過去10年で世界を変えた「10のプロダクト」:『WIRED』が振り返る2010年代(テック編)

この10年はテクノロジーの劇的な進化によって、わたしたちの生活を一変させるような製品やサーヴィスが次々に誕生した。あのソーシャルメディアからデジタル端末、シェアリングエコノミーのサーヴィスまで、『WIRED』US版が選んだ「10のプロダクト」を紹介しよう。
過去10年で世界を変えた「10のプロダクト」:『WIRED』が振り返る2010年代(テック編)
PHOTOGRAPH BY AMAZON

新製品を発売する際に、クリエーターが「革新的だ」「実に斬新である」と、こぞってアピールするのはよくあることだ。新しいガジェットを世に送り出すとき、その革新的なデザインや手の込んだ新しい生産プロセスによって未来のテクノロジーを劇的に変えたいと願っているのは、どの企業も同じだろう。そしてもちろん、本当に願いを叶える者がときおり現れるのも、また事実だ。

これからお見せするのは、2010年から2019年までの10年間に、夢が現実となった10の事例である。どれも勢いよく登場して巨大な台風のように成長した製品だ。業界は多岐にわたるため、同じ基準で影響力を測ることはできない。したがって、製品を1位から10位までランク付けするのはナンセンスであろう。そこで、代わりに時系列で紹介していく。以下に紹介するのが、これまでの10年を象徴する10のテクノロジー製品だ。

WhatsApp:コミュニケーションの世界的なデファクトに

メッセージサーヴィス「WhatsApp」が配信されたのは、厳密に言うと2009年の11月である。だが、ほぼ2010年ということでご容赦いただきたい。その後の10年でもたらした影響を考えれば、このリストに入れる価値はあるはずだ。

ワッツアップの共同創業者であるジャン・コウムとブライアン・アクトンは、当初このサーヴィスの利用料として1ドルの年会費を課金していた。それでもWhatsAppの普及はとどまるところを知らず、特にブラジル、インドネシア、南アフリカなどの途上国で利用者数が増えていった。

当時、SMS(ショートメッセージサーヴィス)をベースとしないメッセージアプリの多くは、「iPhone」がなければ利用できなかった。ところが、WhatsAppは現代のあらゆるモバイルデヴァイスに対応しており、利用料金を支払うことなくSMS的なサーヴィスを使うことができた。

また、膨大な数のユーザーにプライヴァシー機能を提供し、エンドツーエンドの暗号化を世界中に広めてきた。こうして音声通話とヴィデオチャット機能が追加されるころには、WhatsAppは国境を越えたコミュニケーション手段のデファクトスタンダードとなったのだ。

2014年初頭、フェイスブックはワッツアップを190億ドル(そう、「万」ではなく「億」だ)で買収している。ユーザー数が16億人まで膨張し、のちに世界で最も重要なソーシャルネットワークのひとつとなるWhatsAppを手に入れたことは、まったくもって先見の明があったと言わざるをえない(ただし、中国ではいまだに「WeChat」が市場を独占している)。

すべてのソーシャルネットワークのプラットフォームと同様に、WhatsAppは善意の使用だけでなく悪事を働くツールにもなる。WhatsAppが成長するにつれ、同社は誤情報拡散の対応に奮闘してきた。誤情報がときに秩序不安や暴動につながるケースもあったのである。

アップル「iPad」:未来のコンピューター

スティーブ・ジョブズが2010年に初めて「iPad」を披露したとき、スマートフォンにしては大きすぎるがノートPCよりは軽い(そして機能が少ない)この製品に、はたして居場所があるのだろうかと多くの人が疑問に思った。こんなものにわざわざメディア向けの発表会を開く必要があったのか? それに何だその名前は!といった声が上がったほどである。

しかしiPadは、アップルが長年にわたって重ねてきたタブレット端末についての研究のきっかけであり成果でもある。当時は誰も想像すらできなかったヴィジョンが、ジョブズには見えていたのかもしれない。つまり、このモバイル製品はわたしたちの生活に不可欠なデヴァイスとなり、プロセッサーの性能はいま使っているノートPCを凌駕する日が来る、ということだ。

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やがて競合他社もジョブズの思惑を察し、熾烈な開発競争を繰り広げるようになる。ある者は成功し、またある者は失敗に終わった。

2013年になると「iPad Air」が「薄くて軽い」の定義を塗り替える。そして、15年発売の「iPad Pro」は、アップル製タブレット初のタッチペン対応機種となった。さらに常時充電される“スマート”なキーボードに接続でき、パワフルな64ビットの「A9X」チップで動作する。iPadは、もはや雑誌を読んだり動画を視聴したりするだけの便利なタブレット端末ではなく、「未来のコンピューター」になったのだ。

Uber、Lyft:モビリティのあり方を変えた配車サーヴィス

サンフランシスコでタクシーをなかなかつかまえられなかったテクノロジー業界の何人かが、この10年で最も斬新なテクノロジーを生み出すなどと、誰が予想できたただろうか?

スマートフォンの画面に表示されたボタンを押すだけで“タクシー”を呼べるサーヴィス「UberCab」は、2010年6月にサーヴィスを開始した。当初は数都市のみで運営されており、フォードの「フォーカス」やトヨタ「プリウス」といった一般的な乗用車ではなく、高額な料金で高級車やリムジンを配車していた。

その後、12年に低価格版のサーヴィス「UberX」が始まり、サーヴィス内容ががらっと変わった(そして大量のハイブリッド車が路上で見られるようになったのだ)。同年にサーヴィスを開始したLyftは、Uberにとって手ごわい競争相手となった。

Uberが世界中に事業展開するにつれ、当然ながら問題も拡大していく。17年には深刻な社内文化の問題が『ニューヨーク・タイムズ』で暴露された。共同創業者のトラヴィス・カラニックは、トラブルが原因となって最高経営責任者(CEO)の職を追われた。そのはちゃめちゃぶりは書籍やテレビ番組がネタにしたほどである。

Uberとドライヴァーの関係も不穏だった。同社はドライヴァーを従業員であるとは認めず、またドライヴァーの身元調査を怠っていたことで非難を浴び続けている。過去10年で「シェアリングエコノミー」は世界と人々の生活をどのように変えてきたか。その答えを手っ取り早く知りたいなら、今度タクシーに乗ったときに「Uberをどう思うか」とドライヴァーに尋ねてみるといい。

Instagram:ブランド的なプラットフォームへと進化

Instagramは当初、注目されていたのはフィルターだけだっだ。初期のユーザーはInstagramで撮った正方形の写真に、「X-Pro II」「Gotham」といったフィルターをかけて楽しんでいた。当時は撮影も投稿もiPhoneからしかできなかった。

ところが、共同創業者のケヴィン・シストロムとマイク・クリーガーは、流行の最先端をゆく画像フィルターを超える構想を練っていた。Instagramのおかげで、カメラは携帯電話の最重要機能としての地位を確立したのだ。

またステータスのアップデートといったソーシャルネットワークを象徴するすべての機能を排除し、アプリ全体を簡素化した。こうしてInstagramは新たな種類のソーシャルネットワークになり、この世代にとって憧れの“高級雑誌”のような役割を果たすようになった。そしてついに、ブランド、ビジネス、セレブ、そしてセレブになりたい人々にとって極めて重要なプラットフォームへと進化したのである。

続きはご存知の通りだろう。Instagramはサーヴィス開始からわずか2年後の2012年、フェイスブックに買収された。いまではプライヴェートメッセージ機能、24時間限定のストーリー機能、さらに「IGTV」と呼ばれる動画配信の機能も備わっている。だが、Instagramの本質は何年も前から変わらない。その目的とは、インターネット上で見たり見られたりする場所を提供することにある。

アップル「iPhone 4S」:個人用デヴァイスの方向を決定づけた存在

初代「iPhone」が2007年に発売されたことは、現代に起きた最も影響力の大きな事象のひとつである。しかし、この10年に限定するならば、11年10月に発表された「iPhone 4S」が、アップルの事業に大変革をもたらした立役者だろう。

デザインを刷新したこのデヴァイスには、個人用テクノロジーデヴァイスの今後の使い方を決定づける3つの機能が搭載されていた。Siri、iCloud (iOS 5以降)、そして8メガピクセルの静止画と1080pのHD動画の撮影ができるカメラである。

ポケットサイズの快適かつ高性能なカメラは、すぐにコンパクトデジタルカメラ市場に大打撃を与え始めた。あるいは競合他社を徹底的に打ちのめした。

元々は「MobileMe」という名称だったiCloudは、アプリやデータを複数のアップル製品全体で同期することのできる、いわゆるソフトウェアの結合組織となった。そしてSiriは…いまも迷走中である。いずれにしても、厳しい監修の下で小ぎれいにつくられた製品デモを見る限りでは、ヴァーチャルアシスタントがいかに便利なのかわかったことだろう。

テスラ「モデルS」:自動車のイノヴェイションの始まり

テスラ「モデルS」は、実は電気自動車(EV)の最初の量産モデルではない。自動車愛好家の心をつかんだという理由だけで、まるで初めてだったかのように思えるのだろう。テスラは最初に小型の電気スポーツカー「ロードスター」を発売し、そしてモデルSへと軸足を移したのである。

モデルSの発売は2012年6月のことだった。初期のレヴュアーたちによると、ロードスターから「何光年分も進化」しており、「滑らかなロケットのような」走りを実現した驚異のテクノロジーだったという。13年には、『MotorTrend』誌が選ぶカー・オブ・ザ・イヤーに選出されている。イーロン・マスクの知名度も、このクルマの魅力をさらに引き立てた。

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テスラはその後、驚異的な加速を見せる「ルーディクラス」モードや、HEPAフィルターによる「対生物兵器モード(バイオウェポン・ディフェンス・モード)」を追加している。そして半自動運転機能「オートパイロット」は数件の死亡事故を経て、当局による調査対象になった。報道によると、事故はドライヴァーがオートパイロット機能に運転を任せすぎたことが原因だったという。

自動運転技術の変遷に関する疑問や人間のドライヴァーへの影響は、今後何年も議題に上がるだろう。とはいえ、テスラがEV市場で重大なイノヴェイションを誘発したことは確かである。たとえ自動車業界におけるEVのシェアがほんのわずかであったとしてもだ。

Oculus Rift:VRの可能性を現実のものに

結局のところ、拡張現実(VR)の勢いは衰えていく運命なのかもしれない。だが、そのポテンシャルは常に健在である。最も明確にそれが現れているのは、ウィリアム・ギブスンが1984年に発表したSF小説の試金石『ニューロマンサー』だろう。オキュラスは、そのポテンシャルを現実のものにした最初の企業である。

「CES 2013」で初代「Oculus Rift」が披露されたときのことだ。ラスヴェガスのホテルにオキュラスが確保していたスイートルームからは、テクノロジー記者たちが、まるで初めてセックスを体験したあとのようなニヤニヤした表情で出てきたのだった。Oculus Riftがクラウドファンディグサイト「Kickstarter」で実施したキャンペーンの目標金額は、当初25万ドルに設定されていたものの、最終的には250万ドルに達した。

オキュラスがRiftを消費者に発送できるようになるまでには、長い時間がかかった。しかも600ドルという金額はかなり高額である。だが、オキュラスはついに、オールインワン(なんとケーブルもない!)の「6DOF」ヘッドセット「Oculus Quest」を400ドルで販売するまでに至ったのである。

OculusのVR技術に感動したのは、テクノロジー担当のメディア関係者やVR愛好家だけではなかった。

Oculus Riftがまだ量産されてもいない14年初頭に、フェイスブックCEOのマーク・ザッカーバーグが、スタンフォード大学のヒューマン・コンピューター・インタラクション・ラボでOculus Riftを試しているところが目撃されている。その数カ月後、ザッカーバーグはこの会社を23億ドルという金額で買収した。わたしたちは、ようやくFacebookという巨大プラットフォームから逃れられたと思ったら……今度は文字通り頭を突っ込んで「没頭」することになるわけだ。

Amazon Echo:実用化されたヴァーチャルアシスタント

2014年11月のある朝、「Amazon Echo」はアマゾンのウェブサイトに現れた。このさりげない登場の時点では、これが2010年代後半に絶大な影響力を与える製品になる兆候はほとんど見られなかった。

このときお目見えしたのは、Echoだけではない。ヴァーチャルアシスタント「Alexa」の誕生である。アップルの「Siri」がよちよち歩きだったころよりも、生まれたばかりのAlexaのほうが優れた直観力をもっていた。Alexaを使えば、声だけで消灯したり、流す音楽を変えたりできる。アマゾンなのだからショッピングおいても何かできるのは当然である。Alexaに頼めば、ごみ袋からドッグフードまでAmazonのショッピングカートに入れてくれる。

音声制御できるスマートスピーカーやスマートディスプレイを生活に取り入れたいか否かにかかわらず(多くの人はまだ様子見の状態にある)アマゾンは開発を進め、わたしたちの目の前に製品として突きつけてきた。そして、ほぼすべての大手テック企業もあとに続いた。

次の10年に投げかける疑問はこれだ。“スマート”なデヴァイスのAIは、人間の問いかけを聞き取る“ほかの人間”がいなくても学習できるようになるのだろうか?

Google Pixel:最強のAndroidスマートフォン

スマートフォン「Google Pixel」を発売するまでの8年間、グーグルはハードウェアのパートナー(HTG、モトローラ、LG)のリストを慎重に吟味していた。どこの製品も、OS「Android」を搭載するデヴァイスとしては…まあまあの出来だった。しかし、モバイル端末として「iPhone」と同等に優秀な製品は存在しなかったのである。

グーグルにとっては苛立たしいことだが、iOS端末はモバイル分野において、性能面で圧倒的な優位に立っていたのだ。アップルはすべての“持ち札”を所有しており、iPhoneがすべて想定どおりに動作するよう、アップルがハードウェアとソフトウェアの両方を完全に統制できたからである。グーグルが対抗するには、パートナーの製品に依存することをやめ、ハードウェアを社内で手がける必要があった。

グーグルが2019年に発売した「Google Pixel 4」。PHOTOGRAPH BY GOOGLE

初代「Pixel」はAndroidの世界における“天啓”のような製品だった。洗練されたデザイン、高級なコンポーネント、そしてとてつもなく素晴らしいカメラ。それらすべてがグーグルのモバイルOSで稼働するのだ。ハードウェアメーカーが独自に追加した醜いユーザーインターフェイスや、通信キャリアがインストールしたお粗末なアプリに台無しにされることもない。

だが結局、PixelがAndroid市場の大部分を獲得することはなかった(3年が経ったいまも獲得していない)。しかし、Pixelが提唱した「いかに素晴らしいAndroidスマートフォンをつくるか」という取り組みは、業界に衝撃を与えた。特にグーグルのソフトウェア部門のエリートたちが改良したカメラのテクノロジーによって、デヴァイスメーカーのセンサーやレンズの設計は格段に飛躍を遂げたのである。

グーグルが抱える個人情報収集の問題(Androidスマートフォンは、ユーザーが気づいている以上にデータを収集している)を嫌うユーザーもいるが、それでもAndroidを最も輝かせるプラットフォームがPixelであることは間違いないだろう。

スペースXのロケット「Falcon Heavy」:再利用可能なロケットという革新

これまで紹介してきたなかでも、これは本物の「ローンチ(打ち上げ)」である。初めてプロジェクトを発表してから7年が経った2018年2月初旬、イーロン・マスクのスペースXは、27基のエンジンを搭載した3機のコアで構成されるロケット「Falcon Heavy」の打ち上げに成功した。

63: 5tもの貨物を低軌道に打ち上げることができるこのロケットは、世界で最もパワフルな打ち上げ機であり、米航空宇宙局(NASA)の最新ロケットと比べてわずかな費用で建造された。成功を収めた試験飛行には、イーロン・マスクのもうひとつの会社も関与していた。貨物のなかに、マネキン(スターマン) を運転席に座らせたチェリーレッドの「テスラ ロードスター」が搭載されていたのだ。

パワーを別として、スペースXがもたらした最も素晴らしいイノヴェイションのひとつに、再利用可能なロケットブースターがある。18年2月の発射日にセンターコアは墜落してしまったが、再利用された補助ロケット2基はケープ・カナヴェラル空軍基地に戻ってきた。それからわずか1年後、19年4月の商業打ち上げの際には、Falcon Heavyのブースターは3基とも基地へ戻ってきている。


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TEXT BY LAUREN GOODE AND MICHAEL CALORE