リキッドバイオプシーとは、がんの検査と治療に大きく貢献

普通の血液検査でがんを見つけられる日は近いかもしれない

2023.03.31
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米ニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターでみられる標準的な血液サンプル。リキッドバイオプシーにより、患者のがんやその治療法に関する貴重な情報を明らかにすることができる。(PHOTOGRAPH BY STEPHAN ELLERINGMANN, LAIF/REDUX)
米ニューヨークのメモリアル・スローン・ケタリングがんセンターでみられる標準的な血液サンプル。リキッドバイオプシーにより、患者のがんやその治療法に関する貴重な情報を明らかにすることができる。(PHOTOGRAPH BY STEPHAN ELLERINGMANN, LAIF/REDUX)

 がんの検査では普通、患部の組織を切り取って調べる「生検」が行われる。だが、生検は体に負担がかかり、医療費も高額で、結果が出るまで4週間ほどかかることもある。患者が進行性のがんにかかっている場合は、特に問題だ。

 そこでこの20年間、科学者たちは血液などの体液を使ってがんを調べる「リキッドバイオプシー(液体生検)」の開発に取り組んできた。血液なら簡単に、かつ何度も採取できる。標準的には、腕から7.5~10ミリリットルの「末梢血(血管を流れる普通の血液)」を採取して、1週間ほどで検査結果が得られるため、治療のスケジュールを早められるかもしれないと、米ペンシルベニア大学ペレルマン医学部助教のジェフリー・キャンベル・トンプソン氏は言う。

 今のところ、リキッドバイオプシーには新たながんを発見する信頼性はないものの、患者の治療のモニタリングには役立つと、米南カリフォルニア大学(USC)ケック医学校の教授で、USCノリス総合がんセンターリキッドバイオプシー部門の創設者であるアミル・ゴールドコーン氏は言う。

 しかし、専門家によると、リキッドバイオプシーの研究開発は急速に進んでおり、あらゆるステージのがんを特定できる日がまもなく訪れると期待されている。

血液の中のがん

 リキッドバイオプシーとは何かを理解するには、医師が血液サンプルの何を調べ、その情報を用いて何ができるのかを知ることが重要だ。

 血液を遠心分離機で回転させると、主に2つの部分に分離する。1つは、ほぼ透明な液体成分の「血漿(けっしょう)」と、もう1つは、赤血球をはじめ様々な細胞を含む有形成分だ。

 がん患者の有形成分には、腫瘍由来の生きたがん細胞、すなわち「(血中)循環腫瘍細胞(CTC)」が含まれている可能性がある。これは腫瘍が十分に大きくなり、一部の細胞が血流の中に出てきたときに起こると、米ペンシルベニア大学医学部助教授で、リキッドバイオプシー研究室長であるエリカ・カーペンター氏は言う。

 ほとんどのがん細胞は血流中で死んでしまうが、なかには別の場所に新たな腫瘍を作るものがある。こうした転移の原因となるのが循環腫瘍細胞だ。

 循環腫瘍細胞は、DNAを抽出して分析するか、細胞の表面にある特定のタンパク質によって同定されると、ゴールドコーン氏は言う。これらのマーカーは、その細胞がどこ由来のものなのかを知る手がかりとなる。例えば、THBS2というタンパク質の濃度が高ければ、すい臓がんである可能性がある。THBS2の濃度が高いと、生存率は低い。

 一方、がん細胞由来の「(血中)循環腫瘍DNA(ctDNA)」は、血液サンプルの血しょう部分から見つかる。ctDNAは、サンプル中の全DNAのごく一部を占めるにすぎない。しかし、ctDNAの塩基配列を決定して健康な細胞のDNAと比較すると、がんの発見につながる変異を特定できる。

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