生命を異星の海に探す

地球外生命が存在する可能性があると注目される3つの衛星

2023.09.29
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
誌面で読む
土星の衛星エンケラドゥス。亀裂の走る氷殻の下には全球を覆う海が存在し、生命に必要な成分がすべて含まれている可能性がある。(疑似カラーのモザイク画像(21点):NASA/ JPL/SPACE SCIENCE INSTITUTE)
土星の衛星エンケラドゥス。亀裂の走る氷殻の下には全球を覆う海が存在し、生命に必要な成分がすべて含まれている可能性がある。(疑似カラーのモザイク画像(21点):NASA/ JPL/SPACE SCIENCE INSTITUTE)

この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2023年10月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

太陽系の氷の衛星に生命の手がかりを探すには、まず地球上で調査技術を試さなくてはならない。

 アクセルレバーを押すと、スノーモービルは一面に広がる雪と氷の海を快調に走りだした。

 たそがれ時で周囲の景色は青く染まり、別世界にいるようだ。ここはノルウェーのスバールバル諸島。上空でオーロラが踊るように揺らめき、イッカクやシロイルカ、セイウチが周辺の海を泳ぐ北極圏のこの島々で、私は凍結したフィヨルドを一日中走り回り、町へ戻るところだった。

 季節は3月で、太陽は1カ月ほど前に空に戻ってきていた。同行の10人の研究者は、ピンゴと呼ばれる独特の地形に生息する微生物を探している。ピンゴは永久凍土層に形成される大小さまざまなドーム状の丘で、地下にしみこんだ水の凍結と融解によって拡張と収縮を繰り返す。氷点下25℃前後の気温のなか、科学者たちは1日に何カ所も調査地を訪ねては、氷床コアと水のサンプルを採取した。

ノルウェーのスバールバル諸島で、スノーモービルのライトに照らされているのは、写真家のカーステン・ペーター。ピンゴと呼ばれるドーム状の地形の大きさをとらえるため、ドローンを飛ばして撮影を行っている。このピンゴは一帯で最大級だ。(PHOTOGRAPH BY CARSTEN PETER)
ノルウェーのスバールバル諸島で、スノーモービルのライトに照らされているのは、写真家のカーステン・ペーター。ピンゴと呼ばれるドーム状の地形の大きさをとらえるため、ドローンを飛ばして撮影を行っている。このピンゴは一帯で最大級だ。(PHOTOGRAPH BY CARSTEN PETER)

 ピンゴに生息する微生物は、地球外生命が太陽系のほかの星、たとえば氷の外殻(氷殻)の下に海が広がる氷衛星(こおりえいせい)に存在している可能性があるかを探る手がかりになる。ピンゴ内部の微生物は、冬の間は「まったく太陽エネルギーが得られず、化学エネルギーに頼るしかないからです」と話すのは、ノルウェーのトロムソ大学の微生物学者で、今回の調査隊を率いるディミトリ・カレニチェンコだ。

スバールバル諸島の町ロングイェールビーン近くのピンゴで、氷床コアを採取する微生物学者のディミトリ・カレニチェンコ(右端)と宇宙生物学者のケビン・ハンド(膝を突いている男性)。暗く極寒のピンゴ内にすむ微生物は、氷衛星に存在するかもしれない生命体と似た生存戦略をもつ可能性がある。(PHOTOGRAPH BY CARSTEN PETER)
スバールバル諸島の町ロングイェールビーン近くのピンゴで、氷床コアを採取する微生物学者のディミトリ・カレニチェンコ(右端)と宇宙生物学者のケビン・ハンド(膝を突いている男性)。暗く極寒のピンゴ内にすむ微生物は、氷衛星に存在するかもしれない生命体と似た生存戦略をもつ可能性がある。(PHOTOGRAPH BY CARSTEN PETER)

 限られた太陽光の下で生きる生物の研究は比較的新しい。「私たちは長い間、地球上の生物の大部分は地表にしか存在せず、完全に光合成に頼っていると考えてきました」と話すのは、カナダのトロント大学の地質学者で、地中深くにすむ微生物を研究するバーバラ・シャーウッド・ローラーだ。しかし1970年代後半、潜水調査艇アルビン号がガラパゴス諸島近くの熱水噴出孔を探索し、水深2500メートルの深海に生態系が繁栄していることを突きとめた。これによって、生命活動の限界をめぐる、それまでの概念が覆されたのだ。

次ページ:氷の下の生態系を探して

ここから先は、「ナショナル ジオグラフィック日本版」の
定期購読者*のみ、ご利用いただけます。

*定期購読者:年間購読、電子版月ぎめ、
 日経読者割引サービスをご利用中の方になります。

おすすめ関連書籍

2023年10月号

発見の新しい時代/月へ再び、その先へ/原始の宇宙へ/生命を異星の海に探す

ナショジオはNASAとのパートナーシップにより、アルテミス計画のミッションを記録し、伝えていくことになりました。10月号はその第1弾。アポロ以来となる21世紀の月面着陸ミッションのほか、新発見が期待されるジェームズ・ウェッブ宇宙望遠鏡、木星や土星の衛星に生命が存在する可能性、特製付録もついたナショジオの宇宙特別号をお楽しみください!

特別定価:1,340円(税込)

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
誌面で読む