Twitchに蔓延する女性への身体的・精神的暴力と、それらを見逃してきた「放任主義」の罪

ゲーム実況などで有名な動画配信プラットフォーム「Twitch」。ここ数日、このプラットフォームで成功した一部の男性ストリーマーによる女性への身体的・精神的暴力が、Twitterなどの公の場で次々と告発されている。こうした投稿や『WIRED』US版の独自取材から見えてきたのは、助けを求めてもまともに相手にされず、責任の追求もない無責任な“放任主義”の存在だった。
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OLIVER BERG/PICTURE ALLIANCE/GETTY IMAGES

ここ数日、何十人もの女性たちが、Twitchのストリーマーによる性的な不適切行為を告発した。これまで影響力のあるストリーマーを何人も輩出してきたTwitchだが、こうしたトップストリーマーが配信の外で行なう不適切行為に対して、同社はどんな責任を負っているのだろうか。Twitterの投稿や『WIRED』US版の取材において、複数の女性がそんな疑問を呈している。

蔓延する女性への身体的・精神的暴力

Twitchのような配信プラットフォームは、「ハードウェアさえあれば誰でも自分の配信チャンネルを立ち上げて視聴者を集められる」という、その民主化された側面を売りにしてきた。5月だけを見ても、Twitchでは何百万人ものストリーマーが動画を配信し、それぞれにゼロから数十万人まで幅広い視聴者がついている。

こうしたストリーマーのなかでも非常に幸運なごく一部は、数多くのファンやハードウェア企業、ゲームパブリッシャー、チャンネルの収益化を可能にするTwitchのパートナープログラムに支えられ、マイクロセレブリティとしての立場も手に入れた。なかには、その影響力を生かしてゲーマーたちに寄付を呼びかけ、セントジュード小児研究病院に数百万ドル(数億円)を寄付した者もいる。

その一方で、Twitchは男性たちにとって、女性ファンや新人プロゲーマーを誰にもチェックされることなく搾取する場となってきた。

今回の申し立てのなかには、相手の意思を無視して言い寄る行為から性的暴行までさまざまなものがあり、Twitchとパートナーシップを結ぶ人気のストリーマーが関与していた事例もある。この話が注目されるにつれて人々の怒りの声は高まり、抗議のためにTwitchでの配信を一定時間停止しようと呼びかける「#TwitchBlackout」という新たなハッシュタグも出現した。

こうした状況を受けたTwitchは6月24日(米国時間)、いくつかの申し立ての対象となっていたユーザーをプラットフォームから恒久的に追放し、ハラスメントやヘイトに対処するためのツールを増やしていくと誓った。

とはいえ、こうした問題はいまに始まったものではなく、性差別や性的暴行はゲーミング界に数年にわたり蔓延している。だが、声を挙げた女性たちは、職場や遊び、社交の場での自分たちの過酷な体験を公にすることで、構造的な変化に少しでも拍車がかかればと願っていた。

「今回の告発は、間違いなく連鎖反応でした」と、ネハ・ネアーは言う。これまで複数の大手ゲーム企業で働いてきた彼女は、最近になってゲーム業界における性的暴行を告発するツイートを投稿した。

投稿のタイトルは「初めて参加した2回のゲーム業界イヴェントで、わたしは性的暴行を受けた」。1回目の暴行のとき、彼女は19歳だったという。「女性たちは『いままで声をあげる勇気が出なかったけれど、ほかの人たちがそうするのを見て初めて自分にもできる気がした』と話しています」

行き場のない被害者たちの声

今回『WIRED』US版の取材に対し、Twitchに関連する性的不正行為の経験を語る女性も複数いた一方で、オンラインでの執拗な嫌がらせや、加害者にさらなる注目が行くことを恐れて詳細の記録を辞退した人たちもいた。また、プライヴァシー保護のためにフルネームを使わないことを条件に取材を受けた人もいる。

新進気鋭の女性ストリーマーが、すでに立場を確立したほかのストリーマーたちと実況配信での成功とキャリアを競い合うなか、Twitchカルチャーの「門番」(そのほとんどが男性である)が、相対的に権力をもち優位に立つ例もあるようだ。

「#MeToo」運動などのおかげで、いまは以前に比べれば職場のハラスメントや性行為の強制が注視されるようになっている。しかし、何千人ものストリーマーが配信によって生計を立てているTwitchのようなデジタル・マイクロセレブリティの環境では、セクシャル・ハラスメントに関するトレーニングもなければ、何かあったときに対応する人事部のような組織もない。さらに、ストリーミングの外での好ましくない行動に関しては、対策もほとんど用意されていないのだ。

不快な行為や暴行が起きたとき、女性たちには行き場がない。責任の所在の追求もあやふやだったり、一時的なものだったり、そもそも存在しなかったりする。

「LittleSiha」の名で実況しているエイヴリーは、2016年に開催されたTwitchのコミュニティイヴェント「TwitchCon」で同じくストリーマーのサム・“IAmSp00n”・アーニーと出会った。

ダンスゲーム「Just Dance」を実況配信しているエイヴリーは、現在14万4,000人のフォロワーをもつ人気ストリーマーだ。しかし、16年当時の彼女は、多くのフォロワーをもちNVIDIAとのスポンサーシップも結ぶアーニーには遠く及ばない存在だった。

彼女はアーニーに、彼が同じくストリーマーである自分の友人にとってインスピレーションの源であることを伝え、ふたりはイヴェントのあとも会話を重ねたという。エイヴリーは当時のアーニーを、魅力的で気のあるそぶりを見せていたと振り返っている。ふたりは間もなくデートし始めた。

ところが数週間後、アーニーのチャンネルでモデレーターを務める「Snookville」という人物から、彼がイヴェント期間に複数の女性配信者を部屋にたびたび連れ込んでいるのを見たという連絡が来た。「『権力乱用』とは感じませんでした」と、エイヴリーは当時を振り返る。「浮気するクソ野郎くらいに思っていたんです」

これ以来、アーニーに対する考え方が変わったのだとエイヴリーは言う。彼女はさらにその後、彼がエイヴリーと付き合っていた期間にも、新人ストリーマーや視聴者が少ないストリーマーに対して性的なメッセージや相手に言い寄るメッセージを送り続けていたことを知る。

「これはちょっと搾取的だと感じました」と、エイヴリーは話す。「彼は自分のレヴェルのストリーマーではなく、自分よりも視聴者が少なく、これからフォロワー数を伸ばしたいと思っているストリーマーを狙っていたんです」。アーニーはエイヴリーと別れたあと、間もなく別の新人ストリーマーと付き合い始めたという。

『WIRED』US版がアーニーにメールで確認したところ、彼はこれらはすべて事実であることを認めた。

ストリーミング外の問題行為の責任は誰にある?

エイヴリーは6月20日、アーニーとの関係に関する投稿を公開した。そしてその週末、ほかの女性たちもまた、彼の行為を公の場で批難した。そのなかには、不快な言い寄りから、性的な境界線を越える行為まで、さまざまなものがある。

アーニーはその翌日、自分のネットワークを無期限閉鎖することを発表する「A Departure」(旅立ち)と題されたツイートを投稿し、自らの「過度に性的かつ言い寄るような行為」を謝罪した。

「いつ見たものであろうと、どんな内容であろうと、告発した人たちの言うことを信じてほしい」と、アーニーは記している。「ひとつ明らかなのは、この行為が自分のキャリアを通じて続いてきたものであるということです。わたしはこの行為から性的に利益を得ましたし、相手側はそれによってネガティヴな影響を受けました」

アーニーは『WIRED』US版へのメールのなかで、自分の行動がハラスメントや身体的・精神的虐待だったという主張は否定し、そうした可能性を「まったくもって真実ではない」としている。また、新進気鋭のストリーマーばかりを探して狙ったとする点については、「相手がストリーマーであるという事実は関係ないと考えています。わたしは自分の性的な行動を、チャンネルの成長や改善に結びつけたことはありません」としている。

数日にわたる批難を経て、Twitchは6月24日にアーニーのパートナーとしてのステータスとチャンネルを削除した。また、告発された「BlessRNG」「Dreadedcone」「Warwitch」「21wolv」らほかのストリーマーも同様の処置を受けている(「BlessRNG」の顔のエモートも削除された)。このうち3人が、この告発に対して返答を出した。

Twitchは6月24日のブログ投稿で、「ご報告いただきました各事例はできる限り早急に確認しております。同時に、これだけの重大な報告を取り扱う際に企業として求められる責任を確実に果たせるよう、全力を尽くしております」とコメントしている。

また同社は、「多くのケースではTwitch外で問題の行為が実行されている」とし、一部のケースについては「より綿密な調査ができる適切な機関にこちらから報告させていただく必要があります」としている。

『WIRED』US版は、Twitchで多くの視聴者を獲得したストリーマーのプラットフォーム外での行動に対する同社の責任について問い合わせたが、同社はこれに対してコメントしなかった。また、現在Twitchパートナーとなっているストリーマーたちを審査するかどうかについても、明らかにしなかった。

くだらないコメントや侮辱が醸成する危険な文化

『WIRED』US版とのインタヴューで性的暴行の被害を訴えた女性たちもまた、この有害な環境の原因となりうるTwitchのストリーミングコミュニティ内の構造的要因を指摘している。

「何年も言ってきたことなんです」と、Twitchで22万人のフォロワーをもつナタリー・“ZombiUnicorn”・カサノヴァは言う。彼女はトップストリーマーのひとりによる性的な不正行為を訴えた(訴えられたストリーマーは、その告発を虚偽としている)。「女性への対応に関しては、ほかのエンターテインメント業界に後れをとっています」

ゲーマーの約半数は女性が占めている。だがゲームカルチャーは、「ダンジョンズ&ドラゴンズ」に触発されて生まれた戦争ゲームから、「コール オブ デューティ」シリーズの軍事シミュレーションまで、何十年にもわたって伝統的な「男らしさ」にとらわれてきた。

ゲームが男性支配の文化的な“潮だまり”とされる原因の一部は、ゲームのプレイヤーではなくゲームの広告キャンペーンにある。ゲームにおけるマーケティングの対象は、お小遣いをもっている男子であり、かつて任天堂などのゲーム企業はこの層をターゲットとしてきた

だが時が経つに連れ、このボーイズクラブのターゲット層は自分で自分を強化し、人々が予言を信じて行動することによって予言通りの現実がつくられる「自己成就」が起きてしまった。男しかいない「Halo」のLANパーティーや、男性の「Counter-Strike」プレイヤーばかり集まるヴォイスチャットサーヴァーがその例だ。

そうしてできたカルチャーは、「フォートナイト」のようなゲームの大成功と、タイラー・“Ninja”・ブレヴィンスのような有名ストリーマーに支えられ、いまや1,000億ドル(約10.7兆円)規模にまで膨れ上がった。ゲームはもはやサブカルチャーではなく、メインストリームだ。そして、かつて近所のひと部屋やアーケードで行なわれるにすぎなかった「門番」の行為もまた、一般の人々の関心事になっている。

「(ゲームをする女性は)eガールか尻軽女であり、男がいるべきこの空間はこうした女性たちの居場所ではないという明確な考え方があります」と、Twitchで6.5万人のフォロワーをもつストリーマーのSheSnapsは言う。

女性がオンラインゲームのヴォイスチャットで声を発すると、「気色悪い欲望の祭典になるか、『サンドイッチでもつくってこい』と言われるかのどちらかです。『何してるんだ? ゲームをプレイしている男がそばにいるんだろ? コントローラーを彼に戻せ』とね」と、彼女は言う。

この種の性差別はゲームの世界では常態化しており、搾取が蔓延する文化の原因にもなっているとSheSnapsは話す。「くだらないコメントや軽蔑的な言葉が、『誰にも耳を貸してもらえない』『怖い』と感じさせるゲーミングカルチャー全体を醸成しているということに、人々は気付いていないのです」

前述のストリーマー、カサノヴァもこう話す。「ヴォイスチャットで性差別的な発言をするプレイヤーを追放している企業の数は、まだ十分と言えるほど多くありません。YouTubeにはナチがいますし、ユーチューバーのなかにはTwitchで配信している女性を週替りでターゲットにして、ヘイトや侮辱の言葉を浴びせるインセルもいます。わたしも何度かその対象になったことがありました」

こうしたなかTwitchは6月24日、同社が「ヘイト行為や嫌がらせ行為に関するポリシーの確認」などを進めると発表している。

大きな影響力に「ノー」と言う難しさ

ゲーム実況の世界で成功と安定を得るべく戦う女性たちが、人気ストリーマーたち(その多くが男性だ)と複雑な関係に置かれることもある。今回声をあげた女性たちの多くは、犯罪行為や搾取的な行為ではなく、彼女たちがほかのストリーマーと一緒に仕事をするなかで起きた非常に不快なやりとりについて訴えていた。

「今年こそ、吹き出物から膿を出すべき年なのです」。そう話すのは、コスプレイヤーでストリーマーのダニカ・ロックウッドだ。「Twitchは現場をちゃんと見て仕事をし、搾取的な行為をしてきた捕食者たちを引っ張り出して契約を破棄すべきです。それが同社に出来る最低限の仕事なんです」

Twitchパートナーであるロックウッドは今回、同じくTwitchパートナーであり約40,000人のフォロワーをもつストリーマーのHJTenchiをTwitter上で告発した。HJTenchiについては、ロックウッドのほか最低でも5人の女性から同様の主張が出ている。

HJTenchiが自身のTwitchの配信のなかでロックウッドに直接話しかけるようになったのは、ロックウッドが配信を始めて間もない16年のある日だった。当時、彼女はそれを特別なことであると感じたという。「彼はチャンネルにいる数百人の視聴者がいるなかで、わたしに話しかけてきたんです」と、ロックウッドは『WIRED』US版の取材に話している。

HJTenchiは彼女のTwitterやSnapchatアカウントをフォローし、そこでのコミュニケーションを通じてふたりは仲良くなった。当時ロックウッドには長く付き合っていた彼氏がいたので、シャワーから上がったばかりのHJTenchiが彼女に言い寄るようなメッセージを送り始めたとき、彼女は少し不気味に思ったという。だが、彼女はそれらを冗談として流した。

HJTenchiが、自分のためにセクシーな写真を撮って送ってほしいと言い始めたときは、ロックウッドは眉をひそめた。さらに彼は、一緒に配信している間にも密かに彼女に性的なメッセージを送るようになったという。だが、それに対応することができなかったとロックウッドは振り返る。彼女は相手を楽しませなくてはならなかった。

ロックウッドはHJTenchiとのやりとりを記した投稿のなかで、彼女がHJTenchiのことを長くいい友人だと思っていたこと、そして相手からの注目にお返ししようとしたことも何度かあったと記している。HJTenchiはロックウッドのためにスポンサー付きの実況配信の機会を設けたり、オンラインや業界イヴェントといった機会にロックウッドをゲーム業界に人脈のある人物たちに紹介したりもしていた。

ただ同時に、HJTenchiの言動のなかには、友人や同業者の線を越えた、明らかに不快なものもあったとロックウッドは話す。

「彼はいったい何なんだ?と思っていました。彼はTwitchでわたしよりもはるかに大きな影響力をもっています。わたしには人脈もありません。めちゃくちゃな話ですが、もしわたしが彼に欲しいものを与えなければ、彼はその人脈を使ってわたしが築いてきた周りからの信頼も崩せてしまうでしょう」

「男性と対等でいられない」

しかし、米国のゲームショー「E3 2018」で、ロックウッドの堪忍袋の緒が切れた。

E3の会場で、ロックウッドがHJTenchiにPCを貸す機会があったという。返ってきたPCのブラウザーはHJTenchiのアカウントにログインしたままになっており、そこには彼がTwitchのほかの女性ストリーマーに送ったプライヴェートなメッセージが、性的なものも含めて表示されていたという。

ロックウッドはこれを機にやっと友人関係に終止符を打つことを決め、契約上一緒にいる義務があった最後のイヴェントを最後に連絡を絶った。ただ、そのあともHJTenchiは彼女の配信をホスト[編註:自分の配信チャンネルで他人の配信を映すこと]して視聴者を彼女のチャンネルに流したり、ロックウッドに投げ銭したりしていたという(ロックウッドはそのお金を返金したと話す)。

彼女が今回投稿したのは、ほかの誰かがHJTenchiの同じような行動について声を上げている様子を目にしたからだった。ロックウッドは「声を上げた女性に連帯して」というタイトルのツイートを投稿し、自分の経験を詳述した。HJTenchiについては、現役もそうでない人も含め、複数のストリーマーから似たような体験の申し立てが出ている。女性たちは性的なメッセージを不快に思っていたものの、やめるように言えなかったという。

アリス・フェイと名乗るある元ストリーマーは、何年も前にHJTenchiから執拗に性的なメッセージを送られたという。HJTenchiとフェイは一時的に浮気関係にあったものの、のちにフェイが彼への興味を示さなくなり、ボーイフレンドがいることを伝えたあとも、性的なメッセージは続いたと彼女は話す。

彼女はこうしたメッセージを送るのをやめるよう、HJTenchiに具体的に頼んだことはなかったともしている。

「女性がストリーマーでいることだけでも、十分に難しいことなんです。男性と対等でいられませんから。いつだって胸や見た目、ゲームがうまいかを見られます。しかも、それがすべて不利に働くんです」と、彼女は話す。「自分より大きな影響力とコネをもつ人を相手に、ノーと言って拒否することはできません」

HJTenchiは自身のライヴ配信で今回上がった疑惑のいくつかに反応したが、その動画は彼のチャンネルには残っていない(オンラインには録画が残っている)。「一線を越えてしまったことはあると確信している」と、彼は語っている。「自分の記憶とは違うが、彼女がそう体験したと言っているならそれがすべてだ」

HJTenchiはその後、弁護士を雇っている。その弁護士は『WIRED』US版の取材に対し、彼の依頼人が「あらゆるセクシャル・ハラスメントや性的な不正行為の疑惑を断固否定している」と説明している。

またこの弁護士は、ロックウッドの具体的な訴えのいずれについても返答せず、フェイと別のもうひとりの女性の訴えについては「そのふたりは当時テンチ氏と合意の上での恋愛関係にありました。(中略)ハラスメントは存在し、対処されるべき問題ですが、これはハラスメントではありません。ここで挙げられた例は、本当に被害を受けた女性たちから人々の目を逸らしてしまうものです。テンチ氏は、望まれない露骨に性的なメッセージを誰にも送ることはありません」と答えている。

HJTenchiのチャンネルは現在もTwitchに残っており、パートナーであることを示すマークも残されたままだ。

不干渉のアプローチが生む暴力

今回、『WIRED』US版が話を聞いた女性たちのなかには、Twitchに対しては何の報告もしていない人も多かった。一方、過去に報告をしたと話す女性たちも、Twitchからの対応はほとんどなかったと主張している。

エリン・“YourStarling“・ホールというストリーマーは、自分のコミュニティのメンバーとともに、同じくストリーマーである自分の元ボーイフレンドのことをTwitchに報告した。Twitchパートナーでもあったその元ボーイフレンドは、ホールのカラオケ配信がTwitchのトップページにフィーチャーされたあと、彼女のアダルトエンターテインメントの閲覧履歴について自身のツイートのなかで言及したという。

ホールはこれをプライヴァシーの侵害としてTwitchに報告したが、同社はその後、新しいカラオケ機能「Twitch Sings」のプロモーションイヴェントで彼にパフォーマンスの機会まで与えた。ホールいわく、Twitchからの対応はなかったという。

その一方、ホールは最近になってTwitchのある社員から、彼女のケースが全社会議で報告され、Twitchの最高経営責任者(CEO)のエメット・シアがその件を聞き流したことを内密に報告されたという(『WIRED』US版は、同じ会議にいたTwitchの社員に連絡し、これが事実であると確認している)。

「プラットフォームによるこうした不干渉のアプローチが生むのは、身体的・精神的虐待です」と、ホールは言う。「自由に何でもつくれるプラットフォームなんて、いい話に聞こえますよね。でも、責任を追求するシステムがなければ誤用が起きるんです」

無視されてきた被害

6月20日の週末には、Twitchの元従業員たちも、ストリーマー間の身体的・精神的虐待に対処しなかったとして同社を非難した。

同社の元ヴァイスプレジデント(VP)のジャスティン・ウォンは、Twitchがセクシャル・ハラスメントの事例を無視したとするある女性のツイートをリツイートして、次のように書いている。

「(当時)わたしはTwitchでVPを務めており、本件担当の別のVPと人事部長、CEOに報告し、すべて対処すると約束されました。でもその次の年、(加害者のストリーマーは)TwitchのイヴェントでVIPスペースにいたんです」

別の従業員もまた、「間違いなく本当のことです」とツイートしている。この件について『WIRED』US版は、どちらからもコメントは得られなかった。

Twitchはホールの申し立てやウォンのツイートについてコメントすることを拒否している。CEOのシアは6月22日、Twitchの全従業員に宛てたメールのなかで、ゲーム業界が「特定の人に報い、そのほかの人には不利益──と、ときには害を──与える体系的な性差別、人種差別、身体的・精神的虐待」をはらんでいることを認めた。メールはその後、シアのツイートを通じて公開されている。

彼は加えてこう続けた。「あなたがどこかでわたしのコメントを聞き、わたしが興味をもっていないように、あるいはTwitchがその件を気にしていないように感じたのであれば、そう思わせてしまったことを残念に思います。でも、わたしの意図とは違うことを知っておいてほしいのです」

Twitchは、同プラットフォームでの不正行為を巡る問題をかなり前から認識していた。2019年2月、ゲーム系ウェブメディアの「Kotaku」はTwitchの複数のストリーマーが若い女性に言い寄ったり、チャイルド・グルーミング(特に性的搾取を目的として子どもに取り入ること)に利用するためにプラットフォームを使っていたことを報じている

当時20,000人のフォロワーをもつMMORPG「World of Warcraft」のストリーマーで、ゲーム開発会社のHi-Rez Studiosに務めていたトーマス・チェンも、そのひとりだ。彼は女性たちにセクシーな写真を要求し、ダイレクトメッセージを通じて女性のひとりに言い寄っていた。

Dravと名乗る女性は、大型ゲームイヴェントの「BlizzCon」で彼に肉体関係を求められ、それをうまくかわさなくてはいけなかったという。その1カ月後、チェンは重犯罪容疑で逮捕された。彼はコンピューターサーヴィスを使って子どもを誘い出したり、犯罪行為をするよう気を引いたというのだ(彼は14歳を装っていた警察官と話していた。チェンの事件はまだ未解決であり、次の公判を控えたままになっている)。

「問題の認識」で止まってはならない

「Kotaku」の記事で言及された別のストリーマーであるMethodJoshは、「Discord」サーヴァーで頻繁に少女や若い女性に言い寄り、女性たちを「あばずれ」「尻軽女」などと呼んでいたという。ある女性は、彼が所属するマネジメント会社にメールを送り、彼が女性を意のままに操ってファンへの見世物にしていたと訴えたという。

Twitchは「Kotaku」の報道の数カ月後の19年6月になって、彼のアカウントを停止した。彼に提示された理由は「その他のサーヴィス利用規約違反」だった。一方、今回再び彼のケースが注目を浴びたことを受け、マネジメント会社はTwitter上で彼との契約を完全に打ち切ることを発表している。

今回『WIRED』US版が取材した人たちは、自分たちの過酷な体験談が共有されたあとに続くのは責任の追求ではなく、問題の認識にとどまってしまうのではないかと恐れていた。問題の認識だけでは、性的な不正行為や捕食行為を止めるには不十分だと感じているのだ。

女性たちは何年も前から、この問題を身近なものとして認識していた。「こんなことがあったなんて、と驚きたいでしょうが、女性にとっては驚きでもなんでもありません。驚くことがあるとすれば、それは恐らくいまだに大勢の人が声を上げられないでいるという恐ろしい事実に対してです」と、ストリーマーのSheSnapsは言う。彼女は自分のダイレクトメッセージの受信欄には、匿名で自分の体験談を共有したいと願う大勢の人からのメッセージが並んでいると語っている。

責任を負わせない限り、変化はない

アカウント停止は、対応策のひとつだろう。しかし、権力の乱用を防止するために、Twitchには何ができるのだろうか?

この数日で多くの女性が人の目に触れる場で自らの体験を共有したことにより、企業たちはこの根強い問題を無視できなくなった。「#TwitchBlackout」のハッシュタグは、ストリーマーたちに配信のボイコットを求めている。とはいえ、いま行動の負荷が最も重くのしかかっているのは、被害を受けた女性たちだ。

ボイコットが呼びかけられた時間に配信を続けたエイヴリーは言う。「何年も口をつぐんできたのに、また1日黙っているなんて絶対に嫌なんです」。彼女は配信のなかで、危険信号と権力の乱用について話し続けた。

「男たちは見逃されるんです」と、エイヴリーは言う。「それが、こうしたことが起きるもうひとつの理由だと思います。何の影響もないなら、そうした行為をやめる理由なんてないでしょう? 追求されないとわかっていたら、いつまでたってもこうした行為は続けられる。Twitchがこうした人たちに責任を負わせ、行動を起こさない限り、変化なんて起こりえないんです」


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TEXT BY CECILIA D'ANASTASIO

TRANSLATION BY ASUKA KAWANABE