「顔」の盗用が止まらない:インフルエンサーたちと企業との戦い

インフルエンサーの画像が盗用されるケースが相次いでいる。顔やヘアスタイル、ファッションなどが、ファストファッションや美容ツールなどの販売企業によって“盗まれて”いるのだ。こうした状況に対応策はあるのか、
「顔」の盗用が止まらない:インフルエンサーたちと企業との戦い
美容系ユーチューバーたちは、日常的に自分自身の目元やネイル、あるいは顔全体を盗用した広告に出くわしたり、そういった広告についてファンからメールやダイレクトメッセージで多くの報告を受けたりしている。PRASIT PHOTO/GETTY IMAGES; SAM WHITNEY

ルーシー・キセリカの“盗まれた顔”は、米国の小さな町にあるビューティーサロンの窓で初めて目撃された。キセリカはオランダの美容系ユーチューバーで、かつて流行した髪型を紹介するヘアアレンジ動画を主に投稿している

彼女の投稿動画のなかには、糸を使って眉毛を整える「スレッディング」の方法を紹介するものもあった。ビューティーサロンはその動画のスクリーンショットをポスターサイズに拡大して、サロンで提供するスレッディングサーヴィスの宣伝に使っていたというわけだ。

海を隔てたオランダにいるキセリカがそのことを知ったのは、ファンの一部から「サロンと提携しているのか」「そもそも写真が窓に貼られていることを知っているのか」と聞かれたからだった。

答えはいずれも「ノー」である。提携はしていないし、写真が使われていることも知らなかった。キセリカが問い合わせのメールを送っても、返信が来ることはなかった。「いまもポスターは貼られたままかもしれません」と彼女は言う。

止まらない画像盗用

それから6年、キセリカは自分の画像が他人の製品を売るために盗用されている様子を何度も目にしてきた。ヘアスタイリング用ツールや育毛剤、美容サプリなどの“顔”として使われてきたのだ。「そういった製品は、いつもどこかうさんくさいんです」と、キセリカは言う。

最近では、Amazonで中国の出品者が販売する前髪ウィッグの商品ページに、画像が盗用されていた。そこで、彼女はこの問題を公表することに決め、「I Ordered My Own Bangs Off Amazon ? ?‍♀(Amazonで自分の前髪を注文してみた)」という動画を投稿した。そもそもキセリカのトレードマークである前髪は、決してウィッグなどではなく、しっかり頭皮から生えている。

画像の盗用は、キセリカやソーシャルメディア上のその他のインフルエンサーに限った問題ではない。出所のはっきりしないブランドもののハンドバッグやサングラスを見た(あるいは購入した)ことがある人なら、似たようなケースを目にしているはずだろう。

インターネットは、模造品をたやすく販売できる環境を生み出した。なんと言っても、販売側は商品ページに“本物の写真”を使用するだけで、購入側は安っぽい粗悪な偽物が手元に届くまで、必然的にその違いを知ることができないからだ。

インフルエンサーマーケティングの人気拡大を踏まえると、インフルエンサーのアカウントから画像が盗用されることは、当然の流れではある。インスタグラマーたちは、中国のファストファッション企業が安物の模造品を売るために、自分たちのスタイルを模倣したり、写真(多くの場合、顔は切り取られている)を盗用したりしていることへの不満を頻繁に訴えている。

美容系ユーチューバーたちは、日常的に自分自身の目元やネイル、あるいは顔全体を盗用した広告に出くわしたり、そういった広告についてファンからメールやダイレクトメッセージで多くの報告を受けたりしている。信頼に基くビジネスにおいて、このような製品が深刻な打撃を与える恐れもある。しかし大半のインフルエンサーたちは、次に打つ手がわからず途方に暮れているのだ。

盗用被害の“利用”例

画像の盗用は言うまでもなく間違ったことだが、それでも自分のファッションをまねした安っぽい偽物がつくられ、さらに顔を切り取った写真を盗用されるだけなら、不幸中の幸いと言えるかもしれない。

なぜなら、まず第一に「もし自分が本当にこの(くだらない)商品を支持しているなら、なぜ写真から顔を切り取る必要があるのか」という説得力のある反証ができる。それに加えて、そのスキャンダルをうまく利用できてしまう可能性もあるからだ。

ユーチューバーのバーナデット・バナーに起こったのが、その例のひとつである。ある日の午前6時、歴史上の服飾を手づくりして紹介する動画を投稿しているダナーのもとに、FacebookやInstagram、Etsyにファンからのダイレクトメッセージが山ほど届いていた。

どれも同じような内容で、バナーのドレスのひとつ──ある絵画をもとに再現した15世紀のドレスで、250時間以上かけて手縫いで仕上げたものだった──を、ファストファッション企業が販売しているというのだ。しかも、商品ページには彼女の写真(顔なし)を使用し、販売価格はたったの40ドル98セント(約4,430円)。バナーがかけた材料費の半分にも満たない額だった。

「起きたばかりでしたし、わけがわかりませんでした。でも激しい怒りを覚えるまでには至りませんでした」と、バナーは言う。「そして思いついたんです。『これを購入してみるのはどうだろう? きっと、すごくいい動画コンテンツになる』と。それでベッドに入ったまま、そのドレスを注文しました」

こうして作成された動画「An Educated Roast(知識に基づくこき下ろし)」は広く拡散した。再生回数は430万回を超え、チャンネル登録者数も倍増し、やがて数万ドルに及ぶ収入を彼女にもたらしたのだ。

「信頼関係」が損なわれる可能性も

バナーのビジネスは、自らの専門知識を披露することで成り立っている。バナーはこのドレスをデザインしたわけでも、販売しているわけでもない。だから、この模造品によってビジネス機会を損失し、損害が出たとは言えない。

多数の美容系インフルエンサーたちも、その点では同じだ。しかし、インフルエンサーたちの収入は、自らの顔やヘアスタイル、ネイルなどを写した画像から発生している。このため画像が盗用されれば、盗まれた以上のものを失うことになる。有名ユーチューバーでさえ、その影響を受けている。

750万人以上のチャンネル登録者がいるネイルアーティストのシンプリー・ネイロジカルは、これまであまりに多くの画像を盗用されてきたことから、投稿するすべての画像と動画にウォーターマーク(透かし文字)を入れているほどだ。それでもなお、広告への盗用はなくならない。

登録者数が950万人を誇るメイクアップのカリスマ、タティ・ウェストブルックは、提携していない商品の宣伝に自分の動画や声が盗用されるたびに、動画を制作してその詳細を発信してきた。

ほとんどの人は、このような経験をすると動揺してしまう。「まったく関係ないところで自分の顔を見つけるのは、気味が悪いものです」と、キセリカは言う。「ビジネスはダメージを受けます。それに個人的なレヴェルで言えば、フォロワーからの信頼はわたしにとって大きな意味があるんです。中国の労働搾取工場のように倫理的な生産が行われていない可能性が高い製品に、自分の顔を使われると嫌な気持ちになります」

倫理上の懸念は、頻繁に話題に上がる。バナーはファストファッション企業全般を公に批判しているので、その企業のひとつに自分のドレスをコピーされたことは余計に彼女をいら立たせた。バナーは「きっとこのドレスを生産するために、奴隷のように働かされている人がいるでしょう」と言う。「購入することには抵抗を感じましたが、買って動画にすることで何百人、何千人という人たちの購入を食い止めることができていると信じたいのです」

「複雑な対応策」しかない現状

ユーチューバーやその他のインフルエンサーたちの間では、この問題に対処する手だてはなく、声を上げても無駄だという空気が流れている。多くの場合、インフルエンサーと販売業者の間には“言葉の壁”が存在するのだ。抗議のメールを送っても、企業からの返信が来ることは(たとえあったとしても)まれで、削除された場合でも数日あるいは数時間のうちに、別の会社の広告として再び現れる(通常、このようなブランドは同じ親会社が経営している)。

「同じことが繰り返されていることを知るたびに気が滅入ります」とキセリカは言う。とりわけ、ある意味これは自身の成功の表れでもあるからだ。「わたしたちの仕事は、自分自身の画像を魅力的なものにして、Google検索で目につきやすくすることでもあります」とキセリアは語り、こう続けた。「女の子の画像をGoogle検索したときに、わたしたちの画像が出てきても驚くことではありません」。言い換えれば、いまや検索エンジン最適化(SEO)には、職業上のリスクも伴うということだ。

とはいえ、InstagramやAmazonのような米国拠点のプラットフォーム上で盗用画像が広告に用いられているなら、やや複雑だが手段を講じることはできる。他人の画像を営利目的で同意なく使用することは違法だからだ。

「プラットフォーム側は協力的ですが、それぞれ特定のフォーマットで通知する必要があります。『ここから自分の画像を削除してほしい』とメールを送るだけでは不十分なのです」。こう語るのは、何百という大手ブランドを顧客としており、この問題に対応しているPotoo Solutionsの最高経営責任者(CEO)フレッド・ディミアンだ。

「具体的にどういった侵害に当たるのかを記載しなければなりません。侵害を受けたのは『商標』なのか、それとも『登録商標』なのか、といった詳細な情報が必要になります」と、ディミアンは言う。このため、弁護士やプラットフォーム専門家の助けが得られない人は難しいと感じるだろう。しかし、不可能ではないのだ。

現在のところ、プラットフォーム側はインフルエンサーのために積極的に画像盗用への対策を講じているわけではない。通報は個人に委ねられている。だが、インフルエンサーにとっての救いは、フィードを“監視”してくれる多数のファンがおり、自分の画像が悪用された場合には、それを公表できることだ。ときにはそれが助けとなることさえある。

今回の取材後、ディミアンはキセリカが前髪ウィッグの広告についてAmazonに連絡をとるためのサポートを引き受けた。そしてキセリカの画像は削除されている。少なくともいまのところは。


RELATED ARTICLES

TEXT BY EMMA GREY ELLIS

TRANSLATION BY KAREN YOSHIHARA/TRANNET