゾンマナティーの専門家、ミリアム・マルモンテル氏はそう話す。

「カワウソやカワイルカなどはもっと目につきやすいのですが、マナティーはそれらとは違い、見ることができないのです」。数十年にわたってこの仕事に携わるマルモンテル氏ですら、平均で年に1回ほどしか見かけることがないという。(参考記事:「アマゾンマナティーに会いに、アマゾンへ」

イキトス近郊の「熱帯雨林保護教育センター」で、アントニオ・ピント氏が5頭のアマゾンマナティーがいる池にマルチビームソナーを取り付ける。ゴンザレス・ソコロスケ氏のチームは、ソナーを使った初めての野生のマナティーの撮影を行っている。(PHOTOGRAPH BY JASON GULLEY)
イキトス近郊の「熱帯雨林保護教育センター」で、アントニオ・ピント氏が5頭のアマゾンマナティーがいる池にマルチビームソナーを取り付ける。ゴンザレス・ソコロスケ氏のチームは、ソナーを使った初めての野生のマナティーの撮影を行っている。(PHOTOGRAPH BY JASON GULLEY)

マルチビームソナーの導入

 そのもどかしさは解消に向かっている。理由は、マルモンテル氏が参加する小さな研究チームが用いる技術にある。

 ナショナル ジオグラフィック協会からの資金提供を受けるチームは、マルチビームソナーという画像化技術を活用して、アマゾンマナティーの生態を記録するという先駆的な取り組みを行っている。広大なアマゾン盆地にどのくらいのマナティーが生息しているのかは、まだ誰も知らない。そのため、調査目的の一つは生息数の推定だ。保護戦略を立てるうえでも非常に重要になる。

「生息数の問題は常に頭から離れませんでした」とマルモンテル氏は言う。「いろいろな人に聞かれますが、とにかくわからないのです」

次ページ:存在すれど姿は見えず

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
会員*のみ、ご利用いただけます。

会員* はログイン

*会員:年間購読、電子版月ぎめ、
 日経読者割引サービスをご利用中の方、ならびにWeb無料会員になります。

おすすめ関連書籍

2023年1月号

健康長寿 科学で老化を止められるか/マナティーを救うために/“禁断の王国”の未来/変化はボードに乗って

2023年のスタートを飾るのは特集「健康長寿」。1900年以降、世界の人々の平均寿命は2倍以上も延び、健康に長生きすることへの関心が高まってきました。老化を遅らせること、そして若返ることはできるのでしょうか?長寿研究の最前線を追います。このほか、フロリダのマナティー、ヒマラヤの秘境ムスタン、ボリビアのスケートボーダーなどの特集をお届けします。

特別定価:1,250円(税込)

おすすめ関連書籍

2022年12月号

写真が記録した1年: 社会・文化/動物・保護/科学・探究/環境・自然

2022年12月号は「写真が記録した1年」と題する特別編集版をお届けします。今の世界、今の時代を記録する世界中の写真家たち。「社会・文化」「動物・保護」「科学・探求」「環境・自然」のカテゴリーから、えりすぐりの写真と心を揺さぶる物語を紹介します。

特別定価:1,250円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加