この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2023年7月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。
未知なる初期の人類を発見して10年、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーで古人類学者であるリー・バーガーは私たちの遠い親類「ホモ・ナレディ」の謎を解きたいと、意を決して自ら洞窟の奥底へと下りることにした。
「発掘作業をここで中止にすべきだと思う」と私は言った。モニターの不明瞭な映像を指し示しながら、私は同僚のケネイロー・モロピアンの方を見た。考古学者で法医学者でもある彼女のことを、調査チームの仲間は「ボーンズ(骨)」と呼んでいる。彼女と私がモニターで見ていたのは、同僚の考古学者であるマリーナ・エリオットとベッカ・ペイジョットが地下深い洞窟の中で発掘をしているライブ映像だ。
それは、2018年11月のことだ。私たちは南アフリカのライジング・スター洞窟にある“指令センター”に陣取っていた。この洞窟は総延長4キロ近い通路が縦横に走り、深さは地下40メートルを超す地点もある。腰を下ろしたり立ち上がれたりするほど高い空洞もあるが、ほとんどは比較的小さなものだ。チームのなかでも発掘の経験が最も豊富なマリーナとベッカは、「ディナレディ」と呼ばれる空洞で作業をしていた。
洞窟内の堆積物は時間をかけて壁からはがれ落ちた埃(ほこり)や破片によって形成され、床一面をうっすらと覆っている。しかし、マリーナとベッカが掘っていた場所では、床の堆積物が均一ではなく、何者かに乱されたように見えた。「洞窟の床に穴があるように見える」と、私はボーンズに言った。「自然にできたへこみのようには思えないんだ。私には、埋葬によってできたもののように見える」。私の言葉を聞いて、ボーンズは目を丸くした。「確かに、そう見える」。彼女はモニターの映像をもう一度よく見た。「あなたの判断は正しいと思う」と彼女は言った。「中止すべきね」
この判断が学術的な新事実――そして、私の人生で最も恐ろしく、また最も素晴らしい瞬間――を後にもたらすことになった。
2013年と14年にディナレディで行った発掘調査は驚くべき成果を上げた。2カ月にも満たない短い期間に、私が率いる調査チームはライジング・スター洞窟の1平方メートル足らずの場所から、1200点を超える化石を掘り出した。主に骨と歯だった。十数件の学術論文に詳述したように、それらは古人類学者たちが見たことのない、新種の初期人類のもので、私たちは「ホモ・ナレディ」(Homo naledi)と命名した。「ホモ」はヒト属(ホモ属)、「ナレディ」は現地のソト語で「星」を意味する。化石が大量に見つかった空洞「ディナレディ」は「星たちの部屋」という意味だ。
2013年と14年の発掘調査で最大の発見は、ホモ・ナレディの頭蓋骨だった。それは、脚や腕の骨、手や足を構成する骨やその断片とともに見つかった。その場所を私たちは「パズル・ボックス」と呼ぶことにした。