世界で最も多くの海洋ごみが漂う太平洋ゴミベルトが、多くの海洋生物のすみかになっていることが明らかになった。そこにはアオミノウミウシやカツオノカンムリなど、海面近くを浮遊する水表生物が大量に生息していたのだ。これまで海のごみ溜めだと思われてきた太平洋ゴミベルトは、実は知られざる生物学的ホットスポットかもしれない。
「海洋ゴミベルトは、本当に重要な海の生態系になっているのです。ところが私たちは、これについてほとんど何も知りません」と話すのは、5月4日付けで学術誌「PLOS Biology」に発表された論文の筆頭著者で、米ジョージタウン大学の海洋生物学者レベッカ・ヘルム氏だ。「これまでプラスチックごみにばかり焦点が当てられてきて、生態系は完全に見過ごされていました」
ここに主にすんでいる水表生物の多くは、体の上の、光が当たる部分が青く、光が当たらない下の部分は白くなっている。このような体色の違いはカウンターシェーディングと呼ばれ、上空からも海中からも捕食者に発見されにくいのだと、ヘルム氏は言う。(参考記事:「魚竜は中身も模様もイルカに似ていた、新たに判明」)
調査で見つかった生物は、ギンカクラゲやアサガオガイ、アオミノウミウシなど。花のような形をしたギンカクラゲは「星のようにキラキラと瞬いていました」と、ヘルム氏はツイッターの投稿で振り返っている。
アサガオガイは、薄い粘液をいかだ代わりにして水面に浮かぶ。また、クラゲの仲間のカツオノエボシを捕食するアオミノウミウシは、捕らえたカツオノエボシの刺胞を盗み取り、自分の体をそれで覆って防御用の鎧にしてしまう。
「これほど多くの生物がいたとは驚きです。一般的にプラスチックは、海洋生物にとってあまり有益ではないと考えられていますし、北太平洋のゴミベルトは栄養の密度がとても低いので」と話すのは、米ケース・ウエスタン・リザーブ大学の海洋学者A・W・オムタ氏だ。なお、オムタ氏は今回の調査には参加していない。
今のところ、プラスチックと海洋生物が混在するゴミベルトが、海の他の生態系にどのような影響を与えているのかはわからない。これまで、ウミガメや海鳥、魚の体内から、エサと一緒に飲み込んだと思われるプラスチックごみが発見されたことがあり、問題視されてきた。
太平洋ゴミベルトにすみついている生物は、プラスチックのように海面を浮遊している。おそらく、海に流出したプラスチックごみと同じ海流に乗って、この海域に集まってきたと思われる。
科学者たちがゴミベルトの存在に気付いたのは、プラスチックごみが大量に集まっていたからではあるが、プラスチックが発明されるよりもはるか昔、数万年ないし数百万年前からそこには生態系があったはずだと、ヘルム氏は言う。「ただ、これまで人間が気付いていなかっただけです」
ゴミベルトを泳ぐチームに調査を依頼
地球上の海には、複数の海流が集まって大きな渦を作っている場所が5カ所ある。海に浮かぶゴミは、その海流に乗って渦の中心に集まり、ゴミベルトを形成する。なかでも最大なのが、カリフォルニアとハワイの間にある太平洋ゴミベルトだ。オランダの非営利団体「オーシャン・クリーンアップ」によると、太平洋ゴミベルトの広さはフランスの国土の約3倍に匹敵し、蓄積したプラスチックの数は1兆8000億個、重さはおよそ8万トンと推定されている。
北半球にはこのほかにも、北大西洋にゴミベルトが存在する。こちらは、水表生物のオアシスになっているサルガッソ海に重なっている。「サルガッソ海は、昔から北大西洋の生態学に欠かせない重要な海として知られていました」
そこでヘルム氏とその研究チームは、他のゴミベルトにも生物が生息しているのかどうか調べることにした。
おすすめ関連書籍
プラスチックの製造から利用、廃棄までのプロセスを追跡し、豊富なデータでプラスチックによる環境問題を見える化。
定価:1,760円(税込)