性感染症が急増し新規の半数は15~24歳、梅毒の拡大も顕著、米国

なぜ増えている? 感染を減らすには? 格差も浮き彫りに

2023.04.26
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梅毒を引き起こす細菌「トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)」は性行為によって感染するが、感染した妊婦から胎児にうつることもある。米国でコロナ禍前に比べて大幅に増加している3つの性感染症のうちの一つだ。(MICROGRAPH BY AMI IMAGES, SCIENCE PHOTO LIBRARY)
梅毒を引き起こす細菌「トレポネーマ・パリダム(Treponema pallidum)」は性行為によって感染するが、感染した妊婦から胎児にうつることもある。米国でコロナ禍前に比べて大幅に増加している3つの性感染症のうちの一つだ。(MICROGRAPH BY AMI IMAGES, SCIENCE PHOTO LIBRARY)
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 米国で性感染症が急増している。米疾病対策センター(CDC)が2023年4月11日に発表した最新データによると、2021年には淋病、梅毒、先天梅毒が新型コロナウイルスのパンデミック(世界的大流行)前の水準に比べて大幅に増加した。いずれも予防が可能で、早期に発見すれば治療できる。だとすると、なぜ性感染症は増えているのだろうか?

 医療システムが新型コロナ感染症によって混乱し、疲弊したのは事実だ。しかし、コロナ禍は性感染症が急増した理由の一部にすぎない。性感染症に対する昔からの偏見や、健康プログラムへの資金の減少、性教育の不足も原因となっている。

 CDCが発表した2021年の性感染症の報告件数は衝撃的だ。上に挙げた3つとクラミジアを合わせて250万件以上にのぼる。国が資金を提供する予防プログラムがあるにもかかわらず、2020年から6%近く増加した。

 だが、これらはあくまで報告された件数だ。CDCは、2018年には米国で5人に1人(約6800万人)が性感染症にかかったと推定されることから、おそらく実際の感染者数は報告された数より多いだろうと指摘している。「性感染症が減る兆しはありません」と、CDCの性感染症予防部門を率いるレアンドロ・メナ氏は言う。

クラミジア感染症を示す走査型電子顕微鏡のカラー化写真。細菌「クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)」が黄色で示されている。通常、クラミジアは抗生物質で効果的に治療でき、正しく服用すれば95%以上の人が治る。(MICROGRAPH BY SCIENCE PHOTO LIBRARY)
クラミジア感染症を示す走査型電子顕微鏡のカラー化写真。細菌「クラミジア・トラコマチス(Chlamydia trachomatis)」が黄色で示されている。通常、クラミジアは抗生物質で効果的に治療でき、正しく服用すれば95%以上の人が治る。(MICROGRAPH BY SCIENCE PHOTO LIBRARY)
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 誰でも性感染症にかかる可能性はあるが、実際にかかった人の年齢や人種、性的指向などには偏りが見られる。新規感染者の半数(50.5%)は15~24歳の若年層だった。さらに、米国人口の12%しかいない黒人が、クラミジア、淋病、梅毒の全症例の31%を占めていた。また、男性と性行為をする男性(MSM)も大きく影響を受けている。梅毒にかかっているMSMの40%近くはエイズウイルス(HIV)にも感染していた。

 しかし、それ以外の人々は何も心配する必要がないというわけではない。メナ氏は、性的に活発な人は誰でも「定期的に、少なくとも1年に1回は検査を受けるべきです。特にパートナーを変える場合や、交際を始める前には」検査を受けたほうがいいと助言する。

 梅毒は、なぜ予防が必要なのかを示す好例だ。梅毒は20世紀末頃には根絶の兆しが見えてきたと思われていたが、その後再び増加に転じ、2021年は2020年に比べて32%も増えた(編注:厚生労働省によれば、日本でも近年は増加傾向にあり、2021年以降は大きく増え注意喚起している)。女性が梅毒にかかると、胎児にうつって先天梅毒となる可能性がある。しかし、母子感染は梅毒を早期発見することで予防できると、全米女性保健ネットワークの政策専門家であるクリスティン・バトストーン氏は言う。

 CDCによる今回の報告から何を学び、どうすれば性感染症を減らすことができるかを、保健政策の専門家と感染症の専門医に聞いた。(参考記事:「抗生物質が効かない「スーパー淋病」英国で感染例」

次ページ:コロナ禍の前から増加傾向

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