iMacの27インチ版は、見た目が同じでも中身は正常進化した:製品レヴュー

アップルがオールインワンPCである「iMac」の27インチ版を刷新した。見た目こそ変わらないが、その性能は大きく進化した。一方で、変わらないデザインであるがゆえの不満な点もある──。『WIRED』US版によるレヴュー。
iMacの27インチ版は、見た目が同じでも中身は正常進化した:製品レヴュー
PHOTOGRAPH BY APPLE

個人的にアップルの「iMac」を使ったのは、2013年が最初で最後だった。薄汚れたオフィスビルにあった大学新聞の編集部でのことである。オールインワンコンピューターのiMacはあまり場所をとらないのだが、これは非常に重要なことだった。部屋はたいていの場合、学生記者たちでぎゅうぎゅう詰めだったからである。

そのシンプルさは、寮の自室で使うために自作した格安で巨大なWindows PCと比べると際立っていた。新聞のページのレイアウトに使っていた「Adobe InDesign」だけでなく、開いている何十ものブラウザーのタブやWordの文書を、いつでもうまく処理してくれたのだ。あらゆることが、部屋にあるほかのどんなハイテク機器よりも格好よく見えたのである。

2020年モデルとなった新しいiMacは、外観も雰囲気も変わっていない。本当に変わっていないのだ。この27インチモデルをニューヨークにある自宅アパートの狭いベッドルームで使い始めて約1カ月たつが、あの大学新聞の古い部屋で何時間も過ごした思い出がどんどん蘇ってくる。見た目はまったく同じで、いまも変わらずエレガントだ。

最新の「iPad Pro」のような全面刷新を望む人は、もう少し待たなければならない。ARMベースとなるアップル独自のCPUを搭載したiMacを期待するなら、さらにもう少し長く待たされるだろう。だが、それほど場所をとらず、投入したタスクをほぼすべて実行できるだけのパワーをもつデスクトップPCが必要なら、この20年モデルのiMacは期待を裏切らない。

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変わらない見た目

このiMacのことは、簡単に好きになれる。リサイクル可能なアルミニウム製の筐体はスタイリッシュで、曲線を描くスタンドは優雅だ。

しかし、マイクロソフトの一体型デスクトップPC「Surface Studio 2」や、普段から使っているデルのノートPC「Inspiron」の横に置いたら、最新型にはとても見えないだろう。フレームの厚さや画面を囲むベゼルの太さも、最新型には感じられない。それでも魅力的なマシンであることには変わりない。

アップルの大きな間違いは、スタンドを改良しなかったことだ。このiMacは高さを調節できない。画面をただ上下に傾けられるだけだ。今回はiMacをスタンディングデスクで使用していたことで、この問題を何とか回避できた。

画面は左右に向けることもできない。このため背面のポートへのアクセスが悪くなる。壁を背にして置いたらなおさらだ。

ポートの数はそれなりにある。「MacBook Pro」と比べると、iMacはまるでスイス・アーミーナイフのようだ。ヘッドフォンジャック、Ethernetポート(10ギガビットにアップグレード可能)、SDカードスロット、USB-Aポート4つ、Thunderbolt 3(USB-C)ポート2つが用意されている。個人的にはHDMIとUSB-Cがもう2つ欲しかったが(もっと安い「Mac mini」にも4つある)、確実で多用途なセレクションと言っていい。

27インチのディスプレイは、パネル自体は変わっていない。だが、解像度は5K(5,120×2,880ピクセル)で、驚くほど鮮明だ。色も素晴らしく正確に表示される。「Adobe Photoshop Lightroom」で写真を編集するなら、Windowsマシンで使っている34インチのモニターより、このディスプレイを選ぶ。『プロジェクト・パワー』のような映画も、iMacで観るとその美しさに圧倒される。

いくつもの奇妙な点

奇妙なのは、アップルがいまだに「Magic Mouse 2」を同梱してくることだろう。エルゴノミクスデザインでないうえに、充電中は使えないマウスだ。「Magic Keyboard」も同梱されているが、これも特筆すべきものではない。

それにiMacにログインするには、キーボードを使って毎回パスワードを入力することになる。嘘ではない。「iPhone 11」も「iPad Pro」も自撮り用カメラに自分の顔を見せるだけで魔法のようにロック解除できるのに、この高額なオールインワンマシンには無理なようである。

iMacへのログインだけの話だけではない。顔や指紋といった生体認証を使えないので、クラウド上にある「iCloud キーチェーン」に保存されたIDやパスワードを使って、お気に入りのウェブサイトやアプリに簡単にログインしたりもできないのだ。この機能を使えない点には失望した。

アップルに聞いてみたところ、「Apple Watch」を使ってログインするようにという回答が返ってきた。この米国で200ドル~400ドルするウェアラブル端末をもっていれば使える、という話である。

「T2」チップの恩恵

ハードウェアには、いくつかの変更点がある。まず、アップルのセキュリティチップ「T2」を搭載したことだ。その役割は、データの暗号化にとどまらず、多岐にわたる。

T2のイメージ・シグナル・プロセッサ(ISP)のおかげで、内蔵ウェブカメラの画質も向上している。カメラ自体が1080pで撮影できるようになったので(以前は720p)、映像がより鮮明になったのだ。

ISPは、ヴィデオ通話中に顔を認識して露出を合わせたり、色や明るさを調整してコントラストが強い状況(窓の正面に座っているような場合)に対応したりもできる。オールインワンのマシンやノートPCに内蔵されているほとんどのウェブカメラより高機能だ。一方で、カメラを使っていないときにカメラ部分をふさぐシャッターは欲しかった(これは幸いにも安価で手に入る)。

ハードウェアは変わっていないにもかかわらず、T2チップのおかげでスピーカーの音質もわずかながら改善されている。音量がきちんと上がるようになったし、音質もかなりよくなったのだ。ところが、低音の質にはがっかりである。パンチがなく、ひどく単調に感じる。

特筆すべきは「Nano-texture」

マイクは、16インチの「MacBook Pro」に搭載されているものと同じものになった。これはいい点である。周囲の音をしっかりカットしてくれる。これがポッドキャストに出演したとき、信じられないほど役立った。自分の声が非常にクリアに伝わるし、マイクの音がどのように聞こえるのか自分で聞いて確かめることもできる。

最大の改良点はディスプレイの「Nano-texture ガラス」だ(追加料金が必要になる)。アップルのディスプレイ「Pro Display XDR」で使われているものと同じで、マット仕上げよりはるかにいい。画面上の色を変えずに、ほぼすべての反射を除いてくれる。

実際にiMacを窓の横に置いて使ってみたが、差し込む日差しで画面が見づらくなることはなかった。500ドル(日本では50,000円)は値の張るオプションだが、窓の近くにiMacを置く予定なら付けるべきだ。目が喜ぶことは間違いない。

iMacのディスプレイは、色温度を自動調節する「True Tone」にも対応している。このためiPhoneと同じように、周囲の光に合わせて画面の色が変わる。実際のところこの機能がオンかオフかで大きな違いがあるとは感じかったが、目が画面に馴染みやすくなるような働きがあるのかもしれない。

さらにパワフルに進化

今回テストした最上位モデルのiMac(日本では24万9,800円)は、オプションとなる「Core i9」と最もパワフルなグラフィックカード(AMD Radeon 5700XT)を搭載し、Nano-textureガラスまで追加されていた。全部で4,500ドル(日本では38万9,800円)にもなる。銀行口座が空っぽになる金額だし、ほとんどの人にとってはやり過ぎだろう。

iMacには、選択できるメインの構成が4つある。プロセッサーは、基本となる第10世代のインテル「Core i5」で問題ないだろう。4K動画の編集といったCPUへの負荷が高い作業をするなら、「Core i7」か「Core i9」を選ぶといい。

これより大事なことは、RAMの容量を増やしておくことだ。基本の8GBは、こうした高価なマシンには少なすぎる。16GBが妥当なところだが、さらに上位のモデルを選ぶなら32GBがいいだろう。

パフォーマンス面での最大の改良は、ストレージのソリッドステートドライヴ(SSD)への転換だ。これまで使われていた「Fusion Drive」が、読み書きスピードが速いSSDにその座を譲ったかたちになる。それにSSDには可動部品がないので、エネルギー効率と信頼性が高い。

この結果、Macの立ち上げやアプリを起動する際の読み込み時間が非常に短くなる。ヴィデオゲームの画面の読み込みも速くなっている。基本モデルでは容量が256GBだが、増やしたいなら中位または最上位のCPUオプションを選ぶ必要がある。8テラバイトまで選択できるが、それだけあっても何をすればいいかわからない。

このiMacで4K動画のレンダリングや写真編集を試してみたが、簡単に処理することができた。Macはゲーム向きとして知られているマシンではない。だが、最高のグラフィック設定にしても「マッドマックス」や「トゥームレイダー」といったゲームを毎秒60フレームというスムーズさでプレイできた。ただし、画面の解像度は2,560×1,440以下に落とさざるを得なかった。

ちなみに、普段はWindows PCでプレイするための膨大な数のゲーム・タイトルを「Steam」に所有している。だが、(MacでWindowsを動作させる「Boot Camp」を使わずに)Macでプレイできるタイトルの数は悲しいほど少ない。

ARMへの移行が意味すること

アップルは今後、すでにiPhoneやiPadに採用しているARMベースのプロセッサーにMacも移行することを発表している。これは大きな構造転換になる。アップルのソフトウェアが理論上は、同社のすべてのデヴァイスにおいて、過去に見たことがないレヴェルでの相乗効果を発揮することになるからだ。

例えば、iPhoneのアプリがMacで簡単に動作するようになる。アップルにしてみれば、この自社製チップにMacを移行させることで、エネルギー効率の向上や発熱の抑制、オンボードの人工知能を最適化したりと、さまざまなことが可能になるだろう。

ARMベースの最初のMacは今年後半に登場する予定だが、全ラインナップが移行するには2年かかるとされている(つまりこの間は、インテルのチップを搭載したMacがいくつか登場すると予想される)。おそらく、ARMへの移行の本当のメリットがわかるようになるには、5年はかかるだろう。

この道のりは平坦ではないはずだ。まず開発者たちは、自分のアプリがARMだけでなく、インテルのプロセッサーでも動作することを確認する必要がある。すべてのアプリがすぐに問題なく移行されるとは限らないからだ。

それに、ARMチップを搭載したMacがインテル版と比べて、どの程度の処理能力を発揮するかという問題もある。特に上位モデルでは気になるところだ。しかし、ありがたいことにアップルは、インテル版Macに対するmacOSのアップデートを、「今後数年は」リリースしサポートすることを明らかにしている。

ARMへの移行がまもなく始まるにせよ、明確な影響はすぐには表れないだろう。この27インチのiMacが影響を受けないことも間違いない。だが、買い換えたくなるころには、ARMベースのiMacのラインナップがずっと魅力的になっているかもしれない。


◎WIREDな点
パワフルで、カスタマイズできるオプションが多数ある。ついにSSDストレージが使えるようになった(いまは何年だろうか?)。ウェブカメラが改良され、スピーカーの音がよくなり、マイクもかなり改善されている。信頼性の高いグラフィックス。オプションの「Nano-texture ガラス」は高価だが、窓のそばで使うなら付ける価値はある。

△TIREDな点
高額である(日本では19万4,800円から)。スタンドの角度がほとんど調節できない。顔認証「Face ID」を使えない。変わり映えしないデザイン。もっといいマウスが欲しくなる。基本モデルの8GBのRAMは少なすぎる。ARMベースのアップル独自チップを搭載したMacが、さほど遠くない未来にやってくること。


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TEXT BY JULIAN CHOKKATTU

TRANSLATION BY MIHO AMANO/GALILEO