ようやく「本物の5G」が始まったが、普及の歩みは決して速くはない

米国の4大通信キャリアによる5Gサーヴィスが出揃った。理論上の最高通信速度が下りで10Gbpsにもなるとされる5Gだが、実際のところ提供エリアが限定されているか、速度が4Gより少し速い程度にすぎないことが多い。どうやら本格的な普及には、まだまだ時間がかかりそうだ。
ようやく「本物の5G」が始まったが、普及の歩みは決して速くはない
DAVID ZAITZ/GETTY IMAGES

第5世代移動通信(5G)の壮大な構想が、徐々に実現に近づきつつある。最終的には、最も速い家庭向けブロードバンド通信サーヴィスの10倍にも達する通信速度が実現するとされている。

通信大手のAT&Tが12月にロサンジェルス、サンフランシスコ、サンノゼを含む10都市で開始した新たな5Gサーヴィスの特筆すべき点は、実際には4Gの改良だった同社の先行サーヴィス「5G Evolution」とは異なり、今回は正式な5G規格に準拠している点だ。しかし現時点では、新サーヴィスの通信速度が「5G Evolution」相当であることをAT&Tは認めている。およそ158Mbpsという最高速度は、競合のTモバイルが提供する米国で最も高速な5Gサーヴィスと大差ない。

AT&Tの新サーヴィス開始により、米国の全4大キャリアが、少なくとも一部の消費者を対象に何らかの5Gサーヴィスを提供することになった。しかし、盛んに喧伝されてきた5Gへの期待を満たす実力には、これらのネットワークではほど遠いのが現状だろう。

というのも、いまのところ一般的な4Gのサーヴィスと比べても速度の向上がわずかである場合が多いからだ。それに一部のサーヴィスは最速の通信速度を提供しているものの、地域によってむらがある。その一方で、韓国やスイス、中国などでは、2019年内に高速ネットワークを全面的に提供開始することを目指し、順調に歩みを進めている。

異なる周波数帯域という問題

次世代の高速ワイヤレス通信である5Gは、理論上の最高速度が10Gbpsにもなる。グーグルが提供する「Google Fiber」の家庭用ブロードバンドサーヴィスの10倍の速度だ。

ところが、データ分析企業のOpenSignalが実施したテストによると、米国における現在の5Gのダウンロード速度は、最大でもおよそ1.8Gbpsにすぎない。これは世界一の速度ではあるが、一部の地域に限定されている。

速度の格差が大きい原因のひとつは、キャリアがそれぞれ異なる周波数帯域に基づいて5Gサーヴィスを提供しているからだ。米連邦通信委員会(FTC)は無線の周波数帯域を、低周波数帯、中周波数帯、高周波数帯の3つのカテゴリーに区分している。

低周波数帯はテレビ放送やモバイルデータ通信に利用されており、最も混雑していることから速度はいちばん遅い。高周波数帯は昔から用途の少ない周波数帯だが、未使用の帯域幅が大量に余っている。このうち「ミリ波」帯が最速の5Gサーヴィスに利用されている。

ただしミリ波の問題点として、信号の伝達距離が限られている。このため通信キャリアは、同じエリアをカヴァーするだけでも基地局の数を増やさなければならない。

これらの中間にあたるのが中周波数帯だ。帯域幅では高周波数帯に劣るが、中周波数帯には広範囲のエリアに対応しやすいというメリットがある。こうした利点にもかかわらず、米国では中周波数帯の5Gは普及が進んでいない。

確かに高速ではあるが……

このうち低周波数帯を利用するTモバイルは、米国の4大キャリアうち最も広いエリアで5Gを提供している。同社はニューヨークやロサンジェルスに加え、そのほか多くの地方を対象に5Gネットワークを提供しており、対象は国内人口の約60パーセントに相当する2億人に達すると謳っている。『WIRED』US版の調査によると、同社のサーヴィスはダウンロード実効速度が5M〜158Mbpsだった。

OpenSignalが今年発表したレポートによると、米国における4Gの平均速度は21.3Mbpsである。これを踏まえれば、158Mbpsという上限速度は魅力的ともいえる。ただし、Tモバイルの通信速度は4Gネットワークでも100Mbpsを超えることがある。同社の5Gサーヴィスは4Gサーヴィスと比べて、平均しておよそ20パーセント高速であるという。

もうひとつの問題点として、Tモバイルの5Gに対応するスマートフォンはわずか2機種にすぎず、しかも高価である。サムスンの「Galaxy Note 10+ 5G」の価格は1,300ドル(約14万3,000円)だが、5G非対応モデルは1,100ドル(約12万円)で販売されている。また、「OnePlus 7T Pro 5G McLaren Edition」は900ドル(約98,000円)だが、5Gに非対応の通常モデル「OnePlus 7 Pro」は700ドル(約77,000円)だ。

ちなみにアップル製品のファンは、いましばらくの辛抱が必要になる。同社が5G対応のiPhoneを発売するのは、来年以降と見られている。

各社とも提供エリアは限定的

ベライゾンの5Gサーヴィスは、高周波数帯のミリ波帯域を利用している。『WIRED』US版の調査では、同社の5Gはダウンロードの実効速度が600M〜1.5Gbpsだった。ただし利用できる地域は、シカゴのリンカーンパークエリアの大通りやニューヨークのブライアント・パーク周辺など、米国17都市のごく一部に限られる。

対応地域でも電波状態は悪く、屋内に入ると接続が途切れてしまう。それにベライゾンの5Gサーヴィスには新しい高価なスマートフォンが必要なうえ、月額10ドルの追加手数料が必要になる。同社には5Gを利用した家庭用ブロードバンドサーヴィスもあるが、提供エリアは数カ所に限られている。

なお、AT&Tの新サーヴィスは低周波数帯を利用する。同社は法人顧客限定で、ミリ波によるサーヴィスも数カ所で提供している。

スプリントは米国の大手キャリアで唯一、中周波数帯に基づく5Gサーヴィスを提供しており、調査によるとダウンロード実効速度は110M〜400Mbpsだった。利用可能な地域はニューヨーク、ロサンジェルス、シカゴなど数都市の一部エリアに限られているが、対応エリアマップによれば利用できる地域はベライゾンの5Gよりはるかに広い。同社は米国の人口のおよそ3パーセントに相当する1,100万人をカヴァーするとしている。

先行する韓国

通信キャリアによる中周波数帯の活用が依然として進まないのは、FTCが周波数帯域の割り当てに消極的だからだ。米国では中周波数帯の大部分が衛星通信事業者や軍事レーダーシステムによって使用されており、割り当てが進まない原因のひとつでもある。

だがFTCはいまになって、5G向けの中周波数帯域をオークションにかけることに躍起になっている。これに対し、中国と韓国が中周波数帯を5Gに転用する動きは素早かった。

コンサルティング企業Strategy Analyticsのフィル・ケンドールによると、韓国の通信キャリアは2019年内に人口の90パーセントをカヴァーすることを目指して順調に歩みを進めているという。

「これらのネットワークの平均ダウンロード速度は通常300M〜500Mbpsに達し、ピークダウンロード速度は800M〜900Mbpsにもなります」と、ケンドールは言う。ただしいまのところ、屋内におけるサーヴィスの品質は屋外に比べて大きく劣る。「屋内にも電波は届きますが、電波の強度は4Gに及びません。ダウンロード速度は大幅に低下することがあります」

Recon Analyticsのロジャー・エントナーによると、韓国では2〜3年以内に、地方も含めて全土が5Gの対応エリアになる。ただしエントナーが指摘する通り、韓国は比較的国土が狭い国だ。これはスイスも同様で、同国は2019年内にも人口のおよそ90パーセントをカヴァーする見込みであるという。

世界的な普及はまだ先

米国にとって5Gの“競争相手”と目される中国に関して言えば、5Gの展開が順調に進んでいるかどうかは微妙なところだ。新華社通信は10月、同国のモバイルキャリア3社が50都市を対象に5Gサーヴィスを開始したことを伝えている。しかし、対応エリアの広さや通信速度については明らかになっていない。

「これらの都市に対応エリアが点在しているのが実情だと思います」と、Strategy Analyticsのケンドールは言う。北京における通信速度が100M〜1.2Gbpsであると中国メディアが報じていることから、ネットワークには改善の余地があるとケンドールは指摘している。

数カ国で5Gが実現しても、世界的に普及するのはまだ先の話だ。世界中の多くの利用者はいまだに3G止まりであり、それどころかモバイルサーヴィスにアクセスできない人も依然として大勢いる。OpenSignalの予測では、2020年に入ってからも世界的には5Gより3Gの普及率が上回るという。

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TEXT BY KLINT FINLEY