カメは夜も「日なたぼっこ」、初の世界調査で明らかに

「これまで報告されていなかっただけ」、6科13種の淡水ガメで確認、なぜ夜に?

2023.04.29
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米国マサチューセッツ州ブリッジウォーターにあるワイマン・メドー保護区の倒木で、夜に甲羅干しをするトウブニシキガメ。(PHOTOGRAPH BY TIM LAMAN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
米国マサチューセッツ州ブリッジウォーターにあるワイマン・メドー保護区の倒木で、夜に甲羅干しをするトウブニシキガメ。(PHOTOGRAPH BY TIM LAMAN, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
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 ある暖かい春の夜、オーストラリア北東部の沿岸都市タウンズビルのロス川で、2人の科学者がカヌーに乗り込んだ。2人は膝にカメラを乗せ、手に双眼鏡を持ち、カヌーで川を進む。

 程なく、2人は奇妙なものに気付いた。淡水ガメのクレフトマゲクビガメが、まるで日光浴をするように、月明かりを浴びていたのだ。

「当時はあまり気にしていませんでした」とオーストラリア、ニューイングランド大学の生態学者エリック・ノードバーグ氏は振り返る。「誰も見たことがないものを発見することは、最近ではめったにありませんから」

 しかし、2017年のその夜に見た光景について周囲に尋ねてみると、カメが夜に陸へ上がって甲羅干しすることを知っていた科学者はおらず、その行動に関する研究も存在しないことがわかった。

 そこで、ノードバーグ氏とオーストラリア、ラ・トローブ大学の生物学者ドン・マックナイト氏は自分たちで研究を行うことにした。

 そして、6年後の2023年春、あの偶然の出会いから始まった研究が論文になり、3月28日付けで学術誌「Global Ecology and Conservation」に発表された。この論文は、世界各地のカメがこの行動を取っていることを示しただけでなく、絶滅の危機にあるカメたちが地球温暖化にどう反応するかを理解する助けになるかもしれない。

オーストラリア、タウンズビルに設置したトレイルカメラの画像。クレフトマゲクビガメがひしめき合い、月明かりを浴びている。(PHOTOGRAPH BY DR. ERIC NORDBERG)
オーストラリア、タウンズビルに設置したトレイルカメラの画像。クレフトマゲクビガメがひしめき合い、月明かりを浴びている。(PHOTOGRAPH BY DR. ERIC NORDBERG)
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世界各地から集まった写真

 変温動物である淡水ガメは体温を調節できないため、水の外にある岩や丸太などの上で休み、太陽の熱で体を温める。

 ノードバーグ氏とマックナイト氏は、タウンズビルのカメに見られる夜の甲羅干しが異常行動かどうかを知るため、世界規模の調査を計画した。両氏は2019年、夜の甲羅干しを観察してデータを共有してもらうため、国際協力を呼び掛けた。新型コロナウイルスの感染拡大による中断はあったものの、結果は豊作だった。北米、カリブ海地域、ヨーロッパ、アジア、アフリカ、セーシェル、オーストラリアの研究者から、淡水ガメ11科のうち7科にまたがる29種の写真が合わせて87万枚以上も集まった。

 このデータから、6科13種について、夜に陸で甲羅干しをしていることが確認された。しかも、それらのカメは、昼間より夜の方が長く甲羅干しをする傾向があった。

「実はカメの間で広く行われていることで、これまで報告されていなかっただけのようです」とマックナイト氏は話す。「とても驚きです」

 また、種によって夜の甲羅干しの頻度や長さに違いが見られた。そして、最もたくさん行っていることが記録されたのはタウンズビルのカメたちだった。

次ページ:なぜ夜に陸へ上がる?

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