科学に耳を傾けること、行動すること:『WIRED』が振り返る2019年(サステナビリティ編)

グレタ・トゥーンベリの活動をはじめ、今年は毎日のように気候変動に関する報道が続けられていた。「WIRED.jp」でも多くの記事を公開したが、なかでもよく読まれた記事にはいくつかの共通項がある。『WIRED』日本版が振り返る2019年(サステナビリティ編)をお届けしよう。
科学に耳を傾けること、行動すること:『WIRED』が振り返る2019年(サステナビリティ編)
THIERRY MONASSE/GETTY IMAGES

2019年、「WIRED.jp」は気候変動やサステナビリティに関する記事を数多く公開した。なかでも特によく読まれた記事を振り返ってみると、気候変動の解決策に対して懐疑的な視点を投げるタイトルがいくつかランクインしていることに気づく。

エアコンによって二酸化炭素を燃料に変える「クラウドオイル」技術や、二酸化炭素の海底貯蓄。食肉よりもサステナブルなタンパク源として期待されている培養肉や食用昆虫。あるいは、牛の「減ガス化」プロジェクト。これらはひとつの解決策になる可能性を秘める一方で、それが本当にサステナブルなのかは完全にはわかっていない。

昆虫食の大規模生産を行なうとき、餌は持続可能な方法で供給できるのだろうか。培養肉生産やクラウドオイル技術に必要な電力は、どうやってまかなわれるのだろうか(まさか石炭火力発電ではあるまい)。

あるいは新技術に期待しすぎるあまり、二酸化炭素の排出量を早急に減らすという目標が後手に回ってしまう可能性だってある。

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だからこそ、わたしたちは常に科学的検証に耳を傾けつつ、その一方でいま自分にできるアクションをとっていかなくてはいけない。

2019年は若者たちのアクションがメディアに広く取り上げられた年でもあった。16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリが2018年に始めた気候変動学校スト「未来のための金曜日(Friday for Future)」は、今年になって世界中に広まり、実際に大人たちを動かし始めた。またSNSで広く拡散されたファッションボイコットの記事は、「52週間、新品の服は買わない」という若者たちのムーヴメントを追ったものだった。

もちろん、こうしたアクションに対する批判的な意見もあるだろう。だが、それならそれに代わる対策を自分なりに始めることも忘れてはならない。クラウドオイルに関する記事のなかで、とある環境社会学者はこう話している。「新技術を追求することが倫理に反するとは思いません。それだけを追求することが倫理に反するのです」

実際のところ、グレタ・トゥーンベリも「わたしの声を聞いてほしいわけではありません。科学者の声を聞いてほしいんです」と明言している。彼女のメッセージはただひとつだ。「科学の元に団結してほしい。そして、実際に行動してほしいんです」

問題を直視し、自分たちにできることを自ら考え行動する人々の姿勢に、わたしたちは多くを学べるだろう。


01

16歳の環境活動家グレタ・トゥーンベリが突きつける気候変動の現実と、“行動”できない先進国たち

グレタ・トゥーンベリが登壇したことでも話題になった9月の「気候行動サミット」。実は、二酸化炭素の排出量対策を十分に行っていないこと、あるいはパリ協定に反する政策を打ち出していることを理由に登壇リストから除外された国が3カ国あった。サウジアラビア、米国、そして日本だ。
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02

この夏の異常気象は、気候が「予測不能」な段階にきたことを象徴している

2019年の夏は、日本でも世界でも異常が当たり前になった。南フランスでは45℃の熱波を記録し、スペインでは高温で山火事が発生。米中西部のミシシッピ川流域では未曽有の大洪水が発生し、メキシコでは異常な量の雹(ひょう)が1m近く積もった。もはや、過去のデータに基づく気候予測は成立しない。人類は、迅速な「適応」を求められているのだ。
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危険な外来種「ヒアリ」は、地球温暖化の影響で増え続けている

南米原産で強い毒をもつ「ヒアリ」。東京港・青海ふ頭では6月、9月、10月にそれぞれヒアリが発見され、女王アリも50匹以上見つかっている。昆虫全般が生息地の破壊や気候変動といった人間がもたらす変化で数を減らすなか、なぜヒアリは勢力を拡大しているのか? その理由は、洪水でも群れをなして泳ぐほどの恐るべき適応力と生命力、そして人間やほかの生物まで襲う侵略性にある。
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04

エアコンがCO2を燃料に変える“工場”になる? 新技術「クラウドオイル」は温暖化防止の決め手になるか

わたしたちが日々使うエアコンを、CO2を取り込んで燃料に変換する装置に改良する──。ドイツの大学教授らが提唱したこのアイデアは「クラウドオイル」と呼ばれ、理論的には実行可能な技術であるとして開発が進められている。温暖化防止の一助として期待される一方で、この技術そのものをカーボンニュートラルにするうえでの課題も山積みだ。
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05

二酸化炭素の海底貯留は、温暖化対策にどこまで「有効」なのか:進む研究と実験から見えてきたこと

石油産業から放出される二酸化炭素を回収して海底に貯留するプロジェクトが世界各地で動いている。最近の研究では、炭素排出量の多いテキサス州のメキシコ湾沖が、実は貯留施設の立地に適していることがわかった。気候変動の抜本的な対策とまではいかないが、わたしたちが生活様式を見直すまでの有効な「緩和措置」として研究者は期待している。
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06

ラボで生産された培養肉は、本当に「環境に優しい」と言えるのか?

動物細胞を培養してラボで生産される「培養肉」。よりサステナブルなタンパク源として期待されているが、長期的に見れば環境に優しいとは一概に言い切れないようだ。オックスフォード大学による研究から、培養肉と畜産、そして温室効果ガスの関係を読み解く。
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07

「食の未来」を昆虫食に託す前に、わたしたちが解決すべきこと

未来のタンパク源として期待されてる昆虫食。しかし昆虫の「生産」に関しては、わかっていないことも多い。土地は? 餌は? ふんの処理は? そもそも昆虫食は本当に持続可能なのか? 食用昆虫を大量生産する前に頭に入れておくべき諸問題を考える。
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08

牛の「おなら」と「げっぷ」を退治せよ──科学者たちの大真面目な温暖化対策

牛1頭がげっぷやおならとして放出するメタンガスの量は、1日160〜320リットル。農場経営者にメタンガス排出の削減を義務づける法案も登場するなか、研究者たちは牛たちの「減ガス化」を目指して、海藻飼料から遺伝学まであらゆる可能性を探り続けている。
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09

「52週間、新品の服は買わない」:地球と未来を優先する若者たちに拡がるファッションボイコット

1年間新しい服を買わないファッションボイコットキャンペーン「#boycottfashion」。リサイクルやアップサイクルされた衣類のみを手に取るよう呼びかけるこの運動が、Z世代を中心に支持を集めている。
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10

使わなくなったレゴブロックを新品同様に:寄付と再利用のプログラムをレゴが開始

使わなくなったおもちゃを寄付することだって、気候変動に対するアクションのひとつだ。米国では、使わなくったレゴブロックを再生し、学校や支援が必要な子どもたちに届けるプログラムが始まった。現在米国以外からの寄付は受け付けていないが、レゴの公式ウェブサイトは使っていないブロックを友人や家族、地元のチャリティーショップに寄付することを推奨している
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未来のための金曜日 ──グレタ・トゥーンべリ16歳、大人に「おとしまえ」を求めてストライキ

16歳のグレタ・トゥーンベリが、気候変動に対する政府の無策に抗議するために始めた学校ストライキは、SNSによって瞬く間に世界に拡散された。いま目の前で起こっている気候変動と一生を過ごすのは彼女たちの世代なのだ。世界のリーダーたちに「いま」アクションが必要だと呼びかける“子どもたち”の声は、もはや大人たちにとって無視できないものになっている。国連でスピーチした16歳の活動に迫る長編ルポ。


TEXT BY ASUKA KAWANABE