外来の野ブタが増えすぎて深刻な問題に、米国

少なくとも35州に600万頭、新たな病気の発生に懸念

2023.02.08
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米国テキサス州コーパスクリスティの池で水を飲む野ブタ。米国にとって外来種であるブタやイノシシは、カリブ海からカナダまで、さまざまな気候の地域に生息している。(PHOTOGRAPH BY ROLF NUSSBAUMER, NATURE PICTURE LIBRARY)
米国テキサス州コーパスクリスティの池で水を飲む野ブタ。米国にとって外来種であるブタやイノシシは、カリブ海からカナダまで、さまざまな気候の地域に生息している。(PHOTOGRAPH BY ROLF NUSSBAUMER, NATURE PICTURE LIBRARY)
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 米国で野ブタが増えすぎて大きな問題になっている。

 ブタはイノシシを家畜化した動物で、種としては同じSus scrofaだ。もともと北米には生息していなかったが、16世紀以降、ヨーロッパからの入植者が家畜のブタや狩猟のためのイノシシをたびたび持ち込んだことで定着した。今では、イノシシや野生化したブタ、それらが交雑したものなど(以下、本記事ではまとめて野ブタと呼ぶ)が米国で生息域を広げ、少なくとも35の州に約600万頭が野生下に暮らしているという。

 野ブタは雑食性で適応力が高く、ほとんどどんな環境でも生きていける。カリブ海の島々や、メキシコのバハ半島からユカタン半島だけでなく、深い雪と厳しい寒さに耐えなければならないカナダまで、あらゆる地域で繁殖している。

 メスは生後8カ月で繁殖を開始し、12~15カ月ごとに4~12頭の子を2回まで産むことができる。急速に個体数を増やした野ブタは農作物を荒らし、人間に追い詰められると逆に人間に危害を加えることもあるが、専門家が本当に心配しているのは、そこではない。

母イノシシの背中で眠る子どもたち。メスは生後わずか8カ月で繁殖することができる。(PHOTOGRAPH BY ZOONAR GMBH, ALAMY STOCK PHOTOS)
母イノシシの背中で眠る子どもたち。メスは生後わずか8カ月で繁殖することができる。(PHOTOGRAPH BY ZOONAR GMBH, ALAMY STOCK PHOTOS)
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 心配なのは病気だ。

 米国農務省によれば、野ブタは人間に感染するおそれのある多くの病原体を媒介し、レプトスピラ症、トキソプラズマ症、ブルセラ症、豚インフルエンザ、サルモネラ菌、肝炎、病原性大腸菌などを広めるおそれがあるという。

 もう1つ懸念されることがある。未知の新しい病気だ。

「ブタやイノシシは、ヒト由来のウイルスにも感染します。例えば、こうした動物がヒト由来のインフルエンザウイルスに感染すると、新しいインフルエンザウルスが生まれることがあるのです」と、米国農務省の全米野ブタ被害管理プログラムのスタッフ生物学者であるビエンナ・ブラウン氏は説明する。

「野ブタは群れをなして移動する性質があり、私たちの近くにいて、個体数も多い。そのため、他の野生動物に比べてリスクが大きいと考えています」(参考記事:「危険ウイルスもつ外来サルが勢力拡大、フロリダ」

次ページ:野ブタが広げる病気

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