まばたきはなぜ、どのように進化した? 陸に上がる魚で謎に迫る

干潟を「歩く」魚、トビハゼの仲間のまばたきを研究

2023.04.27
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人間の目の拡大画像。瞳孔、そのまわりの虹彩、眼球の表面にある毛細血管が見える。人間が目を潤して保護するためにまばたきをすることは古くから知られているが、この現象がどのように進化してきたのかについては、まだよくわかっていない。マッドスキッパーという水陸両生の魚類についての新たな研究が、その手がかりを示している。(PHOTOGRAPH BY JOE MCNALLY, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
人間の目の拡大画像。瞳孔、そのまわりの虹彩、眼球の表面にある毛細血管が見える。人間が目を潤して保護するためにまばたきをすることは古くから知られているが、この現象がどのように進化してきたのかについては、まだよくわかっていない。マッドスキッパーという水陸両生の魚類についての新たな研究が、その手がかりを示している。(PHOTOGRAPH BY JOE MCNALLY, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 人間は毎分15〜20回まばたきをする。ほぼ無意識のうちに上まぶたをすばやく開閉させ、目を守って清潔に保ち、潤いを与える行動だ。四肢のある陸上の脊椎動物(四足動物)の大半が共通してもつ反射運動だが、魚などの水生動物やその祖先にはほとんど見られない。

 まばたきはなぜ、どのように進化したのだろうか。魚が徐々に陸に上がり始めたのは約3億7500万年前のことであり、その過程を実際に観察することは不可能だ。しかも、目や筋肉といった柔らかい部分は通常、化石に痕跡が残らない。

 そこで研究者らが注目したのがマッドスキッパー(トビハゼやムツゴロウの仲間)という、アフリカとアジアの干潟に暮らす水陸両生の「歩く」魚だ。彼らは、四足動物とは別々にまばたきという行動を進化させてきた。

今回の研究対象となったアフリカンマッドスキッパー(Periophthalmus barbarus)。米カリフォルニア州のパシフィック水族館で撮影。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
今回の研究対象となったアフリカンマッドスキッパー(Periophthalmus barbarus)。米カリフォルニア州のパシフィック水族館で撮影。(PHOTOGRAPH BY JOEL SARTORE, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 2023年4月24日付けで学術誌「米国科学アカデミー紀要(PNAS)」に発表された新たな研究では、マッドスキッパーと、彼らに近い仲間だがまばたきをせずに水中で暮らす魚を比較した。すると、まばたきに必要な筋肉はどちらの魚ももっており、マッドスキッパーが新しく進化させたわけではないことがわかった。

 これが示唆するのは、われわれの四足動物の祖先が乾いた陸地に上がり、周囲をよく見る必要に迫られたことが、まばたきという現象が生まれるきっかけになった可能性が高いということだ。

 現代の魚類がまばたきするための筋肉をもっているという事実は、「実際に陸地でものを見るのに必要な条件について、新たな視点をもたらしてくれました」と、米ジョージ・ワシントン大学の進化生物学者サンディ・カワノ氏は言う。なお、氏は今回の研究に関与していない。

「魚類が陸上でも目がよく見えるようになるためのハードルは、実はそれほど高くないということを示唆しています」

水から出た魚

 地球上の生命は最初の数十億年の間、水の中に留まっていた。3億7500万年前頃、一部の魚がおずおずと海を出て、乾いた陸地に上がった。餌になりそうなものであふれ、捕食者もいないこのすばらしい新天地は、無限の可能性を秘めていた。しかし、陸に上がっても周囲がよく見えないのでは話にならない。

「もし彼らの目が水中での生活に適した作りをしていたなら、陸に上がったときには視界が非常にぼやけていたでしょう。彼らは基本的に近視だったはずです」とカワノ氏は言う。

 陸に上がった生物は、慢性的なドライアイにも悩まされていただろう。目に酸素を送ったり目を保護したりするために、角膜は常にぬれている必要があるからだ。また、傷つきやすい目を守るために、ゴミを取り除く方法などを必要としていた。そこで、ほぼすべての四足動物が採用したのが、まばたきだった。

次ページ:まばたきの起源を探る

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