かつて地中海一帯を支配する大帝国を築いた古代ローマ。その起源はどのようなものだったのだろう。オオカミに育てられた双子が建国したとする伝説と、現代の研究者が考える実際のところを紹介しよう。
古代ローマ建国の物語は、イタリア半島の中西部にあった都市アルバ・ロンガで幕を開ける。この地域には青銅器時代から農民が住み、古代ギリシャ人にも知られていた。紀元前1150年頃、トロイの王子アイネアスがアルバ・ロンガを築いたとされるのは、そのためだろう。
伝説によるとその後、アイネアスの子孫であるアムリウスとヌミトルの兄弟が、アルバ・ロンガの支配権を巡って争う。敗れたヌミトルの息子たちは殺害され、娘のレア・シルビアは追放されて「ウェスタの巫女」(女神ウェスタに仕える巫女)となった。そのシルビアが産んだのが、双子の息子たち、ロムルスとレムスだ。
これを知ったアムリウスは、王の座が脅かされることを危惧してレア・シルビアの首をはね、赤ん坊たちをテベレ川に捨てた。だが、奇跡的にメスのオオカミが双子を救い出して世話をし、その後、羊飼いのファウストゥルスが子どもたちを引き取り、現在のローマがあるパラティーノの丘で2人を育てた。
やがて成長した双子の兄弟が、テベレ川の岸に都市国家ローマを建国したという。この地域にいくつもある丘は、防衛の要衝としてうってつけだったが、丘の間に広がる平地はじめじめとした湿地帯で、肥沃ではなかった。双子の兄弟はまもなく、ローマの正確な境界線について言い争い、ロムルスはレムスの命を奪った。
ある日、ロムルスは自ら集めた無法者や犯罪者たちとともに、ローマ人たちとの婚姻に抵抗していた近隣のサビニ族を宴会に招いた。宴会で人々が浮かれ騒ぐ中、ロムルスは自分のマントを掲げて仲間に合図し、ローマの男たちはサビニ人の若い女性たちを強引に連れ去った。伝承によれば、ローマ人と結婚させられたサビニの女性たちは、その後、夫婦で仲睦まじく過ごせるようになった。そして、女性たちを取り戻そうとやってきたサビニの男たちに、ローマ人との戦いをやめるよう説得した。こうしてサビニ人はローマにとどまり、この新しい都市の住民となったという。
それほどドラマチックではなかった
だが、考古学上の資料は、実際のローマの起源がそれほどドラマチックではないことを物語っている。最初のローマ人はラテン族の農民や羊飼いで、エスクイリーノやパラティーノの丘にある小さな村の小屋に住んでいた。サビニ族は北部に住んでいた民族だが、ローマの誕生後まもなく分裂し、一部の人々が南部に移ってローマ市民に加わった。
紀元前600年代に、北部で複数の都市国家を統治していたエトルリア人がローマを支配するようになるまで、ローマはあまり発展していなかった。