齋藤精一の自宅は山の中にある。

斜面には竹林があり、3月下旬という季節柄、フキノトウが芽吹き、自生している野の草花が一斉に花を咲かせる。並べられた不揃いの薪は齋藤自身が自宅のタブノキを切り倒してつくったものだ。

朝9時スタートとなった今回の取材は、齋藤家の庭で行われ、取材中はホトトギスをはじめとした、たくさんの鳥たちの鳴き声が響いていた。

「ウッドデッキも、お隣さんの階段も、ぼくがつくったんですよ。最近は板金もやっているので、近所の子どもたちには大工か塗装屋だと思われています(笑)」

齋藤精一|SEIICHI SAITO
1975年生まれ。建築デザインをコロンビア大学建築学科(MSAAD)で学び、2000年からニューヨークで活動を開始。その後ArnellGroupでクリエイティヴ職に携わり、03年の越後妻有アートトリエンナーレでアーティストに選出されたことをきっかけに帰国。フリーランスのクリエイターとして活躍後、06年に株式会社ライゾマティクスを設立、16年よりRhizomatiks Architectureを主宰。建築で培ったロジカルな思考を基に、アート・コマーシャルの領域で立体・インタラクティヴの作品を多数つくり続けている。現在、2020年グッドデザイン賞審査委員副委員長、2020年ドバイ万博 日本館クリエイティブ・アドバイザー。2025年大阪・関西万博People’s Living Labクリエイター。2021年1月に組織改編をし、パノラマティクス主宰/株式会社アブストラクトエンジン代表取締役を務める。

2015年に齋藤は自宅を東京から神奈川県の葉山に移した。

2015年というと、齋藤が率いるライゾマティクス・アーキテクチャーが「ミラノ国際博覧会(ミラノ万博)」で日本館の展示ゾーンのメイン「LIVE PERFORMANCE THEATER」のクリエイティヴディレクションを手がけた年だ。 このプロジェクトはミラノ万博の展示デザイン部門で「金賞」を受賞。これは日本初の快挙だった。

「当時はとにかく忙しくて、24時間仕事をしないといけないと思っていました。でも家族と話して、東京の“密集”から離れてみようと思ったんです。離れて6年が経つと、東京で週末に何をしていたのかが思い出せない。いまは自然に対してやらなければいけないことがたくさんあるんです。木が伸びたら切るし、台風の前は準備をしたり」

神奈川出身の齋藤は「葉山は免許を取るとドライヴに来る場所」で「まさか住むことになるとは思っていませんでした」と笑うが、いまの葉山での暮らしは充実している。

自宅では、小さめな部屋を仕事場として利用していると齋藤は言う。「家では『仕事をしない』と決めていました。でも時差がある海外とのやりとりもあるので、小さい仕事部屋をつくっておいたんです。東京のオフィスにももちろん行っていますが、コロナ禍以降はこの部屋で仕事をしていますね」

身の回りの解像度が上がる

コロナ禍のいま、リモートワークをしながら東京のオフィスに通う生活を続けている齋藤は、「東京では相変わらず時間に追われている状態ですが、東京から葉山までのクルマの1時間くらいの移動時間で『タイムワープ』をして切り替えています」と言う。

日々忙しく仕事をする齋藤だが、休日は仕事を入れないようにしていると言う。休みの日はどう過ごしているのだろう。

「最近はモトクロスもやるので、バイクの修理ばかりしていますね。ぼくは直せるものは全部直すと決めているんです。葉山に来てから身の回りの解像度が上がったと思います。自分にできることはできる限り自分でやる。スキルセットを多くしていこうというのが、葉山に来て変わったところかもしれない」

海でSUPをするという齋藤にはMARINEのCC5006-06Lを。エコ・ドライブGPS衛星電波時計で、フル充電時には約7年稼働可能だ(パワーセーブ時)。200m潜水用防水も備える。

道具として使い倒せる時計

ものを修理しながら使う齋藤にとって「時計」に求めるものはどんなものだろうか。

「ぼくは道具として使えなければ意味がないと思います。現場で設営作業をするとき『時計に傷がつくからはずそう』というのは違うかなと思うんです。傷がついても水に濡れても、油まみれになっても大丈夫なくらいがいい。ぼくは身の丈に合う、道具として使える時計がほしいですね。ぼくはすぐに傷をつけたり壊してしまうから、今回の時計は耐久性が高く、機能的にもぼくにちょうどいいです」

今回齋藤が身につけたPROMASTERはSKY、LAND、MARINEの3タイプ。陸・海・空の過酷な環境で使用することができる耐久性と、安全性、さらに革新的なテクノロジーが搭載されたプロフェッショナルスポーツウオッチだ。1989年の誕生以来、齋藤のようなプロの探求者たちを魅了し続けてきた。

「この時計のようにGPSを使ったり、時間という概念を使うために、時計が『道具』として機能する。ぼくもデジタル時計はもっていて、新しいものはいいなとたまに思ったり、考えが振り子みたいに動くことがあるのだけど、やはり『道具としていいもの』という考えに集約されていくと思います」

コロナ禍のいま、リモートワークが増え、生活と仕事の切り替えをするために自宅でも腕時計をする人が増加している。

齋藤は「人間が時計のようなユニヴァーサルで共通のものをもつことは絶対に大事です。コロナ禍となり、自分なりの時間軸や哲学をもって上手に生活と仕事を切り替えられる人が増えましたよね」と言う。

自然のなかの時間の感覚

つねに最先端のデジタル表現に身を置く印象の強い齋藤だが、近年は自然と向き合うイヴェントを手がけることが多い。

例えば2019年11月には、夜の無人島・猿島で行われたイヴェント『Sense Island -感覚の島- 暗闇の美術島』では、「暗闇と静寂」という都市生活では触れることができない体験を生み出し、2020年8月に奈良県の吉野町、天川村、曽爾村の3カ所で開催された芸術祭「MIND TRAIL 奥大和 心のなかの美術館」では、奈良の広大な自然をフィジカルで体験できる場を提供した。

「ぼくは『哲学の時代に入った』という言い方をしていますが、『自分とはなんだろう』という自分の内側、内面に矢印が向く時代になりました。コロナ禍で開催されたマインドトレイルは自然の中を歩くイヴェントで、参加者が奈良の大自然のなかでアートを感じることができたら、それにはもうデジタル表現は敵わない。この面白さに気がつくと何時間も森を歩き続けてしまう」

このように齋藤はイヴェントを振り返るが、齋藤が考える自然の面白さとはどのようなものなのだろう。

「例えば、木は枝が伸びてはいけない方向を学習していると思います。こっちに伸びると、このオジサンに切られるって(笑)。花も『いまから咲いていいんだ』とわかると、一斉に咲き出す。それは圧倒的で、自然を知れば知るほど、デジタルの表現は負けてしまう。デジタルを使った表現はたくさんありますが、その表現は本当に必要なのか。デジタル表現を見せることを目的とした時代はとうに終わりました」

圧倒的な自然を前に、人間は自然を制圧するのか、自然に制圧されるのか。齋藤は「ちょうどいい具合に押したり引いたり、押されあったりというのがいいはずで、例えば食においても、人間は食べたいものをつくるのではなく、自然から与えられたものを美味しく食べて、楽しむ。これはスポーツもそうだし、いろいろなことに通じているように思います」と言う。

株式会社ライゾマティクスは創立15年を迎え、2021年1月末より株式会社アブストラクトエンジンへと社名変更し、組織変更を行った。「ライゾマティクス」と「パノラマティクス」の2つのチームを設置し、新たな体制で実証実験、社会実装をさらに推し進め、世界をより面白くしていくことを目指す。

「いままでぼくたちはビジネスドリブンではなく思想ドリブンでやってきました。それはこれからも変わりません。今回はこれまでの広がっていた思想を、パノラマティクスとライゾマティクスと分けることで、本来の思想をそれぞれがもう一度濃縮させるイメージです」

視点を「パノラマ」に。今後も葉山の自然と時間に向き合いながら活動する齋藤に引き続き注目していきたい。

[ CITIZEN PROMASTER ]