謎の巨大エイに発信器を初めて装着、ベールを脱ぐ驚きの生態

トゲは「命に関わります」、モザンビーク沿岸の野生のスモールアイ・スティングレイ

2023.01.30
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体長3メートルに達することもあるスモールアイ・スティングレイは、体のわりに小さな目を持つことからそう名付けられた。(PHOTOGRAPH BYANDREA MARSHALL)
体長3メートルに達することもあるスモールアイ・スティングレイは、体のわりに小さな目を持つことからそう名付けられた。(PHOTOGRAPH BYANDREA MARSHALL)
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 モザンビークの海で、研究者たちが初めて野生のスモールアイ・スティングレイ(Megatrygon microps)に発信器(タグ)を取り付けた。海にすむアカエイの仲間では世界最大で、体長が3メートルに達することもある。めったに姿を見せない希少な種で、絶滅の危機に瀕している可能性がある。

 バザルト諸島沖で何週間もスモールアイを探していたアンドレア・マーシャル氏は、浅瀬でその姿を目にするとすぐに海に潜った。そして、長さ180センチの棒で体に軽く触れ、腹部から小さな皮膚サンプルを採取した。幸い、エイが強い反応を示すことはなかった。スモールアイには人間の前腕ほどの大きさの棘があり、少しでも動きを誤ると「こちらの命に関わります」と、マーシャル氏は言う。

 エイの専門家でナショナル ジオグラフィックのエクスプローラー(探求者)でもあるマーシャル氏の研究チームは、最初の取り付けに成功した後、次の個体を見つけるため、何カ月もかけてスモールアイが集まるモザンビーク沿岸のある一帯を調査した。既に目撃情報があるサンゴ礁に的を絞り、最もエイを見つけやすいとされる夜明けに海に潜った。

 こうして、合計で11の個体に衛星発信器や音響発信器などが取り付けられた。

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 マーシャル氏は、何度か危険な目に遭った。大きな体のエイは、棘のついた尾をサソリのように背中の方へ持ち上げ、大きく振り回した。しかし、エイはただ自分の身を守ろうとしているだけだ。体の大きさのわりに目は小さく、干しブドウの粒ほどしかない。目がよく見えない場合、「何かに刺されたなと思ったら、やり返すのは当然です」と、マーシャル氏。

 モザンビークを拠点に海洋大型動物保護財団を立ち上げてスモールアイを研究しているマーシャル氏によると、これまでに集められた初期データだけでも、スモールアイの驚くべき生態が明らかになりつつあるという。例えば、スモールアイは200メートルの深さまで潜り、1日に数百キロを泳げるそうだ。(参考記事:「【動画】謎の大型エイ、初論文で意外な行動が判明」

見た目は怖そうだが、気性はおとなしく、身の危険を感じない限り棘で刺したりはしないと、マーシャル氏は言う。(PHOTOGRAPH BYANDREA MARSHALL)
見た目は怖そうだが、気性はおとなしく、身の危険を感じない限り棘で刺したりはしないと、マーシャル氏は言う。(PHOTOGRAPH BYANDREA MARSHALL)
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どこで何してる? 追跡調査に期待

 11匹にはすべて音響発信器がつけられ、そのうち4匹には衛星発信器もつけられている。これによって科学者たちは、長距離移動や、細かい動きまでも追跡することができる。

 タグを取り付けるプログラムはまだ始まったばかりで、データを収集して分析するには何年もかかる。しかしそこからは、謎多きエイの興味深い生態が垣間見えるはずだと、マーシャル氏は期待する。

 例えば、写真に基づいた過去の研究は、少なくとも60種はいるアカエイ科のなかで、スモールアイは知られている限り最も長い直線距離を移動することを示していた。今回の調査ではさらに、なぜエネルギーを使ってそれだけの長距離を移動するのかが明らかになることを研究者たちは期待している。

 スモールアイ・スティングレイは浅瀬を泳ぐこともできるが、しばしば200メートル以上深く潜ることがある。驚くべき深さだ。タグをつけられたある個体は、3分の2の時間を水深30メートルより深い海域で過ごしていることもわかった。スモールアイの目がとんでもなく小さく、視力が弱いのはそのためかもしれないと、マーシャル氏は言う。深く暗い海では、視力はさほど重要ではない。

次ページ:夜中にはサンゴ礁の近くで眠っている?

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