体重を非難するのはむしろ逆効果、体重増加や健康悪化のリスクに

家族や医師もしがちな「ウェイト・シェイミング」がもたらす悪循環

2023.03.24
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人の体重を非難する行為は「容認されている最後のバイアス(偏見)です」と、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学教授A・ジャネット・トミヤマ氏は言う。(PHOTOGRAPH BY KAREN KASMAUSKI, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
人の体重を非難する行為は「容認されている最後のバイアス(偏見)です」と、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学教授A・ジャネット・トミヤマ氏は言う。(PHOTOGRAPH BY KAREN KASMAUSKI, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 研究者たちは近年、体重が重め(高体重)の人々が長く実感してきたことを論文で立証している。それは、「体重スティグマ」(高体重を恥とするらく印や偏見、差別)が社会に広く浸透し、スティグマを経験した人々が深刻な影響を受けているという事実だ。体重スティグマは、うつ状態や不安、摂食障害などの不安定な精神状態や心臓疾患など、あらゆる不調の要因となり、最悪の場合は死に至ることすらある。

 この問題は2023年に入ってさらに緊急性を帯びてきた。きっかけは1月に米小児科学会(AAP)が、高体重の子どもやティーンエージャーに対する積極的な治療を提唱し、家庭で子どもの体型に注意するよう促すガイドラインを発表したことだ。

 しかし、「ウェイト・シェイミング」(体重について非難したり恥をかかせたりすること)を受けたティーンエージャーは30代になると肥満になる確率が高いことから、このガイドラインに対する批判が高まっている。2022年4月に学術誌「Nutrients」に発表された、米国のティーンエージャー約2000人を対象とした調査結果によると、調査対象者の多くは、自分の体重について親からは主に前向きで肯定的な言葉をかけられたと感じていた。にもかかわらず、対象者の約半数は自分の体重が話題になること自体を望んでいなかった。

 自分が高体重であっても他人をウェイト・シェイミングの標的にする人は多いと、米オハイオ州にあるケント州立大学の心理科学助教メアリー・ヒンメルスタイン氏は話す。米国人の約42%はBMI(体格指数)が30以上の「肥満」に当てはまるが(米国の基準)、氏によれば、こうした人々でも他の肥満体型の人を平気でからかうことがあるという。

 高体重を注意すれば本人が減量するきっかけになると考えて、身内や医療関係者が苦言を呈することもあると、米コネティカット大学ラッド食料政策・健康研究センターの副所長レベッカ・プール氏は言う。だが、これは実際には逆効果になりうることが研究で示されている。「体重のことで恥をかかされたと感じると、長期的には体重が増加するリスクが高くなるのです」とプール氏は説明する。

 また、映画やテレビ番組で、高体重の人物をだらしなく自制心を欠いた好ましくないキャラクターとして描いているのを見て、他人の体重を批判しても構わないと思い込む人もいる。ソーシャルメディア上でも個人の体重は公然と非難の対象にされていると、米カリフォルニア大学ロサンゼルス校の心理学教授A・ジャネット・トミヤマ氏は指摘する。

 これは、体重は本人が管理できるはずだという思い込みがあるからだ。しかし、実際には遺伝や、物理的および文化的な環境、腸内細菌など多くの要素が体重に関わっていることと、食事療法では長期的な体重管理が難しいことは、科学的に示されている。

「高体重は本人の怠惰な生活習慣が原因だという思い込みがあります」とヒンメルスタイン氏は指摘する。人はその気になれば減量できるという考え方によって、高体重は自制心が欠如している証拠とされてしまっているものの、実際には高体重の人の多くは何年も減量を試みたがうまくいかないのだと氏は説明する。

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