半導体のように有機ELでも「日本の逆転」は狙える 「開発の第一人者」はこれからが勝負と断言する

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JOLEDのモニター
JOLEDは医療用モニターなどで製品を採用してもらうことを目指したが、歩留まりが改善せずに収益悪化が続いた(撮影:今井康一)
日本メーカーが研究開発をリードしてきた有機ELディスプレー(以下、有機EL)。『日の丸「有機EL」、技術で勝ってビジネスは完敗』に詳述したように、日本勢は衰退の危機に瀕している。有機EL開発の第一人者である山形大学大学院の城戸淳二・卓越研究教授はこの現状をどうみているのか。話を聞いた。


──製造技術で世界的な技術を持つJOLED(ジェイオーレッド)が経営破綻しました。日本の有機EL開発は万策尽きたのでしょうか。

国は有機ELなんて「負けて終わった技術」で、逆転できるなど思っていないだろう。しかし装置と材料は日本メーカーが高いシェアを握り、最先端技術が国内にある。いくらでも勝てる。今、半導体は最先端分野で逆転しようとしているが、国がその気になれば有機ELでも逆転できる。

──有機ELでは、サムスン電子が中小型の量産技術を確立しLG電子が大型化に成功しています。それら韓国勢に追いつけると?

彼らは「蒸着方式」(有機物を蒸発させて基板に付着させる)という製造方式で量産化に成功しているが、「印刷方式」(印刷技術で基板に付着させる)ではJOLEDが世界でいちばん進んでいた。JOLEDに中途半端なお金を投資し、工場稼働を継続させるような延命措置ではなく、市場シェアを奪いにいく戦略が必要だ。

日本の電機メーカー全体に言えるが、とにかく投資が中途半端。JOLEDの場合、従業員が食えればいい程度のお金しか国が入れなかった。それで研究開発に余裕がなく進化が遅れてしまった。ソニーとパナソニックの有機EL事業部がジリ貧で悶々とした技術者たちが余っている、それを統合して国がお金を出すからがんばりなさいよ、という寄せ集めの構図だった。

ところで、スマートフォン用の基板サイズの生産ラインを転用していたJOLEDが、スマホ向けの有機ELを生産しなかった理由はわかりますか?

JOLED敗因の本質

──生産能力が足りなかったのでは。

アップルならJOLEDから買いたがったはずだ。アップルに対してサムスンは最先端パネルを売り渋る。両社はスマホでライバル関係にあるから。

では、JOLEDがなぜ作らないかというと、スマホ用の高精細なディスプレーは現状のインクジェット印刷方式では技術的に作れない。それならば(印刷方式が適しているとされる)テレビ用の大型パネルを生産すればいいが、スマホ用の生産ラインだから基板サイズが小さくて効率が悪い。

また、テレビは離れて見るので高い輝度(明るさ)が求められる。スマホ用の有機EL素子をテレビ用に使って明るさを10倍にすると、素子の寿命が20分の1にまで下がってしまう。だから有機EL素子を2段、3段と重ねた「タンデム型」にすることで3倍の明るさを実現し、寿命を延ばす必要がある。大型と小型では素子構造が違う。

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