これからの軍事用ドローンは、AIの活用で進化する:Oculus創業者の軍事テック企業が示した潜在力

「Oculus Rift」生みの親、パーマー・ラッキーが創業した軍事テック企業、アンドゥリル(Anduril)。同社が開発した人工知能(AI)搭載の小型ドローン「Ghost 4」は、敵方の兵器の所在や兵士の潜伏場所を突きとめたりと、AIの軍事利用の可能性を感じさせるものとなっている。
これからの軍事用ドローンは、AIの活用で進化する:Oculus創業者の軍事テック企業が示した潜在力
PHOTOGRAPH BY ANDURIL

2020年の春、カリフォルニア州アーヴァイン近郊の広大な草原地帯の上空に、何かを探すように群れをなして飛ぶ小型ドローンの姿があった。センサー付きの小型ヘリコプターにも見えるドローン群が何時間も空中を旋回しながら探していたのは、草むらに隠された地対空ミサイル発射装置である。

この捜索の末に複数のミサイルが発見された。とはいえ、それらは“敵”のものではない。人工知能AI)を搭載した軍事用ドローンの試作機の初期テスト飛行用に用意されたダミーのミサイルだった。

「Ghost 4」と名付けられたこれらのドローンは、防衛テクノロジー企業アンドゥリル(Anduril)の最新製品である。アンドゥリルの創業者であるパーマー・ラッキーは、VRヘッドセット「Oculus Rift」の生みの親として知られている。

AIの軍事利用のポテンシャル

Ghost 4は、AIの軍事利用のポテンシャルを示している。ラッキーによると、Ghost 4は軍事用ドローンの第1世代として、敵方の兵器のありかや兵士の潜伏場所を突きとめるなどの多様な偵察任務をこなし、操縦は地上にいる人間がひとりでこなせるという。

現代のAI技術の大半と同様に、Ghost 4もまた機械学習によって画像を分析し、標的を特定している。しかし、複数機で飛行する場合の危機管理や意思決定に関しては、従来型の規則ベースのソフトウェアに依存する部分も多い。

ラッキーいわく、Ghost 4には敵の通信を妨害する装置や、標的を直撃するための赤外線レーザーなど、さまざまな機器を搭載可能だという。理論的には、ドローンそのものを兵器として使用することもできるはずだ。

「おそらく可能でしょう」と、彼は言う。「しかし、いまのところ実行に移した者はいません」

米国軍准将を退役後にハーヴァード大学ベルファー科学国際情勢センターでフェローを務めるケヴィン・ライアンによると、軍当局は小型ドローンに関心を寄せているという。人工衛星や従来の大型ドローンに匹敵する情報収集力を、より安価かつ迅速に、人手を要さずに発揮してくれるからだ。

しかし、こうした小型ドローンが実際のところどれほど賢く、役に立つかは未知数であると、アイロボットで働いた経験もあるライアンは言う。アイロボットはロボット掃除機のほか、かつては軍用機器も製造していた。

「AIがそんな現実離れしたことをやってのける日がいずれは来ると、誰もが思っています」と、彼は言う。「ただし、それがいつかは誰にもわかりません」

自ら技術を軍に売り込むアンドゥリル

AIと軍事システムの組み合わせを「完璧なマッチング」と呼ぶ人もいれば、「考えただけでぞっとする」という人もいる。

AIの軍事利用を深刻な問題とし、自律型兵器の禁止を訴える研究者も多い。例えばグーグルは18年6月、米空軍にAIを使った画像分析用ソフトを供給する契約を交わそうとしていたが、従業員の抗議を受けて断念せざるを得なくなった。

しかし、こうした新技術は消費者向けのテック企業によって次々に開発されており、AIの軍事利用を急ぐ国もいくつか存在する。このため米国防総省は、ハイテク各社や優れた人材との接触を積極的に試みている。

なかにはアンドゥリルのように、進んで手を貸そうとする企業もある。メキシコとの国境地帯をパトロールするVRプラットフォームの開発も手がける同社は、シリコンヴァレー流のやり方で防衛産業に改革を起こそうとしている。同社は、黙って米国防総省からの指示を待つのではなく、軍に売り込みたい製品を社内でいくつも開発し、AIやVRといった消費者向けテクノロジーを軍用化すべく迅速かつ安価に試作品をつくっているのだ。

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アンドゥリルはラッキーが、データ解析ソフトウェア企業のパランティア(Palantir)」を退職した仲間たちと一緒に創業した。20年8月に新規株式公開(IPO)を申請しており、評価額は200億ドル(約2兆1,230億円)ほどだ。アンドゥリルとパランティアはどちらも、テック企業専門の著名な投資家でトランプ大統領の顧問も務めるピーター・ティールの支援を受けている。

ドローンは、激化する米中間の技術競争にも巻き込まれている。政府機関における中国製の一般向けドローンの使用を禁止する法案が議会に提出され、トランプ政権は8月、一般向けドローンを製造する米国企業5社を政府公認のドローン供給企業に指名した。

一方の中国は、数種のドローン用部品の対米輸出を9月初めに禁止している。現在アンドゥリルがドローンの製造に使っている部品はすべて米国製か同盟国製、あるいはこれらの国の製品で代替可能なものばかりなのだと、ラッキーは言う。

ラッキーによると、アンドゥリルは米軍内でも他社のひとつ上を行く評価を得ているという。「われわれは常に、政府の人々が『欲しいけれど、なかなかつくれない』と思っているものを開発しています」と、彼は言う。「実現の可能性ありと思えたら、すぐにかたちにするだけです」

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TEXT BY WILL KNIGHT

TRANSLATION BY MITSUKO SAEKI