アルハンブラ 秘められた素顔

グラナダ王国が残した美と洗練の極致、アルハンブラ宮殿を探訪する

2023.11.29
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スペイン南部のグラナダにあるアルハンブラ宮殿。イベリア半島のイスラム統治時代、建築の黄金期に造られた。14世紀のコマレス宮(左端の塔がある建物)など、イスラム教国の君主であるスルタンが数代にわたって建てた宮殿もある。奥にある頑強な四角い宮殿は、後にキリスト教徒の王のために建てられた。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN HEEB, LAIF/REDUX)
スペイン南部のグラナダにあるアルハンブラ宮殿。イベリア半島のイスラム統治時代、建築の黄金期に造られた。14世紀のコマレス宮(左端の塔がある建物)など、イスラム教国の君主であるスルタンが数代にわたって建てた宮殿もある。奥にある頑強な四角い宮殿は、後にキリスト教徒の王のために建てられた。(PHOTOGRAPH BY CHRISTIAN HEEB, LAIF/REDUX)

この記事は雑誌ナショナル ジオグラフィック日本版2023年12月号に掲載された特集です。定期購読者の方のみすべてお読みいただけます。

イベリア半島最後のイスラム王朝による統治は250年に及んだ。その牙城となった有名なアルハンブラ宮殿を探訪する。

 その男性はスペイン南部のグラナダに立つアルハンブラ宮殿とつながりが深い。

 ヘスス・ベルムデスという名の彼は、この要塞で生まれ、城壁内で育った。20世紀半ばに彼の父親がアルハンブラ博物館の館長に就任し、一家は敷地内の住宅に引っ越した。アルハンブラ宮殿はベルムデスにとって「舞台」であり、そこで日々の生活を送り、遠い昔の伝説と歴史に夢中になり、尽きることのない愛情を育んでいったという。そして、イベリア半島に800年近く君臨したイスラム王国の栄華を伝えるこの宮殿で、彼は40年近くにわたって考古学者および管理者として務めを果たしてきた。

 ベルムデスは、アルハンブラ宮殿の舞台裏ツアーの案内をしてもらうのに理想的な人物だ(公式ガイドブックも執筆している)。私たちは、4つある宮殿の入り口のうち最も大きい「裁きの門」から出発し、有名な中庭や塔の数々だけではなく、通常は見学できない、事実と伝説が混ざり合う奥まった場所も訪れた。アルハンブラでは現在も研究者による考古学調査や修復作業が続いている。なかには20年近くに及ぶ修復を最近になって終えた美術品もある。

「アルハンブラは宮殿都市です」とベルムデスは話す。「国家元首の地所であり、軍の兵舎が並び、洗練された街が栄え、250年間にいくつもの宮殿が建てられました」。1238年にムハンマド1世が建設を開始した要塞アルカサバは素朴な建築物だったが、その後のナスル朝の様式に合わせて壮麗な宮殿群が登場した。

 アルハンブラ宮殿はイベリア半島におけるイスラム勢力最後の牙城だったが、1492年、ナスル朝は滅亡。打倒したのは、カスティーリャ王女イサベルとアラゴン王子フェルナンドの結婚によって統一されたスペイン王国だった。

宮殿群
宮殿群
ナスル朝のアルハンブラ宮殿は、1492年まで西欧におけるイスラム支配の最後の牙城だった。ここに描かれているのは15世紀のアルハンブラだ。宗教上の象徴的意味をもたせ、権勢を示すような宮殿群が造られた。
アル・アンダルスの変遷
アル・アンダルスの変遷
(FERNANDO G. BAPTISTA, ROSEMARY WARDLEY, PATRICIA HEALY, AND EVE CONANT, NGM STAFF 出典: JESÚS BERMÚDEZ, MARÍA ISABEL JIMÉNEZ ARCO, JOSÉ CARLOS ÁVILA CANO, AND AMELIA GARRIDO CAMPOS, PATRONATO DE LA ALHAMBRA Y GENERALIFE; JOSÉ MIGUEL PUERTA VÍLCHEZ, UNIVERSITY OF GRANADA; HUGH KENNEDY, SOAS UNIVERSITY OF LONDON; SANTIAGO QUESADA-GARCÍA, UNIVERSITY OF SEVILLE; NATIONAL CENTER FOR GEOGRAPHIC INFORMATION)

 ナスル朝は、グラナダ王国を統治した254年間、現在のアンダルシア地方に当たる領土を治めていた。当時は「アル・アンダルス」と呼ばれていたイベリア半島のイスラム支配地域で、グラナダ王国は美と洗練の極致ともいうべき建築物を残した。

次ページ:アルハンブラ宮殿を世界に知らしめた外交使節

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