それは危険に満ちた道程だった。ノルマンディー地方の沖合に浮かぶ小島とその上に立つ修道院モン・サン・ミッシェルにたどり着くには、ヨーロッパで最も強い潮流や流砂を乗り越えなければならなかった。そんな障害にもかかわらず、ここは中世で最も多くの人々が往来した巡礼路だった。
以来、この場所を訪れる旅人が絶えることはなかったが、1878年に島に簡単に渡れる堤防道路が建設されると景観が著しく損なわれた。潮流が変わったせいで、湾内に砂泥が堆積し、島が島でなくなる危機に陥ったのだ。
2023年に修道院の建設から1000年を迎えるこのユネスコ世界遺産はしかし、すでにさまざまなサステナビリティーの取り組みに着手している。2015年には大規模な工事によって島としての景観を取り戻し、今もパリを除いてフランスで最も人気のある観光地となっている。
「われわれの目的は、モン・サン・ミッシェルの再開発を先導することです」と、再開発計画を監督する新たな管理団体「エピック・デュ・モン」のディレクター、トマ・ベルテ氏は言う。「持続可能な観光を提供し、観光客の流れを管理し、周辺環境・自然環境の価値を安定させることが取り組みの主眼です」
大天使ミカエルのお告げ
モン・サン・ミッシェルの神秘に包まれた起源は708年に遡る。大天使ミカエルが、島からほど近いアブランシュの司教、聖オベールの夢に繰り返し現れ、自分の名前を冠した聖堂を造るよう告げた。最後の示現の中で、ミカエルがオベールの頭蓋骨に穴を開けて指を差し入れ、自らの言葉に従うよう強く命じ、ここに聖堂が建てられた。
ベネディクト派の修道士たちが966年に島へやってきて、1023年から60年の歳月をかけてロマネスク様式の修道院を建設した。長い年月がたつ間に、花崗岩の上には次々と建物が付け加えられ、「ゴシック様式に至るまで、中世建築がずらりと揃う百科事典」の様相を呈するようになったと、美術史家で長年ツアーガイドをしているフランソワ・サンジャム氏は言う。（参考記事：「聖地巡礼ブームが花開かせた尊い美、ロマネスク建築とは」）
モン・サン・ミッシェルには有名な図書館があったことから、「本の街」と呼ばれるようになり、学問の中心地となった。修道士たちは、写字室で聖書や科学論文などの原稿を書き写した。現在では、およそ800点の原稿のうち200点のみが、アブランシュのスクリプトリアル博物館に保存されている。
「これらの原稿は、モン・サン・ミッシェルに由来するものの中でもっとも重要なものです」と、同博物館館長のベランジェール・ジャン氏は言う。「その歴史的価値は計り知れません」
長い観光の歴史
同博物館の展示からはまた、「世界の果て――海に面し、日が沈む場所」とみなされていたモン・サン・ミッシェルに、巡礼者を迎えるために整備された観光インフラがあったことがわかると、サンジャム氏は言う。
現代の土産物のように、ミケロ（巡礼者）たちは、旅の思い出としてお守りを購入した。「古い時代の鋳型（お守りを鋳造するのに村の職人が用いたもの）が見つかっており、14世紀の村の経済活動が盛んだったことが伺えます」とジャン氏は述べている。
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