自律走行車の“眼”となるセンサーの競争が激化、業界は再編に向けて動き始めている

自律走行車が周囲を認識する“眼”として鍵を握るセンサー「LiDAR」の競争が激化している。さまざまな技術が提案されてくるなかで競争が激化し、すでに業界再編の兆しが見え始めている。
自律走行車の“眼”となるセンサーの競争が激化、業界は再編に向けて動き始めている
LiDARを開発する企業の1社であるAevaに、フォルクスワーゲンは出資を決めている。LiDARを開発する各社は、今後増加する自律走行車に“状況を検知する目”をもたらしたいと考えている。PHOTOGRAPH BY VOLKSWAGEN

オースティン・ラッセルは、年齢こそ24歳と若いかもしれない。しかし、17歳でスタンフォード大学を中退してからレーザースキャナー「LiDAR(ライダー)」の企業ルミナーテクノロジーズ(Luminar Technologies)を創業し、率いてきた。

ところがラッセルは、もはやルミナーをスタートアップとして経営することには関心がない。部品メーカーとして展開するつもりもない。

ラッセルがルミナーのあるべき姿として構想しているのは、自動車メーカーに部品を納入する大手の自動車部品サプライヤー、いわゆる「ティア1」に自社製品を販売する部品メーカーではない。「ティア1」そのものだ。彼はルミナーをボッシュやコンチネンタルのような「ティア1」と協力するのではなく、競合する企業にしたいと考えている。

目指すのは「検知機能のサーヴィス化」

それは理にかなった考えだと、ラッセルは言う。というのも、ルミナーが生み出しているものは、クルマの周辺にレーザー光を照射して、光が跳ね返ってくる時間を測定するハードウェアの塊だけではない。レーザー光の照射・測定によって集められた情報を“点群”として集約し、有益な情報へと変換するソフトウェアも提供しているからだ。このソフトウェアよって、クルマやトラック、歩行者などの位置を識別することができる。

ラッセルが言う“検知機能のサーヴィス化”は、完全な自律走行車を開発中の企業向けではない。ウェイモ(Waymo)やクルーズといった企業は、検知機能を搭載した完全な自律走行車を開発する能力が十分にあるからだ。

しかし、自動車メーカーは違う。LiDARを利用することで、中央分離帯のある幹線道路などでドライヴァーが一瞬でも走路から目をそらしても安全なクルマをつくりたいと、自動車メーカーは考えている。こうしたメーカー向けの製品が、ルミナーのLiDARなのである。

すでに市販モデルに搭載されている“半自動運転”のシステムにおいて、人間は常に道路を中止している必要がある。これはシステムに搭載されているレーダーが、停車中の消防車のような対象をうまく検知できないからだ。その点、LiDARならレーダーよりもかなり詳細な検知が可能なので、ドライヴァーは状況を常時監視していなくても、クルマを安全に“半自動運転”できる。

LiDAR業界は再編が加速

ラッセルはルミナーを、LiDARのシステムに関心がある自動車メーカーから信頼されるプロヴァイダーにしたいと考えている。彼によると、ルミナーが開発中のLiDARは2022年半ばには市販車に採用されるという。

「ドライヴァーのためにLiDARを使いやすいものにしたいのです」と、ラッセルは言う。それはレーザーのみならず、LiDARを役立つ装置にするための“知能”を提供することも意味している。

ルミナーが開発の焦点を変えたのは、ほんの10年前に誕生したLiDAR業界が、いまや数十社を数えるほど発展したからだ。各社とも数年以内に市販予定のさまざまなタイプの自律走行車に、障害物の検知機能をもたらす見込みである。

そのLiDAR業界では再編の兆しが見えており、これから数社が再編されるとみられている。ヴェンチャーキャピタル(VC)であるLux Capitalのパートナーのシャヒーン・ファルシチは、シングルチップ型のLiDARを公開して間もないスタートアップのエヴァ(Aeva)に投資している。そして彼は、今後LiDAR企業10社のうち3社が事業終了し、4社は手ごろな価格で買収され、残る3社はかなりの利益を上げるに違いないと語る。

ルミナーのLiDARシステムは半自動運転システムを強化し、クルマが世界を“認識”する手助けをする。IMAGE BY LUMINAR

ラッセルいわく、ルミナーは競合する5〜6社から買収をもちかけられたという。ウェイモ、クルーズ、アルゴAI(Argo AI)、オーロラ(Aurora)といった自律走行車を開発する大手企業は、LiDARメーカーを買収するか、社内にLiDAR開発部門を設立している。

「CrunchBase」の調査によると、VCによるLiDAR企業への投資の勢いは減速している。また、LiDAR企業のうち少なくとも1社、すなわちイスラエルのOryx Visionが2019年の夏に事業を終了している。

各社ごとに異なるアプローチ

これまでのところ目立った事業終了は相次いでいないが、どのLiDAR企業が廃業、合併、存続するのかはまったくわからない。その主な理由は、LiDARメーカー間には企業戦略のみならず、LiDARの技術そのものへの取り組み方にも違いがあるからだ。

ある企業のLiDARは、900nmあるいは1,500nm(またはその間の波長)のレーザー光を使用しており、シリコンやインジウムガリウムヒ素(InGaAs)を使ったセンサーを備えている。

同じLiDARでも、エヴァ、オーロラが買収したBlackmore、クルーズが買収したStrobeは、周波数変調連続波(FMCW)方式を採用している。これは対象の形状だけでなく、移動速度も検知する。ラッセルによるとルミナーは、同様の機能をFMCW方式とは異なるアプローチで開発したという。

オーストラリアのバラハ(Baraja)は、光がプリズムで屈折する現象を用いている。Sense Photonicsは“フラッシュ型”LiDARの開発に取り組んでおり、これは多数のレーザーポイントを一度に照射し、カメラのように情報を収集する。さらに誰がどのようにクルマを使うか、さらにロボット工学などの産業界で使われるケースも含め、LiDAR市場はさまざまなニッチを生むだろう。

大きな課題は価格

ルミナーは、幹線道路における自動運転で鍵を握る遠距離の対象物の検知に重点を置いている。フランスの大手部品メーカーであるヴァレオは、これまでに億6,400万ドル (約620億2,500万円)相当のLiDARを受注している。同社のLiDARは、短距離の検知に向いている。

イスラエルのInnovizは自動車部品大手のマグナと連携し、BMWにLiDARを供給する契約を結んだ。自律走行車が競うレース「DARPAグランドチャレンジ」において、自律走行車用のLiDARを2005年に初めて供給したヴェロダインは、多様な品ぞろえのLiDARをわずか100ドル(約11,000円)から揃えている。

「LiDAR市場をリードするいくつかの企業は、競合をやや引き離しつつあります」と、ガートナーの産業アナリストであるマイク・ラムジーは言う。しかし、各社の特徴が他社と大きく異なること、成功へのチャンスが多岐にわたることから、LiDAR企業の大半は存続し続けるはずだ。

どの企業が消えるかを左右する要素は、レーザー光の波長の長さや使用する素材の選択ではなく厳しい現実ではないかと、Refraction AIの最高経営責任者(CEO)マット・ジョンソン=ロバーソンは指摘する。同社は配達用の自律走行車を開発している。

彼は「レーザー光の波長が1,500nmか900nmかそれ以外かといった問題には、あまり関心がありません」と言い、消費者の手の届く価格で市販できるLiDARに関心があると語る。この点についてどのLiDARメーカーも、あと少しのところまで来ている。しかし、まだ成功していない。

おそらく“手の届くLiDAR”を最初につくった企業が、ジョンソン=ロバーソンとビジネスを始められるだろう。「どの企業の製品であれ最高のLiDARを採用します。わたしにはブランドへのこだわりはまったくありませんから」と、ジョンソン=ロバーソンは言う。

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TEXT BY ALEX DAVIES

TRANSLATION BY MADOKA SUGIYAMA