映画『インディ・ジョーンズ』が考古学にもたらしたもの

ハリソン・フォード氏と現在活躍中の考古学者に聞いてみた

2023.06.30
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
パナマのエル・カーニョで金の装飾品を発掘する考古学チーム。映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の公開を受けて、考古学が再び脚光を浴びている。(PHOTOGRAPH BY DAVID COVENTRY, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
パナマのエル・カーニョで金の装飾品を発掘する考古学チーム。映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』の公開を受けて、考古学が再び脚光を浴びている。(PHOTOGRAPH BY DAVID COVENTRY, NAT GEO IMAGE COLLECTION)
[画像のクリックで拡大表示]

 6月30日に公開された映画『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』は、1981年の『レイダース/失われたアーク《聖櫃》』から始まったシリーズの最終作だ。実在か否かを問わず世界で最も有名な考古学者であるインディ・ジョーンズ博士は、今回もまた、多くの本物の考古学者たちの目を丸くさせることになるかもしれない。

 この映画の制作総指揮にあたったスティーブン・スピルバーグは、1975年に映画『ジョーズ』を制作してからサメが悪者扱いされるようになってしまったことを深く後悔していると語ったことがある。たしかに、多くのサメが狩られ、偏見が生じた。けれどもその一方で、多くのサメ科学者や保護活動家が、『ジョーズ』をきっかけにサメの魅力を知ったと語っている。

 では、インディ・ジョーンズは考古学者にどんな影響を及ぼしたのだろうか? 主演のハリソン・フォード氏と現役の考古学者に聞いてみた。

『インディ・ジョーンズと運命のダイヤル』公式予告編
ハリソン・フォード氏が演じる伝説のヒーロー考古学者「インディ・ジョーンズ」が帰ってくる、シリーズ第5作にして最終作。(LUCASFILM)

貴重な遺物はどれもグレーゾーン

 ハイラム・ビンガム、ヘンリー・フィールド、アール・ハルステッド・モリスといった20世紀初頭の考古学者を彷彿とさせるスタイルの考古学者を主人公にした映画が全世界で10億ドル(約1450億円)近い興行収入をあげたのは、たまたま彼が非常勤教授で、謎に満ちた古代の遺物を追いかけるのを趣味にしていたからだった。

 聖杯、聖櫃、シバ神が作った「サンカラ・ストーン」、水晶の頭蓋骨、謎めいた「運命のダイヤル」など、インディ・ジョーンズが追いかけた遺物はいずれも歴史と宗教性と創造性が出会うグレーゾーンにある。この映画シリーズがきっかけになって考古学者を志した人々が、今、世界中で重要な発見をしている。しかし、ナチスとも謀略とも異次元文明とも無縁な現実世界の考古学者が、この架空の冒険家になぞらえられるのは、果たして良いことなのだろうか?

「B級映画を作っているという意識」

 80歳の俳優ハリソン・フォード氏は、ナショナル ジオグラフィックからの電話取材の中で、自身が演じるキャラクターが、ある世代の考古学者たちにインスピレーションを与えたことについてどう思うかと尋ねられて、「確信はありませんが、私たちは彼らに考古学の楽しさを伝えることができたのだと思います」と答えた。「それが自分の手柄だとは思っていません。実際、考古学者に声をかけられることがあります。彼らの経験を聞かせてもらうのは非常に興味深いし、彼らがやりがいのある仕事に出会えたことを喜ばしく思っています。ただ、ちょっと変な感じがしますね」

 たしかに、考古学者としてのジョーンズ博士は普通ではない。彼の発掘方法には疑問があるし、銃と鞭を持って発掘現場に現れるし、目的の品を持ち帰ることはめったにない。「ほとんどの考古学は図書館で行われる」という自身のセリフにもかかわらず、戦車の玉突き事故から核兵器の爆発まで、あらゆる混乱に巻き込まれるのが常だ。

次ページ:考古学者たちはどう思っている?

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
会員*のみ、ご利用いただけます。

会員* はログイン

*会員:年間購読、電子版月ぎめ、
 日経読者割引サービスをご利用中の方、ならびにWeb無料会員になります。

おすすめ関連書籍

2023年7月号

探求を続ける人間/アマゾン奥地の岩絵/謎の人類を探して/サメを再び海へ/未来への道を切り開く/手づくりの世界を歩く/暗く苦しい歴史に光を

ナショジオは1888年の創設以来、世界に関する知見を広め、理解を深めるため、探求を続けてきました。創刊135周年を記念した7月号は、「限りなき探求」がテーマ。ナショジオの歴史を飾った偉大な探求者たちに思いをはせ、現役エクスプローラーたちの先駆的な活動を通して、現在と未来の探求に焦点を当てた内容でお届けします。

特別定価:1,280円(税込)

おすすめ関連書籍

2021年11月号

世界を驚かせた考古学の発見100/エチオピアの苦悩/南極の海の生命を守る/地球最南端の木/長い旅が教えてくれたこと

考古学の発掘調査が始まって2世紀。「世界を驚かせた考古学の発見100」は人類史をひもといた100の発見を振り返ります。今なぜエチオピアで内戦が勃発しているのか、国内情勢などを交えて詳しくレポートする「エチオピアの苦悩」ほか、まもなく9年を迎える人類の祖先の足跡を徒歩でたどるプロジェクト「長い旅が教えてくれたこと」、南米の最南端の島を調査した「地球最南端の木」などの特集をお楽しみいただけます。

定価:1,210円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加