スリランカ北西部のガルガムワ近郊の湖で、ゾウが水を飲む。土地の開発が進み、この国にいる推定6000頭のゾウは、生息地のほぼ70%で人間との共存を強いられている。(PHOTOGRAPH BY BRENT STIRTON)
生息地の開発や密猟により、アフリカとアジアでゾウが減少の一途をたどっている。その一方で、ゾウを保護する手法も向上し、人間との共存を目指す取り組みも進んでいる。
「ゾウたちはみんな、窮地に陥っています」。そう話すのは、ケニアの生態学者であるポーラ・カフンブだ。「とんでもない窮地です」
3種のゾウはいずれも生息数が減っている。サハラ砂漠以南のアフリカにすむ世界最大の陸上動物であるアフリカゾウも、アフリカの熱帯林に生息するマルミミゾウも、約3分の1が飼育下に置かれている耳が小さいアジアゾウも。
人間のせいだ。人間がゾウの生息地に入り込み、住宅や道路を造り、森を伐採して作物を植えてきた。さらに、象牙の装飾品欲しさに、ゾウの密猟をはびこらせてきた。正確な頭数は調べにくいが、19世紀初めにはアフリカ大陸に約2600万頭のゾウがいたとも推定される。その後は減少の一途をたどり、過去50年ほどの間に密猟の増加に伴って絶滅が危ぶまれるほどに減った。今ではアフリカに約41万5000頭が生息するだけで、アジアには野生のゾウはおそらく5万頭ほどしか残されていないだろう。
【ゾウが生きる大地】
人類と同様、初期のゾウはアフリカで生まれ、欧州やアジアに広がった。その過程で多様な環境に適応できたのは、複雑な社会構造と行動、情報交換の手法、高度な脳をもつおかげだ。現生の3種のゾウはすべて、人間との共存という困難な状況に適応している。
群れの形成
ゾウの社会は多様で、自由に交流する個体もいれば、大規模な雌の集団もある。集団は時とともに離合集散を繰り返す場合もある。雄は単独で生活するか、ほかの若い雄と群れをつくる。寿命は3種とも60~70歳だ。
アフリカのゾウ
世界最大の陸上動物で、かつてはアフリカの大半の地域に生息していた。今では2種がサハラ砂漠以南と西アフリカにすむ。
アジアのゾウ
かつてはユーフラテス川まで広く生息していたが、今はボルネオ島、スマトラ島、スリランカと、アジア大陸の一部で見られるだけだ。
(CHRISTINE FELLENZ, MONICA SERRANO, PATRICIA HEALY, AND LUCAS PETRIN, NGM STAFF. MESA SCHUMACHER. イラスト:GAËLLE SEGUILLON. 出典:IUCN; ESA CLIMATE CHANGE INITIATIVE, LAND COVER DATABASE; PAULA KAHUMBU, WILDLIFEDIRECT; ALI NABAVIZADEH, UNIVERSITY OF PENNSYLVANIA; SANJEETA SHARMA POKHAREL, KYOTO UNIVERSITY, JAPAN; T.N.C. VIDYA, JAWAHARLAL NEHRU CENTRE FOR ADVANCED SCIENTIFIC RESEARCH, BENGALURU, INDIA; RAMAN SUKUMAR, INDIAN INSTITUTE OF SCIENCE; ASIER LARRAMENDI, EOFAUNA; SUZANA HERCULANO-HOUZEL, VANDERBILT UNIVERSITY)
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