ソーシャルメディアのCEOたちが公聴会で語らなかった「心の声」を、文章で“再現”したらこうなった

米下院公聴会で証言に立ったフェイスブック、ツイッター、グーグルの最高経営責任者(CEO)たち。周到に準備されたお決まりの冒頭発言で幕を開けた公聴会だったが、3人の本音はどうだったのだろうか──。3社とそのCEOたちを創業期から取材してきた『WIRED』US版エディター・アット・ラージ(編集主幹)のスティーヴン・レヴィが、その「心の声」を事実と想像に基づいて文章で“再現”した。
Sundar Pichai
PHOTOGRAPH BY GETTY IMAGES

大手テック企業の最高経営責任者(CEO)であるジャック・ドーシー、スンダー・ピチャイ、マーク・ザッカーバーグの3人が、2021年3月25日(米国時間)に米下院公聴会で再び証言した。いつものように事前に準備されたお決まりの冒頭発言で幕が開けたが、それは従順な態度で自分たちのメッセージを提示すべく配慮されたものだった。

しかし、もしその冒頭発言がCEOたちの本音を表現したものだったなら、そのひとつは以下のような内容だったのではないかと想像する──。

「はい」か「いいえ」でしか答えられない質問で、わたしをがんじがらめにしようと手ぐすね引いている議長、副議長、そして普通の委員の皆さん、こんにちは。委員会の開催に先立って、「ゆっくり動いて解決するな」[編註:「素早く行動し破壊せよ」というフェイスブックのモットーのもじり]の世界を訪れる機会をくださって、ありがとうございます。

わたしのチームはあらゆる手段を尽くし、わたし自身ではなく部下を送り出そうとしましたし、わたしの体内の全細胞が、「ここから出してくれ!」と叫んでいます。

ただし念のために申し上げますが、わたしは自分の豪邸の中のめったに使わない一角に座って人質のようにカメラを見つめ、自分は怪物でもロボットでもなければ、ユニオン・バスター(組合潰し)でもないことを証明する機会を得たことを歓迎しております。

いえ、違いました。わたしは確かにユニオン・バスターではありますが、皆さんのなかにはそのことを好ましく思っている方々もいらっしゃいますよね。

まず、わたしたちが成し遂げてきたすばらしい業績を列挙することから始めさせてください。皆さんがわたしをここに呼んで説明させようとしている問題を矮小化できるように、ということなのです。こんなことをして申し訳なく思いますが、この公聴会のあり方に対して、ついこのように反応してしまうのです(皆さんはこの公聴会に「Disinformation Nation」(偽情報国家)という、クリックベイトみたいなタイトルまでつけました。こざかしいですね)。

まず、わたしたちが実施してきたあらゆる真摯で前向きな取り組みを、いやというほど披露したいと思います。その取り組みのなかには、どこでワクチン接種を受けることができるかというような本物の情報を人々に届けることも含まれています。投票の仕方といったこともです。しかし、皆さんのなかには、そのことが気に入らない方々もいらっしゃいます。

わたしたちがここにいるのは、ジョー・バイデンが廃止したがっている連邦通信品位法第230条について話をするためです。誰か彼にこの法律を説明できる人はいませんか? もしわたしたちが責任を負うことなく人々の発言を配信できなければ、わたしたちが沈黙させられるのではなく、インターネットそのものが弾圧されます。皆さんは人類を検閲しようとしているのです。

そしてわたしたちの会社は死に、すさまじい労働人口が職を失うことになります。この法律を改正したいということに関しては、皆さんは全員が合意しているようですが、民主党議員はわたしたちがコンテンツをもっと削除すべきだと要求しており、共和党議員はわたしたちがコンテンツを削除しすぎるととがめます。妥協の余地がほとんどありません。議会には妥協が存在するはずなのにです。

皆さんは全員、わたしたちには偏向があるようだと言いますが、皆さんの一部が頻繁に引き合いに出す「憲法修正第1条」は、私的なコンテンツ決定に偏向があるかどうかについて、政府は関与すべきでないと定めている法律です。お願いしますよ。

いずれにしてもわたしたちには、成長と維持へのこだわりというたったひとつの偏向しかありません。

プラットフォームに存在するものの大半は“いいもの”?

これは偽情報に関する公聴会です。なんとワシントンD.C.で、ですよ! LOL!(「LOL」はAOLの時代から使われていますから、皆さんでも理解できますよね)。

今日呼ばれた企業がもし存在しなかったら、選挙とワクチンの安全性に関する偽情報を拡散する手段はなかっただろうと、本気で思っていらっしゃるのですか。最近、タッカー・カールソン[編註:右派で知られるFOXニュースの政治トーク番組の司会者]をご覧になっていないのですか。

確かに、わたしの会社が創業した当時は、情報をシェアして人とつながることで社会は良くなるだろうと思っていました。人類がこれほどまでに醜悪になりうるなど、わかるはずがありません。

とはいえ、皆さんが耳をふさぎたい事実があります。それは、わたしたちが最初に抱いた直感はおおむね正しかったということです。わたしたちのプラットフォームに存在するものの大半は“いいもの”なのです。わたしは数字をたくさん処理してきました。わたしはエンジニアです。わたしは数字にすがります。数字のおかげで、夜は眠りに就くことができるのです。

だからといって、わたしは規制に抵抗するわけではありません。それどころか、わたしは規制を歓迎します。とりわけ、それによって競争相手が、わたしたちがすでにしていることの一部を真似ることにお金とエネルギーを使わざるをえなくなるのであれば、です。ただ、230条は廃止しないでください。廃止すれば中国企業がインターネットを支配するようになりますから。

とはいえ、ここで提起されている問題のなかには、わたしたちが面目を失っても仕方がないものがあることは認めます。わたしたちはひどい内容のものを提供してきましたし、そういったものをすぐに削除しなかったので、それについてはご批判を賜ることになるに違いありません。

本当のことをお知りになりたいですか。わたしも、ここにいるほかのふたりも、自社のプラットフォームから有害なコンテンツを取り除きたいと本気で思っているのです。しかし、あまり熱心にそれをすると、シェアの一般的速度が落ちるだろうと懸念しているのです。

ヴァイラルになることはわたしたちのDNAに組み込まれており、わたしたちのアルゴリズムは有害な投稿を過度に優先したり、極端なコンテンツをすすめたりすることがあります。それでもわたしたちの人工知能(AI)は進歩しているので、いずれはもっといい仕事をするようになるでしょう。この信念もまた、わたしの寝付きを改善してくれるものです。

わかります。わたしはフェアではないと思っていらっしゃるのですね。しかし、わたしは皆さんがフェアではないと思います。

わたしたちのデータの扱い方について皆さんは文句を言いますが、それでいて、わたしたちのユーザーに向けて政治広告を打つために喜んでお金をお支払いになっています。こうして大騒ぎをする割には、数十億人のユーザーのデータをわたしたちが利用できないようにしたり、インターネット上や物理的世界におけるユーザーの行動をわたしたちが追跡するのをやめさせたりするような厳しい法律は、一度も制定したことがありませんよね。

もし皆さんがこういった法律を成立させれば、わたしたちは従うほかなくなるでしょう。ですがそれまでの間、わたしやビジネス界のほかの企業は、そうした法律を阻止するためにロビー活動を続けるでしょう。これまでのところは、うまくいっています。

公聴会は“ダンス”にすぎない

これがダンスにすぎないことは、みんなわかっています。わたしたちに対してどんなに厳しい態度をとっていても、皆さんは選挙活動への献金を喜んで受け取ります。

わたしたちの献金は巨額です。事業をするための経費なのです。そして、その経費は膨れ上がっています。選挙結果を引っ繰り返すことに票を投じた人々にわたしたちが献金し続ける理由を従業員に説明することが、ますます難しくなっています(1月6日以降、こうした献金を許容することがわたしたちでさえ困難になったので、少なくとも一時的には停止しました)。

ちなみに、従業員の好意こそが、わたしが本当に大切にしているものです。従業員たちがいなかったら、21世紀を支配することはできませんから。

わたしはこのゲームをプレイできます。皆さんが怒ったふりをしてわたしを攻撃している間、わたしは皆さんをおおいに尊重しているふりをすることができます。偽りの人格を演じることを、ソーシャルネットワークを運営している人間以上に理解している人などいるはずがありませんから。

ただし、忘れないでください。わたしは起業家です。皆さんがわたしの前に置いた障害物は、わたしにとっては難しいプログラミングの課題のようなものです。ソリューションは常に存在します。そう、リナ・カーン[編註:コロンビア大学准教授で下院小委員会顧問。大手テック企業の規制を主張する強硬派で知られる]に対してすら、解決策はあるのです。

ご清聴ありがとうございました。きまりの悪い質問に対して「はい」か「いいえ」で答えるように求められる場合は別として、皆さんのすべての質問にお答えするのが楽しみです。わたしはバイナリー形式が大好きですが、この場ではそうではありません。

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TEXT BY STEVEN LEVY