Deloitte Digitalという異能集団

VUCAの時代といわれて久しい。すなわち変動性(Volatility)、不確実性(Uncertainty)、複雑性(Complexity)、そして曖昧性(Ambiguity)を帯びた社会課題があふれかえるなかで、これまでのように正解が導き出せない状況に直面し、あらゆる業種で自己変革が迫られている。それはコンサルティングファームも例外ではない。

「コンサルティングファームの自己変革は、いま言われ始めたことではありません。十数年前から、常に『コンサルはなくなる』と当時のパートナーから言われ続けていました。それはある意味で的を射ていて、“トラディショナル・コンサル”としてはなくなったのかもしれません」とDeloitte Digitalをリードするデロイト トーマツ コンサルティング執行役員の熊見成浩は言う。

「われわれDeloitte Digitalは、コンサルティングファームの本分である企業が抱える課題の解決に加え、デジタルを広義に捉えて新しいスポーツ観戦の体験設計、社会課題の解決、文化遺産の伝承、ファッションやライフスタイルへの適用など新しい価値創造を探求していくチームです」

そう同執行役員の宮下剛が話すように、さまざまなスペシャリストが属するコンサルティングファームのなかにあっても、ひときわ異色の立ち位置をとる。

熊見成浩|NARIHIRO KUMAMI
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員。18年間コンサルティング業界に身を置き、数百件のコンサルサーヴィスを提供。「マーケティング」領域に専門性をもち、深い顧客インサイトの理解と、プロダクト&サーヴィス、価格+インセンティヴ、コミュニケーション、複合的チャネルなどを統合的に考えることで顧客価値を最大化する。早稲田大学大学院非常勤講師。

VUCAの時代において、もはやDX(Digital Transformation)は所与の条件。いかにデジタルという“手段”を用いて、価値を創造しえるのか。そんな時代の要請に、各セクションに分散していたデジタル領域のスペシャリストたちが集まり、全社横断型のチームとして活動する。

時代が求めることを先取りしているのが、コンサルタントの本懐だ。しかし、いまや旧来のトラディショナルコンサルタントでは足りない。Deloitte Digitalでは元プロ野球選手やアナウンサーといった、これまでのコンサルタントのリクルーティングではスコープされることのない異能たるニューメンバーたちがトラディショナルなコンサルティングファームでは創出できなかった新たな価値を創造し始めている。

テクノロジーの限界と未来

そんな個性派集団の次なるステージへの鍵を握るのが、この3月に参画した同執行役員の森正弥だ。AI(人工知能)の領域においてはトップクラスの人物である。長年、世界的IT企業でAIとビッグデータの活用に従事してきた森が、なぜコンサルティングファームへと転身したのか。その背景には自身が“テクノロジーの限界”を感じていたことにあるという。

「ここ数年、プラットフォーム規制論をはじめとして、世の中がテクノロジー礼賛のソリューションに対してNOと言い始めています。国際社会はESG投資やSDGsといった流れになり、テクノロジー礼賛から人間の倫理観や価値観を大事にしながらテクノロジーを活用していく新しいフェーズに入ってきました。そこを融合していかないとテクノロジーを活用しながらヘルシーな成長や社会貢献は成立しない。しかし同時に、事業会社でそういった人材を育てたり、求めたりすることの難しさも感じていました」

森 正弥|MASAYA MORI
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員。外資系コンサルティングファーム、グローバルインターネット企業を経て現職。ECや金融における先端技術を活用した新規事業創出、大規模組織マネジメントに従事。DX立案・遂行、ビッグデータ、AI、IoT、5Gのビジネス活用に強みをもつ。2019年に翻訳AI の開発で日経ディープラーニングビジネス活用アワード 優秀賞を受賞。企業情報化協会 AI&ロボティクス研究会委員長。

そんな森がテクノロジーの未来を模索するなかでたどり着いたのが、Deloitte Digitalの母体であるデロイト トーマツ グループ(デロイト)のコンサルティングビジネスだった。デロイトは監査の機能も備え、レギュレーションやコンプライアンスをはじめ、さまざまなプロフェッショナルが揃い、かつデジタルという領域に踏み込んでいる。森が考える未来には、その総合力、未来をデザインする力が必要なのではないかと考え、この転身に至った。

「森が言う大きな社会課題の解決には、まさにデジタルの力が必要不可欠で、そこで大きなインパクトを与えられるのがAIです。それは人間だけでは扱いきれない世界に変わってきている証しでもあります」と熊見は継ぐ。そして、その要因はふたつあると言う。

「ひとつめは課題そのものが大きく複雑化していること。ふたつめはデータが従来と比較できないほど取得できるようになってきた事です」

AIを使わずにできることは、ある程度やり尽くしたところで、人間の処理能力では手に負えない膨大なデータの活用を社会が待望しているのだ。森の参画によって、さっそくAIソリューションを発展させていく案件が動いているという。そのひとつが「アジアの需要予測」だ。

「日本は、グローバルレヴェルでの需要予測では後れをとっていました。国を横断することで複雑性が増し、間違えると大きな損失にもつながりかねない。それが森の知見とAIの活用によって高度化することで、日本の企業にとって大きなアドヴァンテージになることは間違いありません」と熊見は言う。

「単なる需要予測にとどまらず、それをマーケティングにどのようにつなぐか。マーケット予測や金融とどう連動させていくか。バックエンドだけではなくフロントエンドをつないだAIのソリューションを武器としてもてるように動いています」と、森はさらに先を見据えている。

実際に、森の加入を機にファンクションごとにあった相談が、ファンクションをまたいだものに変化してきていると宮下は実感している。それは、Deloitte Digitalが描いた青写真が現実のものとなりつつあることの表れといえる。そして、日本サイドをリードするだけなく、グローバルのカウンターとして日本から世界へインパクトを出していくための最先鋒に立つことで、その動きは加速している。

さらには、日本ディープラーニング協会のプラチナスポンサーとして、AIをどのようにガヴァナンスし、コントロールしていくか、そして企業や産業でAIを活用していくかを発信し始めている。

基点はHuman eXperience

だが、デジタルを盲信しているわけではない。予測できないことにチャレンジしていくことは忘れてはならないと熊見は言う。なぜならば、外れることも多いかもしれないが、AIを飛び越えて人間にしかできないことがあるからだ。

「デジタルを突き詰めるほど、デジタルから人間に戻らなければなりません。そしてその人間力をCX(Customer eXperience)だけでなく、EX(Employee eXperience)、そしてPX(Partner eXperience)の全部を合わせたHuman eXperienceに宿すことこそが、テクノロジーの未来を握っていると考えています」と熊見は提唱する。

最適化していくところはAIの仕事だが、この2020年代、さらにはその先に新しい価値創造、そして人間自身がワクワクしていることを創造していかなければ意味がない。新しい解は、最適化からは出てこないからだ。

宮下 剛|GO MIYASHITA
デロイト トーマツ コンサルティング 執行役員、Deloitte Digital Japan Leader、Customer & Marketing組織責任者。CRM領域全般において戦略立案からデジタル変革まで業界横断で手掛ける。近年はCRMおよびデジタルの知見を活用した社会課題解決、NPO支援、スポーツビジネス、元プロスポーツ選手のキャリアチェンジ開発等にも取り組む。

デジタルを使った新しい価値創造にチャレンジすることが人を育て新しい技術を実用化し、その過程で培ったノウハウをビジネスに適用することができれば、長い目で見たときに経済や社会への貢献につながるだろう。

「地方創生においても政府が公表しているビッグデータとデジタルの知見を掛け合わせることで、日本と世界、伝統と未来をつなぐようなアウトプットも出せるのではないか。デジタルの活用で学校の授業などの教育手段やエンターテインメントなどの楽しみ方も多様化する。NPOもデジタルという視点を介せば、寄付の裾野を広げ更なる価値訴求や可能性が提示できるはずです」と宮下は考える。

やり方に縛られず、社会課題の解決に、新しい価値を創造していく。デジタルを標榜していても、それは“手段”であって、“目的”ではない。社会、生活や体験の課題を解決するためには、人間的価値をコアにおいて、デジタルを使ってレヴァレッジをかけていかなければ、本質的な解決にはならないからだ。

森も「AI人材やデータサイエンティストには、人間的な側面を大事にしてほしいです。人間らしさを提供できてこそ、顧客や社会の新しい力になれる。知識を提供することや手法を当てはめることでは物事の根本は変わらない」とデジタルというキーワードにおける“人間らしさ”の重要性を語る。

AIソリューションというアセットを手に入れたDeloitte Digitalは、デジタル×Human eXperienceの力でVUCAの時代に新たな価値創造を加速させていく。

デロイト グローバルネットワーク
デロイト トーマツ コンサルティングのデジタル コンサルティングチーム。
デロイト グローバルネットワークに在籍する60カ国、約16,000人のエキスパートのコラボレーションにより、最先端のDigital知見と技術を用いたクライアントのBusiness Issueやさまざまな社会問題を解決し次世代の在り方を提唱することを目指している。デロイト グローバルネットワークのウェブサイトでは、Covid-19に関するBusiness Issueへの施策、AIなど最先端のDigitalの知見や「Global Marketing Trend 2020」などのレポートを掲載中。

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