法務、会計、人事……バックオフィスにまつわるさまざまな領域で、旧態依然とした業務に変革をもたらすプロダクトが登場している。それらの業務の効率化は、あらゆる企業が“本業”に集中することを支援し、仕事のあり方を変えようとしている。

2021年2月にシリーズCで総額30億円の資金調達を実施したLegalForceは、法務の領域における最注目のスタートアップだ。AIを用いた契約書レヴュー支援ソフトウェア「LegalForce」と、入力不要の次世代型契約書管理システム「Marshall」を提供し、法務のDX(デジタルトランスフォーメーション)を推進している。

4大法律事務所のひとつである森・濱田松本法律事務所出身の弁護士であり、LegalForceを率いる角田望と、同社の成長を支えてきた三菱UFJ銀行 成長産業支援室 上席調査役 長嶋一晃が対談し、スタートアップの事業をスケールさせる「銀行」の役割について語り合った。

角田望|NOZOMU TSUNODA
2010年、京都大学法学部卒業。同年、旧司法試験合格。2011年、京都大学法科大学院中退。2012年、司法修習終了。弁護士登録(第二東京弁護士会所属)。2013年、森・濱田松本法律事務所入所。2017年、株式会社LegalForce/法律事務所ZeLo・外国法共同事業を創業。

法務のDXで、日本社会の進歩を促す

長嶋 今日はよろしくお願いします。LegalForceさんとの関わりを振り返ると、三菱UFJキャピタルという関連会社から出資させてもらったのが最初でしたよね。

角田 2019年1月頃ですね。

長嶋 その後の5月に三菱UFJ銀行内で「成長産業支援室」が立ち上がりました。これまでわたしたちは「スタートアップ企業を支援する」と謳いながらも、それを支店や担当者任せにしていたんです。それでは多様なソリューションを提供できないと考えて、スタートアップをサポートする部署を立ち上げました。そして、その部署に所属したわたしがLegalForceさんを担当することになりました。それからしばらくして、三菱UFJ銀行が主催するビジネスサポート・プログラム「Rise Up Festa」に応募しませんか?と声掛けして、LegalForceさんは最優秀賞を受賞されましたよね。

角田 その節はありがとうございました。その後も継続的に支援いただけているのは非常に助かっています。いまだからこそ聞けますが、選んでいただいたポイントは何だったのでしょうか?

長嶋 いくつかポイントがあると思います。ひとつは成長性ですね。LegalForceさんはまさにマーケットが求めているものをつくっているな、と感じました。よいものをつくっても、市場がなければ成立しませんから。そして、経営陣ですね。角田さん自身や会社の資質を見て、評価させていただきました。

角田 恐縮です(笑)。

長嶋 もうひとつ重要だったのは、事業シナジーです。わたしたち銀行だけではなく、銀行の取引先となるさまざまな業種・業態のお客さまともシナジーがあると感じました。わたしたち自身も、契約書のレヴューや法務部の確認などで悩むことが多いんです。LegalForceさんのプロダクトが世の中に拡がれば、わたしたち銀行の仕事も楽になるわけで、ぜひこのプロダクトの成長を支援していきたいと思ったんです。

角田 ありがとうございます。業界のリーディングカンパニーである三菱UFJ銀行が率先して契約のDXに取り組まれたら、三菱UFJグループ全体の生産性が上がるだけではなく、ひいては日本社会の進歩や前進に寄与できるのではないかと考えています。

長嶋 そうですよね。いま弊行でもLegalForceさんのプロダクト導入の検討を進めている段階です。ただ、銀行はセキュリティ要件がとても厳しいので、そこの調整がまず必要になってしまいますが。

角田 わたしたちのようなSaaSのプロダクトの場合は、1ライセンスからのスモールスタートが可能です。導入できそうな部署から始めていただき、好評であれば全社に拡げていくという方法もとれるので、セキュリティに厳しい大企業だからこそ導入しやすい側面もあると思っています。

エクイティとデットによる柔軟な資本政策

長嶋 いま三菱UFJ銀行の取引先に契約法務のDXの提案を進める準備をしていますよね。角田さんから見て、弊行と取引するメリットってどこにありますか?

角田 わたしたちはBtoBのソフトウェアを展開する企業ですから、いまおっしゃっていただいたようにさまざまな企業にわたしたちの存在やプロダクトを知っていただく必要があります。ただ、創業期はマーケティングコストをなかなかかけられませんから、顧客を自社のみで大幅に増やすことは難しい側面もあります。日本全国にネットワークをもつ三菱UFJ銀行さんが取引先を紹介してくれて、それが売上につながっていくのは非常にありがたいです。わたしたちのプロダクトは契約法務という業務に特化しており、あらゆる業種・業態の企業で発生するものですから、対象となる企業は非常に多いのです。また、「Rise Up Festa」の際にいただいた事業戦略でのアドヴァイスなども役に立っています

長嶋 LegalForceさんに資金調達のニーズがあると伺った際に、わたしたちの関連企業の証券会社や信託会社を紹介させてもらったこともありましたよね。

角田 その節はありがとうございました。ファイナンスの支援は非常にありがたいです。スタートアップの場合は先行投資が必要となるので、エクイティ(株式)での調達が一般的になります。そうすると、将来の資本政策の柔軟性を失ってしまうことがあります。デット(借入)と組み合わせられるのが理想ですが、投資が先行するビジネスは既存の借入の仕組みにハマらないことが多いんです。しかし、日本政策金融公庫と三菱UFJ銀行との協調融資体制のもとで借入をさせてもらったのはとても大きいと思っています。

長嶋 資金調達からIPOまで一気通貫で支援していきたいので、資金調達の方法も柔軟に対応できればというのは常々考えているところです。それに支援先企業とともに成長しなければ、銀行の成長もあり得ないんですね。わたしたちは過去に「Rise Up Festa」を7回開催したのですが「スタートアップにとっての真の支援とは何か?」と常々思うんです。ピッチ大会を開催するのみでは、形だけのものになってしまう。そういったもどがしさが自分のなかにありました。なので、わたし自身もスタートアップの事業成長に貢献し、ともに歩んでいきたいと思ったからこそ、こうしてLegalForceさんとご一緒させてもらっています。

角田 長嶋さんをはじめ、三菱UFJグループの皆さんには本当に助けられています。

長嶋 いえいえ。弊行の取引先を紹介するなかでわたしが驚いたのは、LegalForceさんのプロダクト改善スピードなんです。大企業の方から「こういった機能は実装できませんか?」と質問を受けると、次のMTGの際にはプロダクトが改善されているんです。そういった側面からもLegalForceさんは成長していく実感をもっており、今後も熱量をもって支援していきたいと思っています。

角田 ありがとうございます。

長嶋一晃|KAZUAKI NAGASHIMA
1994年三菱銀行入行。相模原支店、バンコク支店(語学研修)、神田支店、東京営業本部(鉄鋼、船舶セクター)、五反田支店、大阪営業本部(電機セクタ―)、渋谷支社次長、大阪営業本部次長、福岡支社法人一部長、2019年5月に現職。MUFG各社・各部や外部事業者と連携し、スタートアップ企業の成長をサポートする業務に従事。

長嶋 いま、わたしたちはスタートアップ支援を強化する一環として、「BizSTATIONスタートアップパッケージ」と題したプランを提供しています。これは法人向けインターネットバンキングの基本サーヴィスと一部のオプションサーヴィスをパッケージ化して一定期間無料で利用いただける期間限定のキャンペーンです。また、このBizSTATIONスタートアップパッケージに加え、クレジットカードやデビットカードといったカード系決済ソリューションをパッケージ化した「Amazonギフト還元キャンペーン」というものも始めました。スタートアップの多くは、経理や支払い業務に割くためのリソースが十分にないと思います。そのため、MUFGの決済サーヴィスを気軽・安価に利用いただける機会をご提供することで、業務の効率化やコスト削減の面でも事業成長に貢献できればと考えています。

角田 よい取り組みですね。設立初期のスタートアップは、クレジットカードの作成や銀行口座の開設から躓いてしまうことがあります。たとえば、設立間もない企業は信用と実績がないためにカードの上限額を低く設定され、業務上必要な物品の購入ができないことなどはよく聞く話です。事業を成長させるうえで非本質的な業務を一貫したパッケージで支援いただけるのは、ありがたいと思います。創業時はわたしもそういった作業に意外と時間をとられてしまっていましたから。

長嶋 そうですよね。ちなみに、ファイナンスの領域では「Biz LENDING」という中小企業向けのオンライン融資サーヴィスもご提供しています。これは無担保・無保証・決算書不要で最短2営業日で借入可能という新しい融資サーヴィスです。審査対象は銀行の入出金データ等となりますので、こうしたオンラインサーヴィスを有効活用していただくためにも先ほどのお得なキャンペーンを使ってまずはBizSTATIONからお取引いただければと考えています。

伝統産業を変革せよ

長嶋 わたしたち銀行も伝統的なあり方を変えていく必要に迫られているのですが、法務もテクノロジーの導入が遅れていた領域のひとつですよね。

角田 そうですね。例えば、会計や人事の領域ではソフトウェアを導入していることがあっても、法務の領域においてはそれが行なわれていないことが多いと感じています。法務業務に関わるプロフェッショナルの皆さまをきちんとサポートできるプロダクトに仕上げていけるように、まだ追求しなければならない部分は多々あると考えています。ただ、法務の領域においてもソフトウェアを導入することで業務の生産性とクオリティは高まっていくとは思います。

長嶋 法務の領域においてテクノロジーの導入が遅れていた要因は何かあるのでしょうか?

角田 法務領域は専門性が高く、テクノロジーがどのように利用できるのか考えられてこなかったのではないでしょうか。加えて、契約書のレヴュー業務は、その案件ごとに背景を理解するなど個別具体で見ていく必要があること、AIが「日本語」の文脈を解析したり文章の意味を捉えることが困難という特有の課題がありました。しかし、京都大学学術情報メディアセンターと共同研究を進め、現在研究開発を統括している現CRO(Chief R&D Officer」が入社するなどして実現の方法がわかってきたのです。そして、2018年8月に「契約書レヴュー業務」の品質向上と効率化を図れるプロダクト「LegalForce」β版ができ上がったのです。

長嶋 2019年4月に正式にローンチされましたよね。

角田 そうですね。いまでは800社を超える企業や法律事務所が「LegalForce」を導入してくださっています。また、2021年1月からは契約書管理システム「Marshall」正式版の提供も始めており、事業の成長スピードが上がっている感覚はありますね。

長嶋 なるほど。わたしたち銀行も、法務、会計、人事などのプロダクトを提供しているスタートアップの皆さんとも連携しながら日本社会の生産性向上に貢献し、企業の成長をサポートしていければと思いますね。

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