“日常の当たり前”を影で支える存在

「自動化」や「スマート化」が一層進むと予想される2030年。Hondaはこの未来に向けて、人々の日常生活のなかで生まれる喜びを技術で支え続けるために「2030年ビジョン」と題した以下のステートメントを掲げている。

すべての人に「生活の可能性が拡がる喜び」を提供する
──世界中の一人ひとりの「移動」と「暮らし」の進化をリードする──

この「暮らし」の部分に焦点を当てた取り組みとしてHondaが新たに始めたプロジェクト「Life Sound Player」がこのほど公開となった。

車や二輪車など、Hondaといえば移動のための「乗りもの」をつくる会社として認識している方も多いのではなかろうか。しかし、同社が「暮らし」領域の製品として展開するもの──例えば、市民がくつろぐ公園の美しさを保つための芝刈機や、屋外イヴェントにエネルギーを供給する蓄電器、雪国ではライフラインともなる除雪機など──は、日常の“当たり前”に寄り添う存在としてわたしたちの暮らしを支えている。

そのHondaがいまを生きる人たちに向けて制作した動画には、どのようなメッセージが込められているのだろうか? その想いをひも解く前に、まずはそのコンセプトムーヴィーをご覧いただきたい。

「Life Sound Player」という言葉には、あらゆるライフスタイルにおいても通底する生活音に焦点を当てることで「日常の再発見」を促し、その気付きを起点にHondaとともに「自分らしい暮らし」を再創造して欲しいという想いが込められているという。

「音」にフォーカスした理由

そもそもHondaは、生活に寄り添う存在として「暮らしに役立つ技術」を生み出すことからスタートした企業だ。これは創始者の本田宗一郎が、日々街まで買い物に出かける妻を楽にするために自転車にエンジンを取り付けたことが、会社設立のきっかけになったというエピソードに現れている。

とはいえ、「100年に1度の変革期」を迎え、消費者とのタッチポイントを見出しやすいモビリティ領域ではなく、室内や屋外での「暮らし」を支える存在として改めてHondaを捉え直してもらうにはいかなる表現を採るべきなのか──。

この問いに対し、行き着いた答えは「ノンヴァーヴァル」な表現だったという。その背景について、担当者は「製品の訴求が目的ではなく、面白がってもらうことから認知を拡げる方法を考えたいと思っていました」と振り返る。

その上で、「日常の生活も、見方を変えるだけで違う世界として感じられる」というメッセージを、視覚的な表現よりも直感的に訴えかけるために「音」へ焦点を当てて構成していったのだという。

PHOTOGRAPH BY SHINTARO YOSHIMATSU

目指すは生活者との「フラットな関係」

このような施策を通してHondaが目指すのは、「生活者とのフラットな関係性」を築くことだ。本プロジェクト担当者は、技術起点で製品を送り出す企業であるからこそ「なんでもやってあげる存在」になるべきではないと語る。

「世界が自動化の方向に進むほど、人は『自分で何かしたい』と思うようになるのではないでしょうか。テクノロジーが何でもやってくれるからこそ、自分で土を耕したいという人がもっと出てくるのではないでしょうか。近年、キャンプが流行しているのと同じ流れになると思います」

技術革新よって便利になる世界でも、ユーザーに“成果物”だけを渡すのではなく、ひとりひとり異なる「やりたいこと」を成し遂げる“プロセス”に貢献する、ユーザーと対等な間柄でありたいと考えているのだ。

しかし、生活者の課題を平均化しない製品をつくるということは、尽きることない「個の課題」に向き合い続けなければならないということだ。これに対して、担当者は「喜ばしいこと」だと語る。次々と生まれる新たなニーズにひとつひとつ応え続けていくことで、世の中とともに企業として成長していくというのが、Hondaのタグラインである「The Power of Dreams」を生み出すサイクルなのだという。

「自己表現の味方」であるために

最後に、このような生活者との関係性が築かれた先に訪れる未来に、Hondaが展開する製品がどのような存在でありたいかとプロジェクト担当者に問うと、「自己表現の味方を目指したい」という答えが返ってきた。

「例えば、人間が月に住むようになったとしても『月でも土を耕したい』という人は出てくるのではないかと思います。わたしたちは、そのときに月にも持っていきたいと思われる“相棒”をつくっていたい──『やりたいことのためにHondaがいる』と思ってもらえる存在になれれば嬉しいです」

今回、動画と同時公開されたブランドサイトでは、動画で使用されている音をユーザーが自由に組み合わせて音楽をつくることができる。これについて担当者は「システム上は簡単なギミック」だと謙遜しながらも、「わたしたちも想像してないような遊び方をしてもらえれば嬉しい」と語った。動画と同様に「暮らしをつくる音」を通じて日常に潜む楽しさを再発見すると同時に、このサイトからも「自己表現」のきっかけが生まれてくるはずだ。

[ Honda | Life Sound Player ]