浮き彫りになったテクノロジーの「光と闇」:『WIRED』が振り返る2019年(サイエンス編)

研究分野における2019年を振り返ると、リチウムイオン電池の開発に貢献した吉野彰らにノーベル化学賞が授与されるといった大きなニュースがあった。テクノロジーはさまざまなかたちで人間の生活をアップデートしてきた一方で、結果として引き起こされた課題にもわたしたちは直面している。そんな今年を締めくくるべく、『WIRED』日本版が振り返る2019年(サイエンス編)をお届けしよう。
浮き彫りになったテクノロジーの「光と闇」:『WIRED』が振り返る2019年(サイエンス編)
WESTEND61/GETTY IMAGES

2019年も「WIRED.jp」は科学的研究に基づく多くの記事を公開した。よく読まれた記事を振り返ると、テクノロジーによる新たな発見や課題解決への期待だけでなく、人間活動が地球にもたらす不都合な真実を知ろうとする視点があることに気づかされる。

わたしたちの人体や地球環境について、明らかにされていないことは多い。

日焼け止めが体内に吸収される可能性が示唆された一方で、人体への直接の影響は判明していない。問題視されるマイクロプラスティックも同じように、体に及ぼす影響は完全にはわかっていない。

ただ確かなのは、「影響がわからないから、いまの活動を続ける」というマインドでは、その代償は計り知れないということだ。第25回国連気候変動枠組条約締約国会議(COP25)に参加した16歳の環境活動家であるグレタ・トゥーンベリも、これまで人間が問題から目をそらし続けてきたことで引き起こされた問題を訴え続けている。

こうしたなか、12月発売の雑誌『WIRED』日本版が掲げたテーマが「地球のためのディープテック」である。急速に進むこの「深い社会課題」を前に、単に循環型経済や自然回帰を標榜するだけでなく、文明を大きく一歩前に進めるような「射程の深いテクノロジー」によるブレイクスルーが求められているからだ。

リチウムイオン電池の開発が生活を変えたように、わたしたちはまだ、テクノロジーによる課題解決を完全にあきらめたわけではない。いま求められるのは、技術革新がもたらす医療分野への貢献や、まだ見ぬ量子コンピューターがもたらす可能性などへの希望を捨てず、地球に存在する人間以外の生物にも目を向け、科学が明らかにした真実を受け入れた上で、わたしたちがこれからどうありたいのかを問うことではないだろうか。


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今月、スター・ウォーズの最終章となる『スター・ウォーズ/スカイウォーカーの夜明け』が公開された。『WIRED』日本版に転載した『ヴァニティ・フェア』のインタヴューに監督のJ.J.エイブラムスは、「この三部作は若い世代の物語だ。新しい世代は、過去からの負債のツケを払わされているように思う」と語っている。この発言には、2019年という時代に通じる“何か”がある。これから先を見据えるためには、「過去を受け入れ、そこから学び、未来へ進んでいくこと」が重要なのだ。

来る2020年、目の前の“闇”に決して臆することなく、導き出された“結果”という真実を受け止めよう。そして希望をもって前進し続けたい。


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幼少期にポケモンにはまった人は、脳に「特化した領域」が出来ている:研究結果

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日焼け止めの化学物質は体内に吸収され、血液中に流れ込んでいた:米当局の臨床試験から明らかに

紫外線(UV)が健康に悪影響を及ぼすことは、よく知られている。皮膚がんなどを防ぐために、日焼け止めを塗ることは珍しいことではない。一方で、日焼け止めに配合される紫外線防御剤が皮膚から体内に吸収されるのではないかという疑いがある。影響がわからない点でも問題があり、FDAが審査の厳格化に向けて動き始めた。
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アマゾンの森林火災は“必然”だった──急速に進む恐るべき「緑の喪失」のメカニズム

南米のアマゾンで発生した森林火災。背後には、農地開発によって森林が乾燥し、植生が変化し、焼き畑が加速するというメカニズムが存在する。熱帯の河川や湖にはCO2を出す生物がたくさんいて、熱帯雨林がなければCO2を閉じ込めておくことはできない。アマゾンの森林火災は、将来的に地球規模の大惨事につながる恐れがあるのだ。
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ノーベル化学賞が「リチウムイオン電池の父」に授与されることの価値

2019年のノーベル化学賞が、リチウムイオン電池の開発に貢献した旭化成名誉フェローの吉野彰ら3人に授与された。1991年に商用化されて以来、現代の電子機器には欠かせない部品となった。軽くてエネルギー効率が高いことから、携帯電話やノートPC、デジタルカメラにバッテリーを搭載できるようになったのだ。
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【閲覧注意】菌に乗っ取られて“ゾンビ化”するアリは、筋肉だけを強制的に操られていた:研究結果

ある種の菌がアリの体内に侵入し、宿主を操って次のターゲットを狙う。ペンシルヴェニア州の生物学者たちは、このタイワンアリタケ(Ophiocordyceps unilateralis)と呼ばれる菌の一種が宿主を操る仕組みを研究してきた。どうやらアリは菌に脳を支配されるのではなく、脳が機能したまま筋肉を強制的に操られているようだ。
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グーグルが主張する「量子超越性の実証」に、IBMが公然と反論した理由

IBMの専門家グループが、量子超越性を達成したというグーグルの主張に重大な欠陥があると発表した。現代のスーパーコンピューターの能力を最大限に活用していないと主張したのだ。グーグルのライヴァル企業が、量子超越性を達成しようという同社の計画に疑問を呈したのは今回が初めてではない。
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エボラ出血熱、ついに「治療可能」に──発表された治療法は、こうしてアウトブレイクから世界を救う

昨年8月にコンゴ民主共和国の北キヴ州でエボラ出血熱のアウトブレイクが始まって以来、2,800人以上が感染し、1,794人の死亡が確認されている。科学者と医師たちは新薬の治験を続け、治験の共同スポンサーである世界保健機関(WHO)と米国立衛生研究所(NIH)は、2種の実験的治療法が生存率を劇的に向上させるようだと発表した。今回のニュースはすでに感染した患者に対する効果を示す初めてのケースだ。
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一般的な河川は二酸化炭素の発生源となる一方で、温暖化の影響で北極の氷河から溶け出した融解水の川は二酸化炭素を吸収しているという調査結果が発表された。差し迫った気候変動の危機から脱するために氷河の融解水に期待するということはできないが、氷河の融解水が二酸化炭素の吸収に役立つという発見は、複雑な二酸化炭素のサイクルを理解する鍵となる。
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翼幅6cm超! 世界最大のハチは、かくして約40年ぶりに「再発見」された(動画あり)

自然写真家のクレイ・ボルトが、インドネシアで約40年ぶりに、翼幅が6cm以上にもなる世界最大のハチ「ウォレス・ジャイアント・ビー(ウォレスの巨大バチ)」を再発見した。このハチはセイヨウミツバチの4倍もの大きさで、クワガタのような巨大な大あごをもっている。
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TEXT BY ERINA ANSCOMB