トヨタがつくる次世代のロボットは、「家の片付け」も自ら学習する

トヨタが家庭用ロボットの研究開発を進めている。家の中という予測不能な環境においてロボットが的確に動き、ものを壊さず掴めるようになる上で鍵を握るのは、正しい動きを学習する人工知能(AI)アルゴリズムだ。
トヨタがつくる次世代のロボットは、「家の片付け」も自ら学習する
天井から吊るされたトヨタのロボットが、カウンターの拭き掃除に取りかかる。PHOTOGRAPH BY TOYOTA RESEARCH INSTITUTE

一見すると何の変哲もない家の中。天井から吊るされたロボットがスポンジをつかんだ両腕をゆっくりと伸ばし、キッチンの上を入念に拭いている。そのそばでは別のロボットが、薄型テレビをかすかに揺らしながら掃除している──。

この掃除ロボットたちは、カリフォルニア州ロスアルトスのトヨタ・リサーチ・インスティテュート(TRI)にある家を模した空間で暮らしている。このスペースでTRIの研究者たちは、家庭用ロボットという夢をついにかなえるべく設計された多様なロボット技術のテストを続けているのだ。

一般的な日本の家屋は、狭くてごちゃごちゃしている。それを見たTRIの研究者たちは、クリエイティヴな解決策の必要性を痛感した。「何とかして天井を利用できないものだろうか? そうわたしたちは思ったのです」と、TRIのロボティクス開発責任者であるマックス・バジュラチャーリアーは語る。

トヨタがマサチューセッツ州ケンブリッジで運営する別の研究所では、ロボットたちが皿やカップを掴んで持ち上げ、食洗機に詰め込む練習をしている。ロボットたちが、ものを壊すことなく信頼できる動きを実現するために頼りにしているのは、ものを正しく掴む方法を学習する人工知能AI)アルゴリズムだ。そしてロボットたちがものを掴むときに使うのが、TRIが開発した“触覚”をもつ柔らかいグリッパーである。

これらのロボットのプロトタイプの商品化は未定だ。しかしトヨタは、巨大化が見込まれるこの市場への早期参入を目指している。


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クルマの専門技術を家庭に

トヨタは2015年、10億ドル(約1,059億円)を投資してTRIを設立した。クルマの生産に関する自社の専門技術を、より高度な家庭用・業務用ロボティクスに応用できると考えてのことだった。

TRIの最高経営責任者(CEO)であるギル・プラットによると、最新のクルマに搭載されているセンシングやコンピューティング、アクチュエーションといった技術が、シンプルなロボットの開発に役立つという。「クルマは外の路上で動くロボットなのです」と、プラットは語る。「クルマの目的は、人間の活動の幅を広げることです。わたしたちはロボットも同様だと考えています。ロボットは人間の活動の幅を広げるための存在なのです」

とりわけ日本では、今後数十年のうちにロボットが高齢者のケアに役立つようになることが期待されている。ロボットたちは家をきれいにするだけでなく、身体的な支援を必要とする高齢者の世話もするようになるかもしれない。高齢者たちの寂しさを紛らわせる存在にさえなるかもしれないのだ。

また、ここ最近のAIの発達が、ロボット工学の進歩を加速させることも期待されている。いまのところ、まだ産業用ロボットの大半はレヴェルが低く、同じ動作をやみくもに繰り返すことしかできない。しかし、機械学習の部分的活用に加えて、センシングやプランニングといった新たな能力のおかげで、この状況も変わり始めている。

日本に実証都市を建設

ロボティクス産業はすでに、数千億ドル規模の価値を有している。著しい進歩が起きれば、その数字は今後数十年でさらに大きくなる可能性もある。こうしたなかますます多くのスタートアップが、物流センターや小売店で単純な作業を繰り返すAIロボットの商品化を目指している。グーグルやアマゾンなどの大企業もまた、AIとロボット工学の融合を目指す研究に投資している。

ところが、ごく普通の家の中で役に立つ仕事をロボットにさせるとなると、そこにはいまでも大きな壁が立ちはだかっている。それらをこなすには、ロボットたちが予測できない複雑な環境に順応しなければならないからだ。近年の進歩にもかかわらず、いまでもロボットがさまざまな日用品をうまく操作する能力は、ロボット工学が抱える未解決の問題なのだ。

TRIの研究者たちも認めているように、各家庭でロボットがどのぐらい歓迎されるのかは定かではない。TRIは、新しいハードウェアのテストのほかに、人間とロボットの相互作用についても研究している。そして20年1月には、日本の富士山の近くに「Woven City(ウーブン・シティ)」と呼ばれる実証都市を建設し、そこでロボット工学などのさまざまな技術をテストしていくと発表した。

学習するロボットたち

TRIのさまざまなプロジェクトが示しているように、家庭で役に立つロボットの開発ができるかどうかは、AIやコンピューターシミュレーション、クラウドにかかっている。

TRIの研究者たちは、ロボットたちに仕事のやり方を教えるために、仮想現実(VR)環境をつくっている。そしてその環境下で、人間がアームを操作することによって、ロボットにデモンストレーションをする。ロボットたちは何度も試行を繰り返したのちに、機械学習を使ってベストな動きを特定する。

TRIのロボットたちは、模擬環境内で食洗機に食器を入れるといった仕事も練習している。これによりロボットたちは、学習機会をより多く得ることができる。「ロボットたちにさまざまな動きを学ばせ、その動きをロボット間で共有させることについて一定の成果が上がりつつあります」と、バジュラチャーリアーは語る。


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TEXT BY WILL KNIGHT

TRANSLATION BY GALILEO