映画『DUNE/デューン 砂の惑星』の巨大生物サンドワームは、こうしてつくられた

映画『DUNE/デューン 砂の惑星』には、広大な砂地に生息する巨大生物であるサンドワーム(砂虫)が登場する。監督のドゥニ・ヴィルヌーヴ率いる制作陣は、その圧倒的な存在感をいかに映像と音で表現したのか。その舞台裏をヴィルヌーヴら制作陣が語った。
Sandworm
©WARNER BROS./EVERETT COLLECTION/AFLO

制作陣は、それを「サンドスクリーン」と呼ぶ。ドゥニ・ヴィルヌーヴ監督が『DUNE/デューン 砂の惑星』の大部分を撮影したヨルダンとアラブ首長国連邦の砂漠では、すべてのものがさまざまな色合いのベージュ色をしている。

このような環境に合わせて、視覚効果スーパーヴァイザーのポール・ランバートは、グリーンバックに茶色の背景を使用した。ランバートにとって初めての試みである。

この「サンドスクリーン」のおかげで、ヴィルヌーヴは砂漠で美しい映像を存分に撮ることができ、ランバートはポストプロダクションで必要な効果を簡単に追加できた。ランバートは砂の色を、好きな建物や背景、獣などに差し替えるだけでよかった。これにより、すべてのショットが可能な限り自然に見えるようになり、本作で最も象徴的な生物のひとつを生み出すことができたのだ。

その生物とは、もちろん「サンドワーム(砂虫)」のことである。フランク・ハーバートが小説『デューン』で描いたように、サンドワームはアラキスの広大な砂地に生息し、宇宙で最も貴重な物質である「スパイス」を生産する巨大な生物だ。


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アラキスの先住民であるフレメンにとって、サンドワームは移動手段でもある。うろこ状の外皮に手綱を付け、その上に立って砂漠を這い回るのだ。

サンドスクリーンのおかげで、ランバートは俳優がロケ地でサンドワームに「乗る」様子を撮影し(実際にはベージュ色をした移動可能なジンバルに支えられた足場である)、その下にCGでサンドワームを追加できた。これにより、ランバートはシームレスなVFX(視覚効果)(『DUNE/デューン 砂の惑星』ではVFXのショットが2,000本以上も使用された)を作成し、ヴィルヌーヴは可能な限り自然に見える映画をつくることができたのである。

「わたしは、ドゥニに『これを全部ブルースクリーンにしたらどうでしょうか……』と伝えるようなスーパーヴァイザーではありません」と、ランバートは言う。「それはわたしの仕事のやり方ではありませんから」

何か「独創的で恐ろしい」こと

サンドワーム自体をデザインしたことも、また偉業だった。ヴィルヌーヴは、2017年に『ブレードランナー2049』を完成させた直後に『DUNE/デューン 砂の惑星』の制作を開始している。

「わたしは多くの時間を必要としていましたが、スタジオは十分な時間を与えてくれました」と、ヴィルヌーヴは語る。「準備を始めたときにはデザインはほとんど完成していて、アートコンセプトもできていたのです」

ヴィルヌーヴは、プロダクションデザイナーのパトリス・ヴェルメットと協力し、サンドワームの大きさ、質感、何トンもの砂を押しのけて移動するために必要な力など、そのデザインを仕上げるために数カ月を費やした。

「インターネットでサンドワームを調べると(Google検索で『Dune sandworm』と検索してほしい)さまざまなヴァージョンが出てくるほど、『デューン』には多くのファンがいます」と、ヴェルメットは語る。「『デューン』は多くのSF愛好家やこれまでの映画にインスピレーションを与えてきました。『スター・ウォーズ』にはサンドワームが登場します。そこで、何か独創的で恐ろしいことをしようと考えたのです」

デジタルでつくられた「ワームサイン」

完成したサンドワームのデザインを、ランバートは「先史時代を思わせる」と評する。うろこで覆われていて、体長は何百フィートもありそうに見え、いびつな形をしている。最も参考になったデザインのひとつはクジラだった。

主人公のポール・アトレイデス(ティモシー・シャラメ)が真正面から対峙するサンドワームは、大きく開いた口にヒゲが生えており、地中での動きはクジラのようでなければならない。ランバートのチームは、これらのアイデアすべてを駆使し、デジタルでサンドワームをつくり、「Clarisse iFX」でテクスチャーをレンダリングし、「Maya」でアニメーションを作成し、「Nuke」で各ショットを合成した。

さらに、サンドワームの名前の由来である「砂」の問題があった。本作では、サンドワーム自体は何度か重要なシーンで登場するものの、多くの場合は地中での動きでしか存在を確認できない。ハーバートが「ワームサイン」と呼ぶ砂漠の地表の波紋も、デジタルで作成しなければならなかった。

砂漠でロケを実施した際にランバートは、サンドワームが大量の砂を巻き上げるシーンを、地中に設置した爆薬でどのように視覚化しようかと考えていた。「しかし、中東で爆薬を使うのは得策ではありませんでした」

その代わりにランバートは、「Houdini」というソフトウェアを使って、主に水の動きをベースにして砂の動きをシミュレーションすることにした。

『ブレードランナー2049』で培われた哲学

さらにサンドワームのユニークな点として、音による効果が挙げられる。地面が揺れるだけでなく、アラキスの砂漠にいるフレメンも、映画館の観客も、サンドワームの動きを「聞く」ことができるはずだ。

サンドワームはソナーのように地中の音を追跡できるので(クジラもそうだ)、フレメンたちは地表を叩き続ける装置「サンパー」を使ってワームの注意を引きつけている。このためデューンの獣たちにも独自の音が必要となり、マーク・マンジーニとテオ・グリーンのサウンドチームが担当することになった。

ふたりは『ブレードランナー2049』でヴィルヌーヴ監督と仕事をした経験があり、その際に培った哲学は『DUNE/デューン 砂の惑星』にも引き継がれている。

「これらのサウンドは、すべてわたしたちが認識する宇宙に根ざしていると感じられなければなりません」と、マンジーニは言う。「ヴィルヌーヴは、わたしたちが耳にするすべての音が、有機的で自然な音に聞こえることを非常に重視していました」

印象に残るサウンド

その哲学を実践するために、彼らは「フェイク・ドキュメンタリー・リアリズム」、略して「FDR」という別の新しいコンセプトを打ち出した。これは、アラキスにクルーを派遣してつくったドキュメンタリーのようなサウンドが、本作には必要という考えだ。「あまり人工的な音に聞こえないようにしました」と、グリーンは言う。

そこでふたりは、怪獣映画の常套手段にとらわれず、遠くの危険を知らせるワームサインを「ヒラヒラ」という音で表現した。デスヴァレーにハイドロフォン(水中マイク)を持ち込み、砂が動く音を録音したのだ。

サンドワームが口を開ける音は、人間や動物の音を加工したものを重ねて「ゴロゴロ」という音をつくった。ふたりはその具体的な例を挙げようとはしないが、「特にエキゾチックなことはなかったと思います」と、マンジーニは言う。

サンドワームが動く音には、木の皮がきしむ音や、つる植物がねじれる音なども使用されている。スパイスを収穫する機械を丸ごと飲み込むときの音には、マイクを口にくわえたマンジーニが大量の空気を吸い込む音が使われている。

その結果、アラキスそのもののような、まばらで印象に残るサウンドが生まれた。一般的なSF映画のような派手なサウンドとは大きく異なる。

「わたしがドゥニについて気づいたのは、一度たりともほかの映画から何かを参考にするように言われなかったことです」とグリーンは言う。「ドゥニはほかの映画を、何かをしてはならない例として使うのです」と、マンジーニは付け加える。

こうしてサンドワームは、ほかの映画に登場するモンスターとは一線を画す存在となった。ヴィルヌーヴは恐怖心よりも、スクリーンに登場するサンドワームに畏敬の念を抱いてもらいたいと考え、マンジーニに「ゴジラを上回る神にしよう」と伝えたのである。

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TEXT BY ANGELA WATERCUTTER