6月30日に公開された映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は、1981年の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から始まったシリーズの最終作だ。実在か否かを問わず世界で最も有名な考古学者であるインディ・ジョーンズ博士は、今回もまた、多くの本物の考古学者たちの目を丸くさせることになるかもしれない。
この映画の制作総指揮にあたったスティーブン・スピルバーグは、1975年に映画『ジョーズ』を制作してからサメが悪者扱いされるようになってしまったことを深く後悔していると語ったことがある。たしかに、多くのサメが狩られ、偏見が生じた。けれどもその一方で、多くのサメ科学者や保護活動家が、『ジョーズ』をきっかけにサメの魅力を知ったと語っている。
では、インディ・ジョーンズは考古学者にどんな影響を及ぼしたのだろうか? 主演のハリソン・フォード氏と現役の考古学者に聞いてみた。
貴重な遺物はどれもグレーゾーン
ハイラム・ビンガム、ヘンリー・フィールド、アール・ハルステッド・モリスといった20世紀初頭の考古学者を彷彿とさせるスタイルの考古学者を主人公にした映画が全世界で10億ドル(約1450億円)近い興行収入をあげたのは、たまたま彼が非常勤教授で、謎に満ちた古代の遺物を追いかけるのを趣味にしていたからだった。
聖杯、聖櫃、シバ神が作った「サンカラ・ストーン」、水晶の頭蓋骨、謎めいた「運命のダイヤル」など、インディ・ジョーンズが追いかけた遺物はいずれも歴史と宗教性と創造性が出会うグレーゾーンにある。この映画シリーズがきっかけになって考古学者を志した人々が、今、世界中で重要な発見をしている。しかし、ナチスとも謀略とも異次元文明とも無縁な現実世界の考古学者が、この架空の冒険家になぞらえられるのは、果たして良いことなのだろうか?
「B級映画を作っているという意識」
80歳の俳優ハリソン・フォード氏は、ナショナル ジオグラフィックからの電話取材の中で、自身が演じるキャラクターが、ある世代の考古学者たちにインスピレーションを与えたことについてどう思うかと尋ねられて、「確信はありませんが、私たちは彼らに考古学の楽しさを伝えることができたのだと思います」と答えた。「それが自分の手柄だとは思っていません。実際、考古学者に声をかけられることがあります。彼らの経験を聞かせてもらうのは非常に興味深いし、彼らがやりがいのある仕事に出会えたことを喜ばしく思っています。ただ、ちょっと変な感じがしますね」
たしかに、考古学者としてのジョーンズ博士は普通ではない。彼の発掘方法には疑問があるし、銃と鞭を持って発掘現場に現れるし、目的の品を持ち帰ることはめったにない。「ほとんどの考古学は図書館で行われる」という自身のセリフにもかかわらず、戦車の玉突き事故から核兵器の爆発まで、あらゆる混乱に巻き込まれるのが常だ。