FRBの「平均」2%目標、いったい何を考えたのか 日銀の経験に照らせば「意気込み」の効果は疑問

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意気込みは大事?実態として「新たな政策」というほどのものではなかったが(写真:ロイター/KEVIN LAMARQUE)

日本時間8月27日夜、パウエルFRB(連邦準備制度理事会)議長がジャクソンホール経済シンポジウムで講演するタイミングと合わせ、FRBは「長期目標と金融政策戦略(Statement on Longer-Run Goals and Monetary Policy Strategy)」と題した声明文を公表した。

FOMC(連邦公開市場委員会)を待たずにこうした声明文を出してきたことはやや驚きである。端的に言えば、「物価が2%を下回ったままの場合、当面は2%を超えるインフレを目指す」との方針が示され、結果として、「ある期間の物価上昇率が平均して2%になればよい」という部分が新基軸とされている。

厳密には「seeks to achieve inflation that averages 2 percent over time」との表現が示されており、どの程度の期間を平均の対象とするのかは明記されていない。「継続的に2%を下回る間(periods when inflation has been running persistently below 2 percent)、適切な金融政策は当面の間(for some time)、緩やかに2%を超えることを目指す」とあるが、物価動向が低迷している時に緩和を強化するのは中央銀行として普通の話である。

問題は「2%を超えることを目指す」と意気込みを述べたことで政策の有効性がどれほど強まるのかである。この点、日本銀行の経験を踏まえれば、かなり疑義があるやり方だと感じたのは筆者だけではないだろう。

「平均2%目標」という現状追認

少なくとも、今回突如として発表された声明文がFRBの現状認識に影響を与え、「次の一手」が大きく変わるようなことはないだろう。インフレ指標については、最新となる6月スタッフ見通しにおける2022年の個人消費支出(PCE)デフレーターを見た場合、総合・コア共に1.7%と2%を割り込んでいる。また、実績ベースでは2018年末以降、2%にタッチできていないという事実もある。

どこからどこまでの平均を取るのか定かではないが、仮にスタッフ見通しを前提とするならば、少なくとも2022年末まで、この「平均2%目標」の枠組みでは引き締めに転換できないということになる。

だが、そのような政策見通しは6月のドットチャートで注目された「2022年末までゼロ金利で意見集約」というヘッドラインと平仄が合う。耳目を集めている「アベレージ・ターゲット」(平均目標)という代物は現状追認のための枠組みと理解すればよいのではないだろうか。ただ、「平均して2%」を目指すのであれば、よほど非線形に物価が上がる展開を想定しない限り、2023年中も難しいように感じられる。

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