ジョブズ、工業製品をアートにした男の生き様 孤独感がデザインへの異常なこだわりを生んだ

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「1つのことを、一生やり続けられると確信する日がくる」スティーブ・ジョブス NEXTのオフィスにて。 1990年9月(撮影:小平 尚典)
いまもなお語り継がれる伝説の経営者であるスティーブ・ジョブズの知られざる姿を、若き頃から彼を撮り続けてきた写真家の小平尚典と、あの300万部を超えるベストセラー『世界の中心で、愛をさけぶ』を著した片山恭一がタッグを組んで描く連載。第7回をお届けします(毎週月曜配信予定)。

7 アンディ・ウォーホルのことなど

何年か前に、ある街のアップル・ストアに立ち寄った。新型のiPhoneが発売されたばかりだったのだろう。店内の壁一面に、色とりどりのスマートフォンが整然とディスプレイしてある。それが1枚のタブローのように見えて、思わず近くにいたスタッフに「ウォーホルみたいだね」と話しかけていた。あいにく意味は通じなかったようだ。

アンディ・ウォーホルの作品には複製(コピー)を強く意識したものが多い。有名な「マリリン」はシルク・スクリーンで刷ったマリリン・モンローの顔に彩色を施したものだ。シルク・スクリーンというのは一種の謄写版印刷だから、手法からしてコピーである。また作品に使われた画像は、映画『ナイアガラ』のスチール写真らしい。さらに彩色を変えた「マリリン」を何枚も並べて1つの作品とする。同様の手法はエルヴィス・プレスリーでもエリザベス・テイラーでも毛沢東でも、メルセデス・ベンツなど人以外のものでも使われている。スープ缶の同じ絵を並べて見せたこともある。

ウォーホルの作品に感じたiPhoneと似たアート

こうしたウォーホルの作品と似たものを、アップル・ストアに並べられたiPhoneにも感じたのである。ウォーホルが商業デザインから出発したことも関係しているのかもしれない。それ以上に、ウォーホルには意図的に芸術の商品性を強調するところがあった。実際、彼の作品はTシャツをはじめさまざまな商品に使われている。デパートのトイレでは頻繁に「フラワーズ」などのポスターと遭遇する。ウォーホルの仕事場は「アトリエ」ではなく「ファクトリー(工場)」と呼ばれた。ウォーホルと対比させれば、ジョブズのほうはファクトリーをアトリエに見立てたと言えるかもしれない。

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ウォーホルの作品を「芸術」と呼べるのかという議論は以前からある。芸術であるか否かはともかく、多くの人が彼の作品をポップでかっこいいと思っていることは確かだ。だからアマゾンではポスターやカレンダーがたくさん売られているのだろう。かっこいいものは現在のぼくたちの感覚では「美」の範疇に含まれる。美を喚起するものを「アート」と呼べば、ウォーホルの作品は紛れもなくアートである。

アップル製品についても、やはりほかのメーカーのものに比べてかっこいいと感じる人は多いようだ。いくらか割高でもiPhoneを選ぶ。とくに日本では異常に人気が高いらしい。彼らにとってiPhoneは一種のアートなのだろう。すると生みの親であるジョブズはアーティストということになる。

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