この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2023年3月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
北米の五大湖のなかで最大の湖、スペリオル湖のアポスル諸島国立湖岸では、自然の力が風景をつくり、破壊し、よみがえらせている。
人を寄せつけない過酷な天候で知られるスペリオル湖だが、アポスル諸島は比較的しのぎやすい場所だ。
だからといって、安全というわけではない。
「ここは素人には太刀打ちできない場所です」と、アポスル諸島国立湖岸の文化資源マネジャーを務めるデイブ・クーパーは言う。彼は長さ7.5メートルのアルミニウム製の上陸用舟艇「アーデア号」を操縦し、スペリオル湖の荒波にもまれつつ、湖岸から26キロの沖合に浮かぶデビルズ島からの帰路に就いていた。今日は北東から風速約10~13メートルの風が吹きつけ、高さ1.5メートルの波が立っている。クーパーは波間を縫って疾走し、波頭に乗った。「馬に乗るようなものですよ」と、彼は話す。「私は、なるべく船が揺れないように努めているだけです」
スペリオル湖で30年にわたって考古学者として仕事をしながら、クーパーは痛ましい事故の捜索や救助活動に何十回となく参加してきた。「島々の連なったアポスル諸島に誘われて人々はカヌーやカヤックをこぎ、遠くまで行き過ぎてしまいます」と、彼は話す。「点在する島が避難場所になるはずなんですけど、島々に魅せられて、つい無理をしてしまうんです」
スペリオル湖は別の危険もはらんでいる。気候変動に伴い、10年ごとに少なくとも0.5℃という警戒すべきペースで、湖の水温が上がっているのだ。しだいに激しさを増す暴風雨によって桟橋などのインフラが損傷し、湖岸の浸食が進んでいる。また、湖中の堆積物が増え、そのなかに含まれる栄養分が、藻類の大量発生を招く可能性もある。
スペリオル湖国立公園財団のトム・アーバイン理事長のように、アポスル諸島に熱烈な思いを寄せる人もいる。彼の曽祖父とその父親は、ともにアウター島で灯台守の仕事をしていた。
「アポスル諸島は、訪れる人たちの心をつかんで離しません」と、アーバインは言う。「私の家族の場合もそうでした。この島々は、私たち家族に共通する魂の一部なのです」
2020年夏、アーバインは、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーで写真家のデビッド・グッテンフェルダーを、この島々に案内した。カヤックの経験豊富なグッテンフェルダーは、18日間かけて、アポスル諸島を構成する22の島のうち、できるだけ多くの島を回る野心的な計画を立てた。