月へ再び、その先へ

アポロ計画から半世紀、NASAはなぜ再び月を目指すのか

2023.09.29
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2022年10月、地球上で月面歩行のシミュレーションを行う宇宙飛行士のドルー・フォイステル(左)とジーナ・カードマン。重さ36キロ余りの訓練用の宇宙服を着ている。月の重力下で本物の宇宙服を着たときの可動域と重さを体感するためだ。(PHOTOGRAPH BY DAN WINTERS)
2022年10月、地球上で月面歩行のシミュレーションを行う宇宙飛行士のドルー・フォイステル(左)とジーナ・カードマン。重さ36キロ余りの訓練用の宇宙服を着ている。月の重力下で本物の宇宙服を着たときの可動域と重さを体感するためだ。(PHOTOGRAPH BY DAN WINTERS)

この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2023年10月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

NASAの「アルテミス計画」で、人類は半世紀ぶりに再び月を目指す。それは火星やさらに遠くの宇宙を探査する計画への布石となるか。

 ロケットが上空に吸い込まれていき、ついには空の星になる。「この瞬間がたまらなく好き!」

 そう叫んだのは、米航空宇宙局(NASA)の宇宙飛行士であるクリスティーナ・コックだ。ここは米国フロリダ州ケネディ宇宙センターの小高い丘の上。コックは3人の同僚とともに青い飛行服を着て、高さ98メートルの巨大ロケット「スペース・ローンチ・システム(SLS)」が夜空に輝く小さな点になるのを見守っていた。

 SLSが打ち上げられたのはその数分前、米国東部時間の2022年11月16日午前1時47分だ。「宇宙打ち上げ装置」を意味する名称はいささか地味だが、このロケットは推力がジャンボジェット31機分に当たる3万9100キロニュートンもあり、それまでに打ち上げられたロケットのなかでは最大だった。発射台からかなり離れた丘の上でも、ガスが噴出する振動を体で感じるほどだ。

米国東部時間の2022年11月16日午前1時47分、爆音を上げながら宇宙に飛び立ったアルテミス1号。この写真を安全に撮影するため、写真家のダン・ウィンターズは発射台から300メートル離れた場所に音で起動するカメラを設置し、自身は5キロ以上離れた場所で打ち上げを見守ったが、そこでもすさまじい爆音が耳をつんざいた。(PHOTOGRAPH BY DAN WINTERS)
米国東部時間の2022年11月16日午前1時47分、爆音を上げながら宇宙に飛び立ったアルテミス1号。この写真を安全に撮影するため、写真家のダン・ウィンターズは発射台から300メートル離れた場所に音で起動するカメラを設置し、自身は5キロ以上離れた場所で打ち上げを見守ったが、そこでもすさまじい爆音が耳をつんざいた。(PHOTOGRAPH BY DAN WINTERS)

 巨大ロケットは時速2万8000キロ以上で軌跡を描き、宇宙船オリオンを空の高みへと送り込んだ。オリオンは宇宙飛行士をかつてなく遠くまで運べるように設計されている。今回は無人飛行だが、月より遠い宇宙空間を目指す旅が人体に及ぼす影響を調べるため、船長代わりのマネキン人形と、女性の胴体を模した2体の人形を乗せていた。

2022年11月のアルテミス1号ではオリオンは無人で打ち上げられたが、宇宙飛行が人体に及ぼす影響を記録するため、人形が船長席に乗せられた。この人形は、アポロ13号の事故で乗組員の命を救ったNASAの技術者アルトゥーロ・カンポスにちなんで「カンポス」と名づけられた。(PHOTOGRAPH BY DAN WINTERS)
2022年11月のアルテミス1号ではオリオンは無人で打ち上げられたが、宇宙飛行が人体に及ぼす影響を記録するため、人形が船長席に乗せられた。この人形は、アポロ13号の事故で乗組員の命を救ったNASAの技術者アルトゥーロ・カンポスにちなんで「カンポス」と名づけられた。(PHOTOGRAPH BY DAN WINTERS)

 これらの人形は25日と10時間53分にわたるミッションの期間中に、地球から50万キロ近く離れた宇宙空間まで旅し、時速4万キロ近い速度で大気圏に再突入した。次のミッションでは、オリオンは4人の宇宙飛行士を乗せて月を周回する予定で、コックもその一人になりたいと切望していた。

 NASAは今、半世紀ぶりに月に人間を送り込もうとしている。2022年に実施されたこのミッション「アルテミス1号」は、そのための重要な一歩だった。計画通りに行けば、24年11月のアルテミス2号で有人の月フライバイ(月の近くを通過する飛行)を行い、25年後半のアルテミス3号で、いよいよ有人の月面着陸に挑む。その後さらにミッションを重ね、月面に足場を築く予定だ。

月面再訪へのステップ
月面再訪へのステップ
NASAの最新の宇宙船は人間を月だけでなく、かつてなく遠くまで運べる設計になっている。アルテミス計画は段階的に実施される。最初のミッションであるアルテミス1号は2022年に行われ、無人の宇宙船が月を越えてさらに数万キロ先まで旅し、無事に地球に帰還した。次の段階であるアルテミス2号は、早ければ2024年秋に米国フロリダ州のケネディ宇宙センターから4人の宇宙飛行士を乗せて飛び立つ。宇宙船は超重量級の上段を搭載できる改良版のスペース・ローンチ・システム(SLS)で打ち上げられ、月の裏側を通る10日間の旅をする。目的は、今後のミッションに向けてシステムと宇宙飛行士の能力を試し、月とさらにその先の宇宙探査ができるように限界を押し広げることだ。(出典: NASA)

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