女性旅行者コミュニティ「FemmeBnB」が、“知らない夜道”に安心をもたらす:「夜道が怖くない未来」への提言(2)

世界の女性、約30億人(ほぼ全員!)が夜道を歩くことに不安や恐れを感じているという。その恐怖に寄り添い奮闘する起業家たちが提示する「すべての人」が安心して夜に闊歩できる都市へのヒントとは──。トロントで生まれた女性旅行者の安全を守る「FemmeBnb」の共同創業者兼CEOのヤー・ビラゴが考察する。(雑誌『WIRED』日本版VOL.41より加筆して転載)
女性旅行者コミュニティ「FemmeBnB」が、“知らない夜道”に安心をもたらす:「夜道が怖くない未来」への提言(2)
ILLUSTRATIONS BY FRAN LABUSCHAGNE

世界中の女性たち約30億人(ほぼ全員!)が、夜道を歩くことに対して不安や恐れを感じているという。本シリーズでは、雑誌『WIRED』日本版VOL.41で紹介した女性の安全を守るために奮闘する3人の女性起業家たちによる「未来の都市への提言」を紹介する。


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当事者にしかわからない「安全と安心」

FemmeBnBは、女性旅行者の安全性を最大限に高めて快適な滞在先を提供し、宿のホストと旅行愛好家の強力なコミュニティを構築することが唯一の目的です」

共同創業者で最高経営責任者(CEO)のヤー・ビラーゴは、自社のミッションをこう語る。FemmeBnBが主に提供するのは、女性の旅行体験を向上させるための民泊仲介サーヴィスと、旅行者と宿のホストをつなぐコミュニティ機能だ。今年3月のローンチから5月20日時点ですでに60カ国・4,000人以上の登録者を集めている。

FemmeBnBの民泊仲介サーヴィスで宿を提供できるのは、ビデオ通話や身分証明書・所有権の証明など事前の厳格な審査を経た女性ホストのみ。また、旅行者とホストを直接つなぐ「Her Community」と称するSNS機能では、両者にとって新しくより良い旅行体験を生み出すためのサポートをしている。さらに人工知能(AI)を活用した旅程作成やトラヴェルアシスタントサーヴィスも開発中だという。

ビラーゴがFemmeBnBを起業するきっかけとなったのは、17年に彼女がひとり訪れた旅先のローマで経験した出来事だった。「Airbnbの宿泊先前でセクハラを受けました。男性のホストに助けを求めたのですが、彼は意外なことに『よくあることで、何も起こらないよ』と答えたんです」

このとき、女性にとっての安全や安心が、女性以外に理解されていないことを強く実感したという。「もしホストが女性だったら、違うサポートを受けられたでしょう。帰国後、ほかの女性たちにこの出来事について相談したり、同じような体験をネット上で見かけたりするなかで、改めてがっかりしてしまいました。女性旅行者が恐れることなく旅ができるよう、安全を確保するためのコミュニティをつくる時機だと思ったんです」

Instagram content

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FemmeBnBのインスタグラムアカウントでは、女性旅行者に向けたさまざまな情報が発信されている。

“不安の解消”のために都市に必要なもの

海外旅行が困難となったコロナ禍にもかかわらず、FemmeBnBのユーザー登録数は日々増加している。では、パンデミックの収束後に国境を超えた自由な移動が再開したとき、旅行先を歩くときに感じる「知らない夜道」への不安を軽減するために、都市は何を備えておくべきなのだろうか。

ビラーゴはこの問いに対し、まずは都市づくりに携わる人々が、住民同士のコミュニティ形成を積極的に手助けしていくべきだと語った。その土地に住む住民たちのインクルーシヴィティや帰属意識を築くために、公共スペースや既存の公共施設、空きビルなどをさまざまなコミュニティ活動に使えるようにするべきだと彼女は言う。

「活気のあるコミュニティスペースや手入れの行き届いた公共空間がさまざまな場所で開発・活用されると、集団としての意識が育まれ、犯罪の減少や路上や移動に対する不安の軽減につながります。都市整備の一環として、女性や子ども、障害者や特定の民族との信頼関係やその土地への帰属意識を醸成し、遠ざかるのではなく『誰もが逃げ込める場所』として活気あるコミュニティが構築されるべきです」

さらに、行政のレヴェルで行うべきこととして、公共交通機関の安全性を高めることも必要だとビラーゴは付け加えた。「公共交通機関に関する痴漢や性犯罪などの多くは、その利用最中よりも、乗換駅で電車の到着を待っているときや駅などの乗り場へ向かう道中、または降車後に発生しているという調査結果があります。これを踏まえると、乗換駅は可能な限り、24時間複数の人流が促されるように設計されるべきですし、出口には犯罪を抑止するための監視システムや明るい照明が必要です」

例えば、ビラーゴが拠点とするトロントでは、トロント交通委員会(TTC)により「The Request Stop program」が導入されている。これにより、午後9時から午前5時の間にひとりでバスを利用する乗客は、停留所以外の場所でも降車場所を自由にリクエストできる。このプログラムのような交通機関利用前後の安全性を高める取り組みと、こぼれ落ちる人が出ないように構築されたコミュニティづくりを両輪で行なうことが重要なのだ。

「女性のひとり旅は危険だ」──この言葉が“過去のもの”になる日は来るだろうか。国によって治安情勢は異なり、ましてやパンデミックの渦中にあるいまは絵空事のように思える。しかし、安全を求めて世界中の女性旅行者がつながるコミュニティをつくるビラーゴのような起業家の活動や彼女たちから提言が、行政やディヴェロッパー、都市計画家によるまちづくりのレヴェルで受け入れられることによって、女性たちが望む「その日」に一歩ずつ近づいてゆくはずだ。


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TEXT BY MANAMI MATSUNAGA